シェアリング・エコノミー

善如悠介

近年、「シェアリング・エコノミー」という単語を耳にする機会が増えました。その時、AirbnbやUberなどがその代表例として挙がることが多い印象です。総務省の平成27年版情報通信白書 [1] によると、以下のように定義されています。

“「シェアリング・エコノミー」とは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットがある。”

もう少し新しいものだと、Eckhardt et al(2019)[2] は以下のような定義を与えています。

 “a scalable socioeconomic system that employs technology-enabled platforms to provide users with temporary access to tangible and intangible resources that may be crowdsourced”

具体的に言うと、AirbnbやHomeAwayでは、利用されていない居住スペースが、UberやLyftでは旅客輸送サービス(使われていない自動車と労働力のセット)が個人間で取引されているというわけです。他にも、GetaroundやTuroのようなカーシェアリング・サービスや、WardrobeやTulerieのような衣服のシェアリング・サービスも存在します。海外では、Boatsetterというボートを貸し借りするためのサービスも人気のようです。また、TaskRabbitは、家事や日曜大工等の作業を他人にアウトソーシングすることを可能にするサービスです。

これらのサービスの中核は、貸主と借主(もしくは、サービスの提供者とその受け手)をマッチングするためのプラットフォームの存在です。そこには「市場の二面性」[3] が存在し、「借主がたくさん集まるプラットフォームには、多くの貸主が集まり、多くの貸主が集まるプラットフォームには、多くの借主が集まる」という間接的「ネットワーク外部性」[4] が働いています。さらに、「各個人はその時の状況に応じて貸主にも借主にもなれる」という点もシェアリング・エコノミーの特徴の1つかもしれません(Choi & Zennyo, 2019)[5]

これらのプラットフォームは、取引における様々なルールを決定します。最も基本的なものは手数料率の決定です。例えばAirbnbは、貸手には3%、借手には6~12%(宿泊料金に応じて変動)の手数料率を設定することで需給のバランスを調整しています。また、Uberは需要が供給を大きく上回ることが予想される場合には、一時的に運転手への報酬を引き上げることでダイナミックに需給の調整をしています(サージ・プライシング)。他にも、利用客と運転手の双方がお互いを評価できるようなレーティングシステム(またはレビューシステム)も用意されています。これらの事後評価機能は、他にも多くのプラットフォームで活用されており、取引相手の品質に関する情報の非対称性を解消する役割を果たしています。

こういったサービスの普及に伴い、我々の消費スタイルは「所有」から「共有」に変わりつつあります。今後、この傾向がますます進むのであれば、製造・流通・小売などの業種を問わず、多くの企業が新しい時代に合わせた転換を強いられることになるかもしれません。例えば、製造企業は製品ラインナップをどのように調整すべきでしょうか? 具体的には、ニッチな製品が増えるでしょうか? それとも減少するでしょうか? これらの製造企業の変化は、流通企業にどのような影響を与えるでしょうか? また、小売企業の品揃え形成や、マーケティング戦略はこれらの変化にどう対応すべきでしょうか? 最後に、消費者厚生は改善するのでしょうか? それとも負の影響を受ける可能性もあるのでしょうか?

これらの問いに答えるための研究がすでに始まっており、今後もさらに増加することでしょう。シェアリング・エコノミーの発展が、世の中を消費者にとってより便利なものに変えることは明らかですが、各種企業への影響を通じた間接的な効果も含めて、より包括的な効果測定が今後の重要な研究トピックの1つになることでしょう。

参考資料
  1. 総務省「平成27年版情報通信白書
  2. Eckhardt, G. M., Houston, M. B., Jiang, B., Lamberton, C., Rindfleisch, A., & Zervas, G. (2019). Marketing in the sharing economy. Journal of Marketing, 83(5), 5-27.
  3. 神戸大学MBAホームページ ビジネス・キーワード「市場の二面性
  4. 神戸大学MBAホームページ ビジネス・キーワード「ネットワーク外部性
  5. Choi, J. P., & Zennyo, Y. (2019). Platform market competition with endogenous side decisions. Journal of Economics & Management Strategy, 28(1), 73-88.

Copyright © 2020, 善如悠介

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