研究科長・学部長挨拶

今日、私たちはAIがあらゆる問いに対して即座に「答え」を提示してくれる時代に生きています。効率性や情報収集のスピードが飛躍的に向上する一方で、私たちは一つの大きなリスクに直面しています。それは、自ら深く考え、本質を見極め、まだ見ぬ可能性を思い描くという「知のプロセス」をスキップしてしまうことです。

しかし、真にビジネスを動かし、組織に変革をもたらすのは、既成の答えではありません。MBAという場において、皆さんに強く求めているのは、単なる知識の習得にとどまらない「問うべきものを見極める力、そして思考力と想像力の徹底的な鍛錬」です。

ビジネスの現場には、データの統合やAIの予測だけでは解決できない「正解のない問い」が溢れています。そうした混沌とした状況下で、解くべき真の課題はどこにあるのかを鋭く抽出する「問いを見極める力」。論理の力で考え抜く「思考力」と既存の枠組みを超えて未来を描き出す「想像力」。この三つの力で道筋を切り拓くことこそが、これからのリーダーにとっての重要な武器となります。

本学の「理論と実践」の伝統に基づく神戸大学MBAのユニークなカリキュラムは、この知の往還を促すためのものです。実務の困難な課題を学術的な視点で解体し、極限まで問い、考え、未来を描き抜く。その苦闘のプロセスを仲間とともに経て得られたものは、一生消えることのない皆さんの財産となるはずです。皆さんの挑戦を、私たちは心から歓迎します。

2026年4月1日
神戸大学大学院経営学研究科長・学部長 鈴木 竜太

MBA専攻長のメッセージ

2025年度のMBA教務委員に引き続き,新MBA専攻長としてご挨拶させていただきます.

私は,神戸大学大学院の研究者養成コースを2002年に修了しております.もちろん大学院在学中に社会人大学院生の皆さんとも交流がありましたし,修了後には東京都立大学のMBAの立ち上げにも関わらせていただきました.つまり,研究者人生を通じて常にMBA教育に関わってきました.

この間,MBA教育を含めて大学には,様々な変化があったように思います.かつて大学は,比較的自由な教育が許される雰囲気がありました.大学の授業と言えば,教科書を順番に教えてくれるようなことはなく,自分が関心を持っている最先端の研究の話をすることもよくありました.学生は,先生のわけのわからない話を理解するために,教科書を自分で勉強したり,自分たちで勉強会を開いたり,自助努力が求められたのです.同時に,それが大学生活の醍醐味でもありました.深夜に及ぶまで続く研究仲間との議論は,かけがいのない時間でした.神戸大学MBAのプロジェクト方式,みなさんに大学生活の醍醐味を大いに楽しんでもらう仕掛けでもあります.

他方で,皆さんに提供する授業の内容は変わってきました.先生のわけのわからない授業に変わり,世界標準のテキストに基づいた体系的知識を学ぶコア科目が提供されるようになりました.理論を学ぶだけではなく,理論を使いこなすために,海外のケーススタディをたくさん取り上げる工夫も行ってきました.神戸大学MBAでの一年半の学びは,より効率的に提供されるようになったかもしれません.

しかしながら,じつは,当初コア科目の導入に対する学生の評価は二分していたのです.誰でも読める教科書的な授業なんて,神戸大学MBAにはいらないというわけです.海外のケーススタディについても,AIや翻訳アプリが発達するに伴い,ケーススタディをまとめる作業はさほど頭を使わなくてもよくなりました.こうした環境の変化から,神戸大学MBAでは入試科目から英語がなくなりました.

ここにきて我々は再び大学における授業とは何かを問い始めています.おそらくAIはより効率的に世の中の知識を集め,編集し,出力してくれるでしょう.ただし,私たちはすでにAIの危うさも知っています.AIは巷の俗説も集め,また利用者の好みに合わせて巧妙な嘘を含んだ回答を出力してきます.この時代において必要なのは,世界標準の知識でも,大量のケーススタディでもありません.市井に出回っている俗説や流行コンセプトに無批判に飛びつくのではなく,その真偽を見極めるより深い知識なのです.神戸大学MBAのコア科目は,それゆえ単に教科書をなぞるような授業ではありません.その背後の学説に基づいた深い理解に唸らされ,ときに教科書を批判することにびっくりすることもあるでしょう.

私たち教員は新しい時代を迎えて,皆さんに提供できる授業内容と方法を日々見直しています.したがって,ひとつ注意してもらいたいのは,先輩やOBのアドバイスを鵜呑みにしないでほしいということです.MBAの学年を超えた繋がりや,同窓会組織の広がりはとても重要です.しかし,私たち教員は決して同じところに立ち止まってはおらず,様々な新しい取り組みを皆さんに提供しています.実験的な段階のものや,失敗するものもあるでしょう.しかし,そうやって生き残った授業は,日本のMBA教育の新たなスタンダードとなっていく.これが,神戸大学MBA教育の理念が,リサーチ・ベースド・エデュケーションである所以なのです.

2026年4月1日
神戸大学大学院MBA専攻長 松嶋 登

MBA教務委員のメッセージ

大学の教員となってから長いですが、いつの頃からか、学生たちには「楽しく真面目に学べ」という言葉をかけ続けてきました。つまり、「楽しく不真面目に学ぶ」のは良くないし、「つまらなく真面目に学ぶ」のも良くないし、ましてや「つまらなく不真面目に学ぶ」などはもっての外という意味合いです。幸い、わかりやすいフレーズのようでして、何をやりたいのかで迷い始めたとき、学生が自分自身で原点に立ち返るためのヒントにもなるようです。本来、学びは楽しい営みです。また、そうであるからこそ、真面目に取り組めるとも言えます。

常日頃ずっと仕事の忙しさに追われている社会人の方々は、週末ぐらいゆっくりと身体を休めるなり、趣味に没頭したいと思うのが通常の発想でしょう。そうではなく、あえて六甲台を登ろうというのですから、神戸大学MBAの門戸を叩いた皆様、叩こうとする皆様は、「楽しく真面目に学ぶ」ことの大切さを十分に知り尽くしている方々だろうと思います。

神戸大学MBAは「研究に基礎をおく教育」(RBE: Research-Based Education)を重視しています。単に教科書的な知識や技術を「そうなっている」と解説するのではなく、「何故そうであるのか」を論理的に考える場を提供します。これは学術的な研究に身を置く者こそが最善になし得る教育法だと信じています。そこに魅力を見いだした皆様は、きっと「楽しく真面目に学ぶ」ことに関して達人の域にある方々でしょう。神戸大学MBAで過ごす時間が、趣味と言えるぐらいに楽しくなることを願ってやみません。

2026年4月1日
神戸大学大学院MBA教務委員 森 直哉