2013年度ケースプロジェクト発表会

2013年8月3日(土)

今年度は、年度末にMBAプログラムの25周年を迎えることもあり、ケースプロジェクトのあり方に大きな修正を加えることにしました。従来は抽象的なテーマを設定するだけで、ケースの選択、そして業種の選択を各チームに委ねていたのですが、そうすると最終審査では同じ土俵に乗らないケースを比較することになり、審査結果の恣意性が疑われることになっていたように思います。これは審査員の資質ではなく、あくまでも課題設定に起因する問題なので、私の責任においてアクションをとることにした次第です。これからの五年間は、業種を固定して、特定の業界で起きている現象に的を絞ることにより、全チームを同じ土俵に乗せるつもりです。

今年度は、化粧品業界にスポットライトを当てて、あれほど強かったナショナルブランド(資生堂やカネボウ)が衰退の道を歩み始めた理由を問うことにしました。題してリ・フラグメンテーションの研究です。フラグメンテーションとは群雄割拠の状態になることを言います。逆に寡占化が進行することは、ディ・フラグメンテーションとマイケル・ポーターは呼びました。

そのポーター先生のフレームワークを借用するなら、このテーマには5つのアプローチがあると言えそうです。12チームが選んだケースを割り振りながら整理すると、

 川上アプローチ:岩瀬コスファ、日本コルマー、東洋ビューティー、サティス製薬
 川下アプローチ:アイスタイル
 代替アプローチ:ネイルズユニークジャパン
 参入アプローチ(内資):良品計画、ロート製薬、ドクターシーラボ
 参入アプローチ(外資):ラッシュ、ロクシタン
 同業アプローチ:アルビオン

のようになるかと思います。新規参入組は多いので、内資と外資に分けました。アイスタイルの分類は少し迷うところですが、メーカーと売り場の間に入るという意味と、最後は自社店舗を出しているという意味もあり、川下に入れています。

ケースプロジェクト特有の異種格闘技戦の趣は残っている反面、各チームのケース選択の意味が浮き彫りになっており、そこに土俵統一の効果が現れています。審査結果は、岩瀬コスファを取り上げた京阪チームが金賞、日本コルマーを取り上げた宝塚チームが銀賞、東洋ビューティーを取り上げた大阪チームと、アイスタイルを取り上げた京滋チームが銅賞となりました。一瞥すればわかるように、蓋を開けてみれば川上アプローチの圧勝です。

今回は、川上アプローチを採ったチームは、自分たちが何に賭けたことになったのかを明確に意識していました。ゆえに論旨は鋭く、審査員の支持が集まったのもわかります。各チームが相乗効果を発揮し、結果的に川上アプローチの有効性を印象づけた点も指摘しておくべきかもしれません。ただ、サティス製薬は他に興味をそそる側面があり、そちらにチームが流されてしまい、選に漏れてしまいました。

この先は不足を浮き彫りにしてみることにします。これも教育と受け止めていただければ幸いです。

川上アプローチを採ったチームに比べると、他は自分たちが採った選択の意味を充分に咀嚼しているように感じませんでした。そのためポジショニングがぼけてしまい、損をしています。改めて吟味すると、誰とも異なるアプローチを採ったアルビオンのチームあたりは、勝てるポテンシャルがあったのに、それを自分たちの采配によって台無しにした観があります。同じくネイルズユニークジャパンのチームも、自分たちの選択の意味をもっと深く認識すれば、別の強力な攻め方があったはずです。

参入アプローチを採ったチームの敗因は明らかです。ここは事前に予想されたとおり、競合が多く、激戦区となりました。他のアプローチと戦う前に、同じアプローチを採った類似ケースとの差異化が不可欠であったはずなのに、そこに充分に意を用いた形跡が見られなかった以上、ここからメダルチームが出なかったのは仕方ありません。負の相乗効果が働いて、アプローチそのものの正当性を殺いでしまったと言い換えてもよいでしょう。

最後に全体を見渡すと、川下アプローチに空白が目立ちます。アイスタイルは特殊な事例で、販売チャネルの側に優良ケースがあったはずです。そこに一つもケースが出なかったところが、出題者としては最も失望した点でした。

日本人は微に入り細に入りという手口を得意とする反面、戦場や戦況をざくっと見渡す手口を苦手とすると言われます。今回のケースプロジェクトの結果は、そのとおりと言っても過言ではないでしょう。個々のケースの中身に入る前に、全体を見渡す発想がないと戦略性は醸し出されません。そこを教訓として、次に進んでほしいと願う次第です。

なお、リ・フラグメンテーションの解題は敢えて控えることにします。このテーマについては、いつか土俵を変えて再戦に持ち込むので、この コーナーの来年度以降分に注目していてください。

(文責:三品和広)

◆金賞チーム

※金賞チームのインタビューはこちらからご覧ください。

◇銀賞チーム

◇銅賞チーム