2021年度テーマプロジェクト発表会

テーマプロジェクトの様子

例年と同様に1月の初旬(1月8日)にテーマプロジェクト研究の最終報告会が行われました。昨年度はコロナ禍ということでオンラインでの実施となりましたが、今年度は波の間をぬって(シニアフェローの方にはきていただけなかったのですが)審査員(加護野先生、三品先生、藤原先生、黄先生、上林先生)と発表学生は対面で行うことができました。
また、オンラインでも配信され、シニアフェロー、フェローの方々も画面越しに参加していただき、チャット機能での活発なコメントを寄せていただきました。まずは新年早々ご参加のみなさま、ありがとうございました。

8月からスタートした今年度のテーマプロジェクト研究も昨年と同様、コロナ禍のもとリモートでの議論やインタビューを余儀なくされる部分があり、現地をお尋ねすることでわかることや飛沫が飛び交う中での議論による議論の深さや熱さが得られにくい難しいプロジェクトマネジメントではあったと思います。しかし、どのチームもホットなイシューと興味深い事例に取り組んだ跡が見える発表でした。

テーマプロジェクトの様子

本題の最終発表会での発表内容について触れたいと思います。結果から言えば、金賞と銀賞の点差が3点、銀賞と銅賞が3点という差で、上位2チームははっきりとした順位がついたものの、銅賞の3位から2点差の間に7チームが入るという結果でした。金賞のハイキック、銀賞のタンクトップトラベラーズ、銅賞の花の舞のチームのみなさんはおめでとうございました。一方で、惜しくも3位を逃したチームと3位のチームの差は発表順やちょっとした差での結果の違いだったかもしれません。しかし、そこにはやはり差があります。点数が伸びなかったチームも含め、修士論文での捲土重来を誓ってほしいと思います。

◆金賞 はいきっく
「日本型DXの成功事例を解き明かす! ~DX実現に向けたプロセスの考察~」

金賞受賞のチーム

金賞のはいきっくは、どの企業も難しさを実感しているDXをテーマとし、AIによる不動産取引を行なっているSREホールディングス、金属加工製品の自動見積・受発注プラットフォームの提供を行なっているキャディ株式会社を取り上げました。
DXというと、デジタル化しやすいところに目が向きがちですが、DXの成功要因としてデジタル化しにくい部分(不動産価格の評価や金属加工における個別の暗黙知情報)をデジタル化するノウハウをもっていることが成功の要因であり、難しさの要因であることを示し、その上でDXに成功する企業は阻害要因をどのように乗り越えたのかという問いに丁寧に答えた報告でした。
加護野先生曰く「DXのパラドックス」を見出した示唆の多い報告でした。豊かな示唆を与えてくれる報告であったとともに、分析のフレームワークをしっかりと設定しその元で分析に向かったことなど、きちんとした内容であったことも高評価の要因であったように思います。

◇銀賞 タンクトップトラベラーズ
「大企業依存からの脱却を実現する 中小企業の仕組みに関する研究」

銀賞受賞のチーム

銀賞のタンクトップトラベラーズは、テーマプロジェクトでもこれまで多くのチームが取り掛かった中小企業の大企業依存からの脱却をテーマとしました。
問いとしては、資源が限られる中小企業がいかに大企業に依存した構図から抜け出すかという問いに対し、試作ビジネスとその樹脂筐体設計技術を応用した手術用の心臓臓器シュミレーターを作成する株式会社クロスエフェクト社の事例を通じ答えました。
結論は、模倣困難な仕組みを構築と既存事業からのケイパビリティを生かすというオーソドックスなものでしたが、事例を丹念に調べ上げ、そのビジネスの仕組みとその構築を詳細に解き明かしたことも高評価につながった報告でした。問いに文句なく答えようとしたことからか、答えがぼやっとしたものになってしまったことが(反論は出にくいものの)切れ味を鈍くさせてしまったように思います。もう一歩勇気をもって自分達の主張を尖らせることができれば金にも届いた内容でした。

◇銅賞 花の舞
「IT技術導入における企業間実践コミュニティ」

銅賞受賞のチーム

僅差で銅賞を勝ち取った花の舞は、クラウドサービスのユーザーコミュニティである企業間の実践コミュニティの事例を取り上げ、デジタル化における新しいデジタル技術を企業が取り込む際の情報収集をいかに行うことができるかという問題に取り組みました。
マーケティングの分野では、ユーザーコミュニティやオープンイノベーションといったことが言われますが、事例を通してB to Bビジネスにおける企業間のユーザーコミュニティでは各社の秘匿情報があることから、そのことに合意したクローズドなコミュニティが望ましいという結論を導き出しました。
また、このようなコミュニティはサービスの提供者にとってもプラスであると同時に、ユーザーがサービス提供者に対しての要求ができるといった面でも有効であることが示されました。理論面などにおいて注文はつきましたが、事例を半歩深く分析したことが混戦の3位争いを抜け出した要因かと思います。

 

入賞した3つのチームを含む本年度の各チームのテーマと事例は下記の通りになります。

本年度の各チームのテーマと取り上げた主な事例(報告順)
  • ZooでZoom
    日本企業におけるワーケーションの有用性について
    事例:株式会社南紀白浜エアポート、TISインテックグループ
  • EMAS
    成熟人材の活躍を実現する企業戦略と社内マネジメントのケース研究
    事例:株式会社きむら
  • サイレントルーキーズ
    異分野新事業の成功メカニズムの研究 -AOKIホールディングスのエンターテイメント事業における考察-
    事例:AOKI
  • Team Cluster
    日本の医療クラスターを活用し成功したスタートアップ企業の事例研究
    事例:KBIC、Vison Care社、メディカロイド社
  • TARY’s
    最後のフロンティア アフリカに挑む
    事例:Baridi Bridi社
  • 花の舞
    IT技術導入における企業間実践コミュニティ 
    事例:AWSユーザーコミュニティ E-JAWS
  • ポンコツ7
    越境学習で得た個人の知見を活用して、組織は思わぬ収穫をどのように得るのか? 
    事例:山西牧場、Gaiax
  • チームクアトロ
    神戸大MBA発”生涯現役プロジェクト”で日本を救う! 〜DX実現に向けたプロセスの考察〜
    事例:ポーラ化粧品
  • はいきっく
    日本型DXの成功事例を解き明かす!  ~DX実現に向けたプロセスの考察~
    事例:SREホールディングス、キャディ株式会社
  • タンクトップトラベラーズ
    大企業依存からの脱却を実現する 中小企業の仕組みに関する研究 
    事例:株式会社クロスエフェクト
  • シン・ろくばん
    副業の「優秀人材の離職防止効果」と「本業での役割外行動との関係」 
    事例:ロート製薬、LION

 

審査員の先生方

本年度のテーマを見ると、高齢者に関するテーマ、副業やワーケーション、越境学習や実践コミュニティといった組織の外側の活動と学びに関するテーマを複数のチームが取り上げました。いずれも新規事業や新たな取り組み、イノベーションといったことにつながる内容でしたが、ビジネスの最前線で働くMBA生の関心が人材のマネジメントにあることは、人のマネジメントの研究をしている私からすると嬉しいと同時に、日本企業ではやはり問題の解決は人に帰着するのかなと思ったことも事実です。

大事なイシューに関してよく言われることや一見常識に見えることを、事例を一歩踏み込んでみることで、その常識が単純な理解であったことや条件次第では異なる因果が成立することがわかるのがこの事例研究を元にしたテーマプロジェクト研究の醍醐味です。そういった意味では、先入観を乗り越え、事例や理論をもう一歩踏み込んで理解しようとする試みや、そもそもどう問うことに意義・意味があるのかということを思考する試みが鍵になります。その点ではもう少し時間をそこにかけて貰えればと思った発表も多かったです。修士論文ではこの辺り意識しながら進めてもらえれば担当教員としては嬉しく思います。

さて、松尾博文先生の体制から三矢・鈴木体制でテーマプロジェクトを進めてきましたが、今年度で三矢先生が抜け、次年度は梶原先生と鈴木のコンビで進めることになりました。これまでさまざまな絶妙の言葉でテーマプロジェクトのエッセンスを指導してきた三矢先生が抜けられるのは寂しく心細い限りです。
最後に、次年度以降の学生のためにも、三矢先生の言葉をいくつか紹介して今年度のテーマプロジェクトの報告を終えたいと思います。

【ジェンガの法則】
概念や理論を無闇に使うのではなく、この概念や理論がなければ成立しないぎりぎりのところまで概念や理論を外した方が良いという意味。
(鈴木注)研究最終盤では新たに情報を足すよりも引けるものは何かを考える方が有意義になることは少なくない。
【刺身で食べられる】
①変な解釈やフレームワークで説明しなくとも面白いことがわかる、②あまり知られていない(反対語:手垢のついた)といった意味。
(鈴木注)「刺身で」という点が重要であり、事例がよければ特に調理せずとも良いというわけではない。インタビューで聞いてきたことをそのままプレゼンテーションで話すのはまさに生の魚を切りもせずに皿に出すのと同様である。故に、美味しい部分はどこか、どう切ったら一番美味しくなるのかを考えることは必須であり、研究者は漁師であり料理人でもある。
【ツチノコ探し】
自分達の主張を裏付けるこんな事例があったらいいのにと探すのは、時にツチノコを探すように世の中にはないものを探していることがある。
(鈴木注)三矢=鈴木体制で我々がツチノコ探しと思っていた中で本当に見つけてきたのは、2018年度の銀賞のチームの事例である。願えば叶うとはこのことかと思うが、ぎりぎりまでツチノコを探して撃沈したチームも少なくない。
【大谷翔平】
これまでの常識を覆し、だれが見てもユニークですごい結果を残している事例のこと。
(鈴木注)タレントの鈴木福さんは大の大谷ファンで野球通だが、彼によれば大谷の凄さは二刀流だけでなく、強打者でありながら盗塁や三塁打など走る部分でもトップの成績を残していることにあるという。このようによく知られた例でも異なる凄さを見つけることも大事な点である。

 

(文責:鈴木竜太)