共有型リーダーシップ

松尾睦

一般に、リーダーシップという概念には「スーパーマンのようなリーダーが単独で組織や集団を率いている」というイメージが根強く残っている。このように、あらゆるリーダーシップ機能を一個人が発揮することを前提とする考え方は「英雄型リーダー・パラダイム(heroic leader paradigm)」と呼ばれている(Yukl, 1999)。

しかし、企業の歴史を振り返ると、単独で会社を引っ張っているかのように見えるカリスマ経営者でも、実際には有能な参謀によってサポートされているケースが多い。たとえば、金井(2005)は、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏、松下電器産業の松下幸之助氏と高橋荒太郎氏、ホンダの本田宗一郎氏と藤沢武夫氏、ヒューレットパッカードのウィリアム・ヒューレットとデイブ・パッカード、マクドナルドのレイ・クロックとハリー・ソンネボーンの例を挙げている。つまり、現実の組織をみると、リーダーシップ機能は、グループにおける複数メンバーによって共有されていることが多い。知識創造が重視される環境へと変化するにしたがい、トップ経営者の英雄的なリーダーシップよりも、組織全体における協働的・分散的なリーダーシップが注目されるようになってきた(Fletcher, 2004; Mehra et al., 2006)。こうしたリーダーシップ形態は、「共有型(shared)」、「分散型(distributed)」、「集合的(collective)」リーダーシップ(Denis et al., 2001)と呼ばれ、「ポスト英雄型リーダーシップ(postheroic leadership)」と総称されている(Fletcher, 2004)。

ここで注意しなければならないのは、リーダーシップが組織全体に広がっていることを強調するあまり、トップレベルのリーダーの役割が軽視され、曖昧になることである。従来のリーダーシップ研究の多くはミドルレベルの管理者を対象としており、意外にもトップレベルにおけるリーダーシップを分析した研究は少ない(Hambrick and Pettigrew, 2001)。トップレベルにおけるリーダーを研究対象とする分野は「戦略的リーダーシップ(strategic leadership)」論と呼ばれ、フォロワーとの関係を構築する活動だけでなく、戦略的活動やシンボリックな活動も対象としている点に特徴がある(Vera and Crossan, 2004)。

筆者は、患者中心医療を実践している3つの病院(淀川キリスト教病院、聖隷浜松病院、医療生協さいたま)を対象として、トップレベルのリーダー(院長、事務部長、看護部長)がどのように病院組織の学習を促してきたかを事例分析した(松尾、2009)。その結果わかったことは、トップレベルのリーダー達の中に、組織の先頭に立って変革の旗振り役となる「変革主導リーダー」と、彼らを陰から支え現場のリーダーとのコミュニケーションを促進する「対話促進リーダー」が存在し、彼らが協力して変革を進めていたことである。

以上のことから、企業におけるリーダーシップを考える際には、トップレベルの「戦略的リーダーシップ」に着目すると同時に、彼らを支える参謀役や支援者にも目をくばり、複数リーダーによる「共有型リーダーシップ」という観点から組織をとらえる必要があるといえる。

  • Denis, J., Lamothe, L. and Langley, A. (2001) “The Dynamics of Collective Leadership and Strategic Change in Pluralistic Organizations.” Academy of Management Journal, 44(4): 809-837.
  • Fletcher, J.K. (2004) “The Paradox of Postheroic Leadership An Essay on Gender, Power, and Transformational Change.” Leadership Quarterly, 15: 647-661.
  • Hambrick, D. and Pettigrew, A. (2001) “Upper Echelons: Donald Hambrick on Executives and Strategy” Academy of Management Executive, 15(3): 36-44.
  • 金井壽宏(2005)『リーダーシップ入門』日本経済新聞社.
  • 松尾睦(2009)『学習する病院組織:患者志向の構造化とリーダーシップ』同文舘出版.
  • Mehra, A., Smith, B.R., Dixon, A.L., and Robertson, B. (2006) “Distributed Leadership in Teams: The Network of Leadership Perceptions and Team Performance.” Leadership Quarterly, 17:232-245.
  • Vera, D and Crossan, M. (2004) “Strategic Leadership and Organizational Learning” Academy of Management Review, 29(2): 222-240.
  • Yukl, G. (1999) “An Evaluation of Conceptual Weaknesses in Transformational and Charismatic Leadership Theories.” Leadership Quarterly, 10(2): 285-305.

Copyright © 2009, 松尾睦

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