芝 誠治さん

アジレント・テクノロジー・インターナショナル株式会社勤務

1 . プロフィールをお聞かせ下さい。

2010年度入学の芝です。祖父が戦艦大和のレーダーを設計したのを手始めに、代々電気系エンジニアとして今日に至ります。私自身10歳から祖父の工場で働き、高専~大学院まで9年間電気工学を学びました。卒業後は測定器会社で電子部品測定器の設計等をしました。みなさんが使っている携帯電話の部品は私が設計した測定器を基準にして作られていると思うと誇りに感じます。2001年に過労による入院をきっかけに開発部から現職NPI-OF&Quality部に移りました。仕事は電気設計改善業務で、開発部が設計した製品を海外工場で生産できるように、回路評価や改善、また、外国人技術者の育成をしています。さらに、海外工場で発生したトラブルの対応もしており、毎日複数の案件が同時進行で進みます。出荷に直結していますのでトラブルが発生したときは他部署との調整も行っており、毎日あわただしいですが現在の仕事にやりがいを感じます。

2 .なぜ神戸大学のMBAを選択されましたか?

経営学の凄いところは、情報が少なかったり、不確定であったりする中で、考え得る最適な解を見出し、それを実行に移し、成果を出せるようにすることです。理工系では情報が少ないときは実験を繰り返し、不確実な物を全て除いた上で結論を出すプロセスが身についています。得られた結論は確実ですが、意思決定が遅くなって当たり前です。しかし、経営学は正反対で、そもそも全ての情報は得られない、また不確実は当然の仮定の上で最適解が得られるよう、仮説、検証のスパイラルを回します。実際に使ってみると意思決定速度が早くなったと実感できます。

さて、神戸大学MBAを選んだ理由を話します。
弊事業所は2001年に日本工場を閉鎖しマレーシアに工場を移転、製造ドキュメントや製造装置を移して生産を開始しました。できあがってくる製品は不良が多く、また想定の2~3倍の人件費がかかりました。なぜだろうと「5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」や「見える化」などから答えを探し求め本を読みあさりました。その時、行き着いたのが「生産システムの海外移転」(白桃書房、2001)潘 志仁著です。この本では、実際に中国の工場に参加し観察するという大胆な手法で5工場を分析されています。研究手法の大胆さに驚き、さらに著者は神戸大学経営学部出身であることに賛嘆しました。それから経営学に興味を持ち、私の課題が経営学のヒト、モノの観点で見るとぴったりフィットすることがわかりました。神戸大学MBAのHPには他にも私の課題に役立ちそうなテーマが数多く研究されており、神戸大学MBAを志願しました。

3 .MBAに在籍されて、今現在の1週間のスケジュールを教えて下さい。

私の1週間の始まりは金曜日からです。金曜日の講義開始は18時20分からで、ネゴシエーションを受講しています。講義の半分程度は実習で、ランダムに選ばれた人と、買い手と売り手に別れロールプレイをします。社会経験が豊富な人ばかりですので、想定と違った質問がどんどん飛び出しドキドキの連続です。以前に官庁勤務の方と交渉したのですが、すっかり相手の方に主導権を握られ安値で買い叩かれてしまいました。実際の交渉でなくて本当に良かったです。ロールプレイ後、奥村教授から講義があります。既に、痛い目に遭っているので、理論が身にしみます。早速、明日から使おう、と。奥村教授は神戸大学に在席していらっしゃいません。金井教授が交渉術で優れた方を探され、世界で活躍されている奥村教授を呼んでこられたのです。神戸大学はMBAのクオリティ向上に積極的な事が良くわかりますね。

土曜日はテクノロジーマネジメント(MOT)と経営戦略の講義です。私は技術者ですのでMOTは今更と思っていましたが、スペースシャトルの爆発事故での経営判断プロセスなど、実際に起こった事例について討議すると今までの考えの甘さ、経営視点での決定プロセスの難しさなどが骨身に沁みます。討議のときJR西日本所属の方の意見は、安全(人命)に愚直なまでに取り組んでおられることがわかり、安全と利益のバランスがいかに難しいかがわかりました。この講義は大なり小なり意志決定プロセスを自社に適用することが出来ますので価値は大きいです。

午後から経営戦略応用研究(通称コジケン)が始まります。まずレポートを提出するのですが、このレポートはセブンイレブンなどの実際の企業を対象に、財務諸表やIRレポートなどを駆使して経営状況や戦略を調査し、さらに今後の成長戦略を提案します。企業を丸ごと調査、提案しますのでレポートはだいたい80ページ以上になります。また、これを個人で毎回仕上げるわけですので寝られない人が続出します。さて、講義では3時間ほど経営戦略について講義があり、その後セブンイレブンの経営戦略について発表と討議が開始します。終了予定は18時30分です。しかし、本当の討議はここからです。発表グループから出された分析や経営戦略について小島教授や他学生が意見を述べ合います。愚直なまで精査していきますので終了は22時付近になります。緊張が続きふらふらですが、この後グループワークの打ち合わせを行います。終了して帰宅する頃には魂を抜かれたようになります。土曜日は私にとって一番厳しい曜日です。

日曜日は、朝一にジムで一汗かいた後、神戸大学の院生室で予習・復習(主にレポートの作成)をします。院生室は広く、清掃も行き届いており教授の部屋よりきれいです(笑)。冷暖房完備かつパーティションで区切られているので、勉強に集中できます。また、分からないところがあるときは図書館に行きます。図書館は土日も開館しており、驚くのはその蔵書の多さです。一般蔵書は一般にも開放されています。さらに、世界の論文など特殊蔵書があり、それらを置いている建物は教員か学生しか入れません。ぶち抜きで1階から5階までたっぷりあり、整理整頓されています。私は、この図書館でぶらぶらすることが好きです。また、疲れてモチベーションが下がったときは校内を散歩します。いつも金井教授のベンツ(AMG)が止まっており、「ああ、金井先生も日曜日だというのに研究に取り組んでおられる、私も頑張らなければ」と奮い立たせられます。

平日は帰宅時間がばらばらですが必ず2時間以上勉強しています。と言うかこれぐらいしないと全然講義について行けません。神戸大学MBAに入学を検討されていらっしゃる方は1週間全てが勉強に費やされると覚悟された方が良いと思います。

4 .ゼミではどのようなことを学ばれていますか?また、専門職学位論文に向けて現在どのような研究に取り組まれていますか?

ゼミは始まったばかりですが、内容の濃いゼミになっています。これから書く私たちの修士論文がどの程度の内容でどの程度の品質をゴールにするべきかを知る為に、これまでの優秀論文をそれぞれが分析し発表します。優秀論文なのでこれでいいじゃないかと思うのですが、鈴木一水教授をはじめゼミ生から不備な点を指摘し、今後どのようなところに注意しなければいけないか討議します。日頃は優しく物静かな鈴木教授がズバスバと問題提起されると研究室はピーンと緊張感が漂います。鈴木教授の変貌を見て、流石プロフェッショナルだと感じます。
私の書こうとした研究テーマが既に修士論文に適さないことがわかり、研究テーマ探しを慌ててしています。しかし、松尾博文教授や小島教授、金井教授など1to1で研究テーマについてお話を伺うと、修士論文のテーマは勿論ながら、私自身のキャリアプランについても目標が見えてきそうです。年明けまでに、研究テーマをある程度決めることを目の前の目標にしています。

5 .神戸大学に入学してから、今までを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。

神戸大学に入学し驚きと感動の連続です。まず、学生はその道のスペシャリストです。医師や銀行員、食品関係、鉄道、エンジニア、事務職、営業職など千差万別です。神戸大学株式会社が出来ます(笑)。いろいろな立場で討議されるわけですから、自分の知見の狭さが身に沁みます。また、講義だけでなく24時間メールでやりとりしていますので平日も息抜きが出来ません。勿論ぶら下がり禁止ですので、いかに自分がアウトプットするか大変苦心します。
自社の課題を教授に聞いてみると、教授の話は視野が広いことを思い知らされます。教授はまず課題や私の責任範囲を超え、会社全体としてどう、社会全体(世界も含む)から捉えて、そこから物事を見るトップダウンで話をされます。私もトップダウンで考えたつもりが視野が狭く、ボトムアップの考えに固執していることが良くわかります。

6 .今後のキャリアプランについてお聞かせ下さい。

日本の技術者はグローバル化という大きな荒波の中で、開発期間は短期になり、開発費も削減されています。製品出荷前には不眠不休で開発を行いますが、製品品質は十分と言えず、出荷後、製造歩留まりの悪化や、顧客不具合の対応に追われ、日本の技術者は疲弊の一途をたどっています。私は、「生産システムの海外移転」などの文献に触れることが出来、技術者でいることに、再度楽しみを見出しました。そこで、卒業後も神戸大学と関係を保ち(出来れば社会人博士課程に進学)、技術者のみなさんが少しでも幸せになれるよう、論文発表等の機会を通じて貢献したいと思っています。

7.残りの学生生活に関して、どのような希望をお持ちでしょうか。

研究テーマや講義も大切ですが、経営学の第一線で研究をされている教授陣ともっと1to1で日本の技術者や生産について討議したいです。お会いする度に次々と知見が得られることに感動しています。

今後は、感動を実力に変え、研究テーマを通して技術者の一助になればと思います。そこでまずは講義をしっかりこなして、土台固めをしていこうと思います。さらに、諸先輩方の論文を数多く読み込み、私の課題をいかに研究テーマに結びつけていくか精査したいです。