吉形 圭右さん

有限責任 あずさ監査法人 勤務

1 .プロフィールをお聞かせ下さい。

2020年度入学の吉形圭右と申します。私は大学時代から公認会計士試験の勉強をはじめ、阪神・淡路大震災のあった1995年に公認会計士第2次試験(現 論文式試験)に合格し、TAC株式会社で公認会計士試験講座の簿記専任講師を1年間務めた後、1996年に朝日監査法人(現 有限責任 あずさ監査法人)に入社しました。今までに監査で関与させて頂いた上場会社は数十社あり、企業規模は連結売上1兆円超から数百億円規模と幅広く、業種もメーカー・商社・小売・金融等と多種多様です。現在は、パートナーという立場から、主にM&A関連のアドバイザリー及び上場企業の会計監査の責任者として業務に従事しております。

2 .なぜ神戸大学のMBAを選択されましたか?

私が神戸大学のMBAを目指したのは2点あります。社内外のそれぞれの立場から簡単に述べます。

1点は、監査業界で約四半世紀を過ごす中で、自分自身の目線が低く狭くなっているのではないかという危惧を抱いたからです。立場上、上場企業の経営者の方々とお話させて頂く機会も多いのですが、会計専門家としての目線でしか話をすることが出来ず、ビジネス全体を俯瞰したアドバイスが出来ていないのではないかという懸念から、多角的・多面的な視点を体系的に学びたい、という想いが募ってきました。

もう1点は、社内での立場上、事務所運営の意思決定に関わる機会が増えるとともに、部下への指導や指示を行う機会も増えてきました。そのような中で、自分自身の過去の経験のみで意思決定や指導を行う状況に陥っているのではないかという危惧を抱きました。そこで、経営理論を体系的に学ぶことで、理論と実務を総合的に俯瞰した意思決定や判断が少しでも出来るのではないか、という想いが募ってきました。

上記2点を踏まえて、経営理論を体系的に学ぶ機会を模索しました。そしてMBAというキーワードに気づきました。社会人MBAを調べてみたところ、神戸大学MBAであれば、週末のみでMBAを取得できるため今のキャリアのままで学ぶことができる点と、理論と実践を行き来しながら気付きが得られる可能性が高い点に魅力を感じ、門戸を叩いてみることにしました。

3 .MBAに在籍されて、今現在の1週間のスケジュールを教えて下さい。

原稿執筆時点の2021年6月では、既にゼミ以外の講義は終了しています。ゼミは毎週土曜日の午後に行われており、三品和広先生から鋭く奥行きのある実践的な修士論文の指導を頂いています。また週末と平日の夜は、ゼミの論文と悪戦苦闘している状況です。

なお、これをご覧になっている方の中には、神戸大学MBAを目指そうとしている方もいらっしゃるかと思いますので、簡単に1年目を振り返ってみることにします。

2020年4月入学の私たちは、入学前には予想していなかった、コロナ禍の影響により、オンライン講義での受講となりました。その状況は入学後も継続し、対面授業は11月の数週間のみでした。したがいまして、対面とオンラインを比較することも出来ない状況ですので、オンライン講義を中心に記載します。オンライン講義とはいえ、授業はインタラクティブで熱気のある講義が行われています。多士済々の受講生と経験豊富な先生方に刺激を受けながらあっという間に土曜日の一日が過ぎることになります。

振り返ってみると、入学時の4月から年明けの1月までが、相当ハードなスケジュールでした。毎週、土曜日は8時50分から20時20分まで、金曜日も18時20分から21時30分までの講義が続きます。その講義には事前課題と事後課題の提出が課されます。さらに、神戸大学MBAならではの、4月から8月までの「ケースプロジェクト」と8月から1月までの「テーマプロジェクト」が加わってきます。

オンライン授業のため、移動時間が無くなったことが救いではありましたが、課題レポート作成とプロジェクト発表準備等で、あっという間に一週間が過ぎていきます。また、コロナ禍で、飲み会が制限されたために、飲み会に費やしていた時間をMBAの勉強に充てることが出来たことは不幸中の幸いだったかもしれません…。入学時の4月から年明けの1月までは、ひたすら千本ノックを受けている状況でしたので、途中で振り替える余裕はありませんでしたが、今振り返ると、体系的な学びに繋がっていることが良く理解できます。

4.ゼミではどのようなことを学ばれていますか? また、専門職学位論文に向けて現在どのような研究に取り組まれていますか?

経営戦略・経営者論がご専門の三品和広先生のゼミに所属しております。所属するゼミ生も自社の経営戦略を立案して、上司やマネジメント層に建議しようとする方ばかりです。ゼミは最初の半年間はインプットが中心です。三品先生が分析された、膨大な日本企業の定量・定性データをもとに、日本企業の経営戦略の是非を議論しながら、各自が自社にあてはめながら示唆を得ていきます。M2生になると、修士論文の完成に向けてのアウトプット期間となります。三品先生は、修士論文を「建議書」という建付けで取りまとめるよう指導を行って下さいます。「建議書」は、ゼミ生の上司やマネジメント層に対して、自社の経営戦略を具申する、というものです。ゼミ生は、理論と実践を行き来しながら学び取った「事業立地」、「構え」及び「時機」を踏まえて建議書を書き上げていきます。

私の取り組んでいる建議書は「企業のESG経営の加速がもたらす、アカウンティングファームの業務領域の拡大可能性」というものです。企業がESG経営を実践していく中で、様々な変革が行われていくことでしょう。その中で、アカウンティングファームとして企業の様々な経営課題を解決に導くための提言を模索しています。

5 .神戸大学に入学してから、今までを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。

まず、オンライン講義について述べます。入学前は、対面授業で喧々諤々の議論をかわしながら、授業終了後は飲み会を通じてコミュニケーションを深めていくもの、と信じていました。それが、コロナ禍で対面授業は叶わず、受講生全員が初めて顔を合わせたのは、ケースプロジェクトの表彰式の8月が最初でした。その後は再びオンライン授業が続き、11月に数週間だけ対面授業となりましたが、12月からは再びオンライン授業が続いています。
オンライン授業と対面授業のメリット・デメリットは、皆様の想像どおりだと思います。ただ、オンライン授業でも、ゼミ生全員が経験豊富な社会人ということもあり、熱い議論が繰り広げられています。ある意味、先生と受講生の距離が近い(=画面上はフラット)なので、予想以上に話が広がることもままあります。
コミュニケーションの起点となる飲み会は、もっぱらZOOM飲み会となっています。慣れると、終電を心配しなくて良い、というメリットも感じられるようになりました。

次に、実際の講義を受けた感想を述べます。入学前は、「〇〇マトリックス」や「△△フレームワーク」を駆使したスマートな経営理論を学ぶものだろう、と思っていました。
しかし、実際には、様々なケーススタディを通じて自らが考える、という基本動作に立ち返ることの重要性を学びました。時間がない中で形だけのフレームワークにあてはめて提出したレポートは、先生方にバッサリと見抜かれてしまうとともに、徹夜で考え抜いて自画自賛しながら提出したレポートも、先生方にバッサリと論破されて厳しい点数で返ってくることもままありました。当時は納得できないところもありましたが、現時点で、改めてレポートを見直してみると、何が足りないのか、良く分かってきました。今まで見えていなかったものが見えるようになってきていることを実感しています。

次に、神戸大学MBAの魅力の一つである「ケースプロジェクト」と「テーマプロジェクト」について述べます。これは、ゼミ生が5~7名程度でチームを組んで、数か月かけて各チームでリサーチした結果を教授陣にプレゼンする「プロジェクト研究」です。プレゼン結果は教授陣によって優勝から最下位まで明確に順位付けされるという緊張感と達成感を併せ持つ顔を持っています。ケースプロジェクトは予めチームメンバーとお題が与えられます。テーマプロジェクトはチームメンバーもお題も自分たちで考えて発表しなければなりません。
サポート役の先生方や諸先輩方にアドバイスを頂きながら、チーム自らで考え抜いて、企業インタビュー等を通じて、Something Newを見つけていきます。基本的には講義の後にさらにZOOMを繋いで打ち合わせを重ねていくことになりますし、平日の夜にも打ち合わせを行わないと間に合わなくなります。本当にこれがSomething Newなのか、最後まで迷いながらプレゼンする状況になります。特にテーマプロジェクトは年明けの発表となっており、年末年始は最後の総仕上げとして、正月休み返上で対応することになるでしょう。ただ、その発表へのプロセスを通じて得られるものは、普段の仕事では得難いものが満載です。自分とは異なる業種や職種の方々と話をしていく中で、新たな気付きが多く得られます。また、調査を通じて、全く知らなかった世界を知ることが出来ます。言葉で書くと伝わりにくいので、これは体感してもらうしかないということが本音のところですし、ここから何が学び取れるかも本人の意識次第だと思います。

6 .今後のキャリアプランについてお聞かせ下さい。

神戸大学MBAで学んだことを活かして判断し、行動に繋げられるプロフェッショナルになりたいと考えています。専門知識と横断知識と実務経験を組み合わせて、ビジネス全体を俯瞰してクライアントに的確にアドバイスすることを目標にしています。そして、MBAで学んだことを職場や社会に還元していきたいと考えています。

7 .残りの学生生活に関して、どのような希望をお持ちでしょうか。

振り返ってみると、1年間をあっという間に駆け抜けて、気付けば、残り数か月となってしまいました。オンライン授業にも慣れましたが、やはり最後は、対面授業で、先生とゼミ生の熱量を感じながら講義を受けたい気持ちで一杯です。そしてゼミ後の飲み会も。いずれも叶わないまま修了を迎えるかもしれませんが…。

コロナ禍を通じて、大きなゲームチェンジとカルチャーチェンジが起こりました。こんな時代だからこそ、社会を生き抜くための力が必要と考えます。神戸大学MBAで学んだことの一つは、知識ではなく答えを導く考え方です。自ら課題設定して解決していく方法ともいえます。すなわち、適切な問を立てることを様々な講義を通じて学んでいきます。そのプロセスを通じて、先行き不透明な時代においても、限られた情報の中から実践的な解決方向性を導き出すことが出来るようになります。

また、神戸大学MBAに集まる仲間は、本当に優秀で才能あふれる方ばかりです。この仲間と一緒に過ごしながら、培われていく人脈も素晴らしい財産になると思います。

自分だけの力ではどうにもならないことが多い時代ですが、神戸大学のMBAを目指すことは、自らの意思で決定できることの一つだと思います。小さくとも大きな一歩を踏み出して自分を変え、そして仲間と一緒に社会を変えてみることに挑戦してみませんか。

前の記事

中水 陽子さん

次の記事

福本 真士さん