山貫幹人 さん

株式会社堀場製作所 勤務 髙橋ゼミ

1. プロフィールをお聞かせ下さい。

株式会社堀場製作所に所属しています、山貫幹人と申します。入学年は2009年です。高橋潔教授のゼミに所属し、組織行動論やリーダーシップの分野を重点的に取り組みました。出身は工学部化学系で、入社時はガス関係の分析装置の製品開発部門に配属され、現在は水関係の分析装置の研究開発を行っています

2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?

週末の授業のみで卒業可能であること、1年半ですべての単位が取得可能なコースがあること、授業料が海外留学や私立大学のMBAに比べ安いことの3つが大きな理由です。企業で働きながらMBAの取得を目指すには、これらは重要な項目ではないでしょうか。また、大学が関西にあることも、私にとっては大きな理由でした。いまやインターネットの普及で世界中どこにいても情報のやり取りが出来るようになりましたが、やはり直接顔を合わせる中でしか得られないものもあると感じています。大学のある神戸と、私の住む京都とは、近すぎず遠すぎない距離で、通学時には頭の切り替えもできつつ、いつでも顔を合わせられる環境として良かったと思っています。

また、私が経営学を意識したのは、企業人のキャリアアップについて調べたのがきっかけだったのですが、一番はじめに手に取ったのが、神戸大学の金井壽宏教授の著作でした。そこで、研究面からも、神戸大学は行きたいMBAの一つでした。

3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?

かなりの部分が達成できたと思います。それまで、ビジネス書などで聞きかじっていた中途半端な知識が系統的に整理できましたし、社内ではなかなか知り合えなかった様々な立場の友人も得られました。また、10年間の会社勤務で、なんとなく感じていた閉塞感が、MBAの講義での分析や、メンバーとの他愛もない会話を通して、少しはすっきりした気がします。ひとつ小さな例を挙げると、弊社では毎月、全社で誕生会が催されるのですが、10年にもなると、正直なところ、気乗りがしないことも増えてきました。しかし、こういった誕生会は、あまり他社にはないということでうらやましがられたりして、昨年は久々に、前向きに参加したように思います。また、弊社の社是は少々変わった社是なのですが、毎日のように目にしているからか、余り意識することがありませんでした。それが、自己紹介する都度、社是について聞かれるので、自分でも意識するようになり、最後は修士論文のテーマにも取り上げてしまいました。MBAに進学する前に比べ、経営学に関する知識も増えましたが、自社について多面的かつ有機的に理解でき、当初の目的以上の成果でした。

4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。

MBAに通っていることは、身近な人にしか伝えておらず、また学業を仕事の言い訳にしないことを上司と約束していたので、両立には悩みました。金曜夜にも興味を惹かれる授業が多かったのですが、定時に上がると梅田での授業開始時刻に間に合わないため、本当に聞きたい講義があるときには、就業時間を30分前にずらしてもらいました。また、平日・土曜と、仕事と勉強に追われるため、体力的に厳しい面もありました。誰もがぎりぎりまでやるわけですが、体力的な限界は人それぞれだと思います。私自身、それほど体力があるわけではなく、体調のコントロールも課題の一つでした。両立する、ということを、すべて100%のパフォーマンスでしようと思うと、風邪をひいて休むことも申し訳なく思うことがあります。自分の気持ちの整理をつけることも悩ましいですが、少なくとも仕事に関しては、突発的なことがあっても業務が滞らないような仕事の進め方を、試行錯誤しながら見つけていきました。早め早めに仕事をお願いしたり、やってほしい仕事だけでなくその仕事の背景まで説明したりしておくことで、突発事態があっても滞りなく仕事が仕上がるようにしておくことにも気を使いました。

また、いくつかの講義では、自社を対象として分析を行うこともありました。これは、働きながら学ぶ、ということ のメリットの一つだと思います。しかし、MBAでの分析に必要な情報は、開発部門とは普段ほとんど接点のない部門に情報をもらいに行く必要がありました。一度もあったことのない人に、大学での発表に使う情報、しかも企業内の情報を提供してもらうことは、振り返るとハードルの高いことだったと思います。それでも、皆さん親身に対応してくださいました。いろいろな方の協力をいただき、自社の強みについて経営学的にも理解ができましたし、こういった自然な協力体制も自社の良いところだと再認識しました。日々の仕事をする上でも役に立つ人脈となっています。

5. 神戸大学の修学環境についてお聞かせ下さい。

週末だけで修了できるプログラムは、大変魅力的でした。もちろん、ぎりぎりの数に抑えられたカリキュラムですので、受けたい講義が受けられなかったことも何度もありました。しかし、制限された状況下だからこそ、自分にとって大切なものが何か、真剣に考える機会となったと思います。仕事・勉学に加え、家族・趣味といった生活全般にいたるまで、何を捨てるか、に踏み込んだ優先順位設定が必要で、自分の根幹を見直す機会になりました。

また、最新知識の単純な詰め込みでは、その知識はそのうち陳腐化してしまいますし、自社での活用・定着といったアクションにすぐに持ち込めない場合もあると思います。私が講義を受けた先生方は、理論的な説明に加えて、理論の限界や、実際の現場に適用していく際の困難などを意識させる内容が多かったと感じました。働きながら学んでいるからこそ、ビビッドに自社での適用とリンクさせながら学ぶことができたと思います。

加えて、我々は、いわゆるリーマンショックの直後の入学でしたので、経営学に関わる方々も、大きな振り返りからの再スタートの時期だったように思います。入学後も、新型インフルエンザでの全学休校や、東日本大震災まで、社会を揺るがす出来事が続いた中での学生生活でした。講義においても、普段の会話においても、社会の中での自分の立場や、個人に比べ影響力の強い企業活動という形で貢献できることは何か、といった面から考える機会も多かったように感じます。

6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?

やはり、神戸大学MBA伝統の、プロジェクト研究は記憶に残っています。ケースプロジェクト、テーマプロジェクトと、熱い議論を交わしたことを思い出します。私の所属したグループは、どちらも紳士的な雰囲気だったように思いますが、それでも最終発表直前になってくると、互いに譲れないところが出てきて、何度も集まって白熱した議論を交わしました。約半年をかけて調査した内容は、いろいろな面白さがあり、関わったメンバーそれぞれに思い入れがあります。それを限られた時間で説明できるストーリーとして、かつエッジを立ててまとめるというのは、正解のないハードな体験でした。

講義では、キャップストーン科目として設定されていた、金井壽宏先生の組織行動論IIが印象に残っています。講義の中で、自分のキャリアアンカーを調べる機会がありました。キャリアアンカーとは、自分がどうしても犠牲に出来ない価値を8つのタイプで示すものです。自分のキャリアアンカーを知った時に、これまでのキャリアの中での迷いが少し晴れた気がしました。

もうひとつ、加護野忠男教授の特別講義が記憶に残っています。講義の中で、マルハナバチと航空力学のお話がありました。マルハナバチは体の大きさに比べ羽が小さく、航空力学の理論からすれば、飛ぶことが出来ないそうです。しかし、こういった理論とは関係なしに、マルハナバチは今日も空を飛んでいる、と。(現在は理論的に解明済み。)企業・経営者と経営学の関係も同じで、理論的な背景も大事だが、気にせず飛んでみれば飛べるかもしれない。理論を勉強するだけでなく、まずやってみる、ということを、このエピソードからも気づかされたと思います。また、この加護野教授の特別講義自体も、マルハナバチのエピソードに良く似た経緯で実現したものです。我々の本来のカリキュラムでは、加護野教授が担当される講義は設定されていませんでした。同期生の中にも加護野教授にあこがれて入学したメンバーがおり、入学時のシラバスを見て、彼らが大変残念がっていたことを覚えています。そんな中、通常のカリキュラムの中に、朝の一コマ目だけ授業が開講されない日がありました。彼らが、ダメもとで加護野教授や関係の先生方と交渉してくれた結果、本来存在しなかった、加護野教授の講義が実現しました。加護野教授のお話も、一コマだけにもかかわらず、書ききれないほどの面白いトピックに溢れた講義でしたし、実現にこぎつけた同期生のがんばりとともに、私の印象に残っています。

また、私の所属していた高橋ゼミの団結力も触れておきたいことのひとつです。我々は、高橋ゼミのMBAでの1期生に当たり、当初は、学生も、おそらく先生も、かなり戸惑いながらのスタートだったように思います。他のゼミの話を聞いては焦ったりもしたのですが、みんなで何とかしよう、という雰囲気だけはあったように思います。合宿をしたり、実際に論文を書き始めたりする中で、その協力関係が研究にも活かされ、TAの服部泰宏准教授の丁寧なサポートや、高橋潔教授の常に変わらぬご指導の結果、最終的にはゼミに所属するメンバー全員が2年以内に修了することが出来ました。また、高橋杯というゴルフ大会も開催されるなど、修了後もゼミの交流は続いています。

7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

とにかくアクションしてみる、ということの重要性を肌で感じたのが、私にとっての大きな変化です。理系出身だから、というわけでもないでしょうが、入学前の私のやり方は、やるまえに十分考えて、うまく行きそうなプランを立ててから開始する、というものでした。神戸大学のMBAに通っている間は、こなさなければいけないことが膨大にあり、うまく行くプラン、というものが、すぐには思いつきません。どうやったらうまく行くかを考えているうちに、2、3日あっという間に過ぎていき、結果的に、仕事や宿題にかけられる時間が減ってしまいます。そのため、迷う時間を減らし、わからなくても何かアクションをしてみる、という行動パターンを学びました。

もちろん広い視野から、本当に大切なことは何かを考えることも必要だと思います。修士論文の作成では、この視点について、みっちり指導されました。自分にとっての軸が定まることで、膨大な作業の中からどの順に手をつけていくべきか見えてきます。

また、同期生の中には、私と同年代(30代後半)でも、会社や事業全体を見ているメンバーもおり、刺激を受けました。入学前の思い込みとして、偉い人は平社員と違う考え方をしているのではないか、というのがあったのですが、彼らと話していると、考え方のベースはそれほど変わらないものだ、と感じました(多少おこがましいとは思いますが)。ただし、判断すべき内容が全く違いますし、彼らの判断に数多くの部下や従業員の運命がかかっていることは間違いありません。責任がなければ気楽に選べることでも、その結果が及ぼす影響を考えていくと判断をためらうこともあると思います。そのギャップを知ったことも、大きな経験だったと思います。

8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。

今何か迷っている方、是非、一歩踏み出してみてください。MBAへの進学を迷いながら、このホームページを見ている方であれば、ぜひ受験してみてください。すぐの進学をためらっている方も、応募書類の申請だけでもやってみてはいかがでしょうか。動いてみると、自分の中で気づくこともありますし、何か変わってくると思います。

今回このような機会をいただき、学生生活を振り返ってみて、気づいていても出来ていないことが、まだたくさんあると思いました。それでも、1年半の学生生活で、同期生やそうそうたる先生方、あるいは研究・調査で伺った企業の方々など、様々な分野で活躍している方々と触れ合うことで、自分の知らない生き方を知ることが出来ましたし、自分の人生をより良い方向に変えていく手がかりを見つけられたと思います。ここをご覧になった方にも、何か一歩踏み出して、次へのきっかけをつかんでいただければ、と思っています。

 

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