下垣有弘 さん

朝日新聞社勤務 2008年度修了生 加登ゼミ

1. プロフィールをお聞かせ下さい。

下垣有弘(しもがきありひろ)と申します。朝日新聞社に勤務。現在は大阪本社広告局で映画会社や放送局、イベント興行会社などの業界企業を担当する広告営業セクションのマネージャーをしています(入社21年目)。2007年度入学。加登豊研究科長のゼミに所属し、2008年秋修了しました。

2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?

私が勤務する新聞社をはじめ、放送局などのマスコミ業界では、今期末(2009年3月期)決算が創業以来初の赤字となるところが続出しそうです。インターネットによる情報流通革命が引き金となって顕在化した複合的構造不況とも言える状況ですが、その兆候はかなり前からありました。実感としては2000年(もしくはITバブルが崩壊に向かう2001年)あたりが潮目であったと思います。ちょうどこの頃、自らの仕事にも管理職的な要素が入り始め、新聞社を一企業として考えることが多くなりました。株式を公開していない新聞社の経営において最優先すべき事項は何か。今後どの方向に進むべきなのか。コマーシャリズムとジャーナリズムをトレードオフさせない経営戦略は可能なのか、等々。経営についての知識を深めたいとの思いからビジネススクールにも通いましたが、通り一遍の知識を得るにとどまり、到底実戦の役には立ちません。2006年春に二度目の大阪本社転勤となったことから一念発起、神戸大学MBAに挑戦しようと考えました。“KOBE”を目指した最たる要因は、教授陣の層の厚さ、プログラムの幅の広さ、経営学における歴史の長さ、そしてロケーション&トータルコスト。これらを勘案し、神戸大学を志望しました。

3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?

簡単に答えが得られるはずがないことは当初から覚悟しておりました。実際、自らが学びたいと考えていた言論報道機関などメディア関連企業の経営や、コーポレート・コミュニケーションを専門に学ぶカリキュラムは用意されていません。けれども、それらは全てビジネスシステムや経営戦略、マーケティング、組織行動、管理会計、マネジメント・コントロールなどを学ぶことで考える基盤を習得できるものであり、そのような分野において神戸大学のMBAに欠けているものはないと思います。従って、インプットする情報が不足することはありません(自らのメモリー容量と処理速度の絶対的不足を嘆くばかり)。問題は、アウトプットとして形にすることができたのか、ということでしょうか。この点については、神戸大では修了にあたって必ず専門職学位論文を書かねばなりませんが、この論文を書くという作業によって得られたものが非常に大きかったと思います。論文ではある一定の結論を導き出すことが要求されます。その過程で自分の中にあった問題意識がより明確になり、自問自答を重ねてアウトプットを導出するプロセスを経て、何がわかり、何が課題として残ったのかが明らかになりました。

また、私は加登豊先生のゼミに所属させていただいたのですが、加登先生は専門分野以外の領域においても非常に見識が深く、企業との連携や他大学の教授とのネットワークの広さも大変なものです。学外でのセミナーや会合にも、院生の立場でお手伝いする機会をつくってくださり、そこで学んだことも多かったと思います。

4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。

二つの試練を乗り越えねばなりません。一つは仕事との両立。二つ目は家庭を含めて、私生活との両立。独身の方は二番目の試練の重みは比較的少ないでしょうが、健康面で気を遣い、支えてくれる人の存在がないとセルフコントロールは却って大変かもしれません。仕事は、それぞれ抱えている問題も立場も異なるでしょうが、自ら仕事をマネジメントすることができないと1年半以上続く大学院生活との両立は厳しいものになります。期間中の仕事のパフォーマンスは少なからず落ちると覚悟しておいた方が良いかもしれません。それでも、だんだんペースが掴めてきますし、学びを実践しつつ行う仕事の質と効率が高くなってくることも実感できると思います。但し、職場での会議における自分の発言がだんだん辛辣な内容に変化していることも多くなり、だらだら続く会議が我慢できなくなってきます。気をつけないと社内で煙たがられる存在になりかねません。会社のメンバーの大半はMBA生ほど“こなれていない”ことを肝に銘じましょう(自戒をこめて)。

私生活について、私の場合は二人の子供が中学生と小学校の高学年になり、遊び相手としての親の役割から若干解放されたため、週末の通学も可能だと判断しました。(家族には想像以上の負担をかけてしまいましたが。)また、2年前から犬(黒ラブ)を飼いはじめたのですが、朝の散歩は私の担当で、早朝から1時間ほど家の近くの夙川を海辺まで歩くのが日課です。課題レポートが立て込んでくると、どれだけまとまった時間が確保できるかが勝負となってきますが、朝の散歩だけは毎日続けました。私の場合この習慣は、健康の維持と思索の場として大変有効だったと思います。とくに半年以上向き合わねばならない論文の執筆にあたっては、気分転換にも、新たな発想が生まれてくる時間にもなりました。

2007年度のカリキュラムでは平日授業は週3日、職場に近い中之島図書館に隣接した教室で開講されており大変ありがたかったです。講義が終わって職場に戻り、仕事再開ということもしょっちゅうでした。週末に六甲台キャンパスで過ごす時間も自分にとっては最後まで新鮮で、静かに知的興奮をかき立てられる図書館などはお気に入りの場所です。同期生たちの姿にも励まされました。一緒に走り続けられる仲間の存在は大きいですね。大学生活と仕事の両立は笑ってしまうくらい厳しいときもありましたが、そんな状態も楽しみながら何とか乗り切ったというところでしょうか。

5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。

By the Job Learningを前提としたカリキュラムはよく考えられたシステムです。小グループで一定期間取り組むプロジェクトと、個人で学ぶ専門科目を並行して受講していくことで、経営学の知識を一気に深めていくことが出来ます。修了に必要な履修単位数は他大学院よりも少ないくらいかもしれませんが、全ての講義を受講することは現実的に無理でした。良かったと思うことの一つは、熱意と創意に溢れた講義が受けられたこと。先生方一人一人の人柄と姿勢にも魅了されました。もう一つは、よく言われることではありますが、ここに集うMBA生との人脈を築けたこと。異なるバックグラウンドを持ち、それぞれの分野でキャリアを積んできた仲間とともに議論し、切磋琢磨する中で自分がストレッチされていくことが実感されました。

6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?

加登先生(ビジネスモデル)の課題・参考図書満載のシラバスに入学前から驚かされ、入学早々にある三品先生(ゼネラルマネジメント)の講義では、その洗練されたパフォーマンスによる洗礼を受けました。金井先生と高橋先生(組織行動)の贅沢なコラボレーションや、小川先生(マーケティング)セレクションの多彩なゲストスピーカー、ハードワークを要求される小島先生(経営戦略I・II)の熱く長い夏のセッションなどなど。どれも神戸大学MBAでしか受けることのできない授業であり、今思い出しても鳥肌ものです。入学してすぐに始まるミニプロジェクトでは、「ミスカリキュレーション」を起こした企業を選定し、なぜそうなったか原因を特定するミッションでしたが、同じグループとなった個性豊かなメンバーの高いポテンシャルにショックを受けつつも、「共に学ぶ」ことを教わりました。8月、発表会の日に合わせて同期全員で拵えた揃いのTシャツは、スクールカラーのエンジ色に『HARDWORK』(ハードロックカフェ風)のロゴ。先生方にも着ていただき、六甲から三宮まで70人で街を練り歩きました。

また、「コジケンレポート」(前述小島健司先生の課題)作成中は、グループメールが24時間飛び交い(今も継続、その数2000件超)、チームメンバー全員で“朝をリレー”しているようでした。1年半は短いようで長く、その間には家族が具合を悪くすることもあって勉強どころではなくなったり、異動のため仕事の優先度が上がり、修論の進行が停滞したり、いろいろありました。

最も印象深く残っているのは論文作成とゼミです。私たちのゼミは先生の方針で早くから自らのテーマ確定に向けて動き始めました。当初仲間内で「放牧」と言われたゼミのスタイルでしたが、春合宿あたりからエンジン全開となり、以降はゼミの度にハードルが高くなっていきました。振り返ってみれば、そのマイルストーン設定が絶妙のタイミングであったことがわかります。また、繰り返し先生が話されていた言葉を論文執筆中に思い出すことも多く、「なるほど、そういうことか」と一人納得する瞬間も度々ありました。

7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

前提を疑い、問題意識を持つこと。具体化し考えること。行動に移し、継続すること。そして検証方法も身に付けました。知識の共有がさらに大切であり、高いレベルで考えられる人たちが周りにいることの強さも体感しました。また、「互助」というありがたい言葉の意味を知り、感謝することも覚えました。世に「中年の危機」という言葉がありますが、私の場合もその節目に差し掛かっておりました。このタイミングで再び学生生活をおくり、仕事を続けながら学んだことで「危機」を乗り越えられた気がしますし、確実に「一皮むけた」のではないかと思っています。

8. これから受験を考えているみなさんへアドバイスをお願いします。

かけがえのない時間を得ることが出来ます。選択肢はいくつかあるでしょうが、敢えて選び取る意義が神戸大学MBAにはあります。相当な人脈を築くことも結果として可能です。通学に際しては様々な障害があると思います。正直「もう少し早く来たかった」と思わなくもないですが、準備も含めて、私にはこのタイミングしかなかったのです。みなさんも機会を逃さないでください。合格必勝法は恐らくありません。逆に言えばチャンスが多いということでもあります。実務を通じて抱く比較的大きな問題意識を、冷静に分析して、“KOBE”で何を掴み取りたいのか、どうして今ここでやらなければダメなのかを、自分の言葉で説明できることが最低限必要だと思います。

土曜日の朝、神戸の海を眼下に、眠気を振り切って登る六甲台の石段。講義を終えて、澄んだ夜気に透き通る夜景を見つつ、再び下る坂道。そして神戸で、大阪で、エネルギーに溢れた同期生たちと酒を酌み交わす時間、というのもいいものです。問題に対する結果をどう創り出していくかは修了後も続く課題ですが、その過程で得られるものは果てしなく大きいと断言します。是非、神戸大学MBAの門をたたいてください。