松岡佑季 さん
関西労災病院 勤務 2020年度修了生 鈴木竜太ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
松岡佑季です。兵庫県で生まれ育ち、滋賀医科大学医学部を卒業後、神戸の病院で2年間研修医として勤務し、2013年から尼崎の関西労災病院で内科医師として勤務しています。現在、医師10年目ですが、これまでのキャリアは、腎臓内科、透析の専門医として医療分野のみで生きてきたバリバリの専門職人です。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
元々、10年間は医師としての修業期間だと思っていましたが、その後はもっと幅広く世界を広げたいという思いがありました。医師として一般的な業務をしていく中で、高齢化に伴う医療資源不足、介護、過剰医療の問題や、働き盛り世代の受診遅れ、通院継続困難で本当は救えたはずの健康が損なわれる現状、急性期病院における看護師不足の問題等々…医療業界の中だけでは解決しない問題が多く存在することを実感しました。次に自分が向き合うべき課題がそこにあるのではないかと思ったときに、MBAでそれを実現するための手段を得られるのではないかと思いました。
神戸大を選んだのは、自分が特にビジネスと直結する仕事ではないので、明日すぐに使えるビジネススキルというよりも、よりアカデミックに自分が現在抱いている問題意識に取り組みたいと思ったからです。神戸大のプロジェクト研究や修士論文作成というカリキュラムがそれを叶えてくれるのではないかと思いました。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
私が神戸大で学んだ最も大きなことは、『それは、問うべき問いなのか』という言葉です。私自身、急性期病院の臨床医として、現場で限られた時間の中でベストの判断を下していくことは経験を積んできました。一方で、1つの物事についてじっくりと考えるという時間は、ほとんど持てていませんでした。受験前は自分の持っている問題意識を解決するための手段を得ることが目的でしたが、学んでいく中で、そもそもの問題意識の本質について考える機会を多く得ました。なぜそれが問題なのか、どうしてそれは解決できないのか、本当に取り組むべき課題はそれなのか。神戸大MBAは、修士論文という形で日本を代表する経営学者の先生方がゼミ担当教員として、自分達の実際の業務の中で抱く問題意識に表層的な提案ではなく、そこに潜む根源的な問題まで問題意識そのものを掘り下げて検討することに付き合ってくださいます。それは苦しい時間ではありますが、ここに来たからこそできた自分の人生にとって、とても大切で贅沢な時間だったと思っています。当初の目的であった問題解決の手段までは、まだたどり着いていないですが、そもそもの解決すべき問題を捉える大切さとその方法を学ぶことができました。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
職場の上司には、受験する段階で相談し、土曜日の当番業務は免除していただきました。それ以外は、当直などもこれまで通り行いながらのMBA生活でした。1年目の秋ごろは、病院関連の講義が平日夜に2日入ったこともあり、週3日分の課題・グループワーク・授業に加え、仕事の資格試験も重なり、かなり睡眠不足な日々でしたが、研修医時代の忙しさを思えば…と気合で乗り越えたところがあります。
とは言っても、平日の夕方などは仕事が終わらないときもあり、基本的にはMBA優先で帰らせて頂いたりと職場の理解と協力があったことは、とても大きかったです。病院では、MBAと言っても何のことか全く知らない人がほとんどでしたが、そういう人ほど受験前からきちんと周りの協力が得られるかを確認しておくことは重要だと思います。
5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。
必修講義として、ヒト・モノ・カネの各分野をしっかりと網羅できたことで、ビジネスについて全くの門外漢であった自分にとっては、経営学の全体像を掴む上でとても勉強になりました。また、グループワークを通して、企業研究やチームメイトの企業の話を聞くことで、よりリアルにビジネスの現場の雰囲気を知ることができたことも大きな経験です。
何よりも修士論文の作成は、大変さもそこから得られた経験も入学前にイメージしていた以上のものでした。実際にインタビュー調査として、自病院の病院長や看護部長などに日頃の疑問や問題意識をぶつける機会を得て、普段はなかなか聞けないような話をMBAという名目を使って聞くこともできました(笑)。
6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
テーマプロジェクト研究で金賞を頂けたことは、とても嬉しく、印象深い思い出です。私たちの班は、「生産財企業における外観デザインの価値創出に関する研究」を行いました。「デザイン」という言葉は、最近のトレンドでもあり、デザイン経営やデザイン思考など、それぞれの人の中にその言葉の持つイメージや定義が異なります。人に何かを伝えるにあたって、前提条件を説明しきれないことには、研究成果は伝わりません。自分たちがデザインをどう定義し、どの範囲をフォーカスし、どんな結果を得たのか。それを伝えるために班員の中で「デザイン」という言葉の定義について、たったそれだけを何日も何時間も嫌というほど議論しました。今思えば、意見が異なるメンバーが集まり、お互いが譲らずに議論を続けた結果が、金賞という結果に結びついたのかなと思います。多様なメンバーと前提条件を共有することの難しさとその価値を知ることができた貴重な経験です。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
一番は視座が変わったと思います。これまでは、いち勤務医として医療行為を行いながら、組織や社会に対して問題意識をぼんやりと感じていました。しかし、MBAで経営を学んだことで、“健全な病院経営を行うことと医療倫理とのジレンマ”や“目の前の患者と日本の今後の社会保障”など自分にとって、スケールの大きかった問題がより具体的になり、自分事として、そこで果たすべき役割や責任を感じられるようになりました。今後は、より具体的な活動ができるところに移って、ここでの学びを実践していくつもりです。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
神戸大MBAは、他と比べても年齢層は高めで大企業の経営層を担う人材をメインターゲットにしていると思います。では、それに当てはまらない人は行く価値がないか?そんなことはありません。確かにビジネス用語は全然わからないし、まじめに書いた自信作のレポートにD判定を食らうこともありますが、自分はダイバーシティ枠だからと開き直っていました。わからないことは周りに聞けば何でも教えてもらえます。社会人MBAの面白さは、これまでのキャリアからの経験をお互いに与えあえるところにあると思います。面接では、ここへ来て何がしたいのかを問われます。ここで何が学びたいのかだけでなく、自分は神戸大MBAに何を与えられる人であるのかも重要だと思います。マジョリティーではない人こそ、それは大きなアピールポイントになるはずです。
私は、MBAではできるだけ多くビジネスに触れる機会を持ちたいと、日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)や日英産業事情応用研究(RST)など学外活動にも積極的に参加していました。体力的に大変なこともありましたが、そこでの経験や仲間との時間は、他では得難い経験だったと思います。企業人ではないからと言ってしり込みするのではなく、興味があればぜひ飛び込んでみてください。