ファミリービジネスを科学する
2022年4月に、神戸大学大学院経営学研究科内に、ファミリービジネス研究教育センター(MUFGウェルスマネジメント寄附センター)が設置され、事の成り行き上、筆者が、本センターのセンター長を担当することになった。
これまで経営学において、ファミリービジネスはどちらかというと中心から外れた特殊なテーマと位置付けられてきたように思われる。非ファミリービジネスと比較すると、ファミリービジネスの経営手法が後進的であったり、ワンマン経営者による不透明な意思決定、時折表沙汰になるファミリービジネスをめぐるお家騒動や不正を目にして、あまりよいイメージを持っていない人も少なくないかもしれない。
ただし、こうしたファミリービジネスに対する負のイメージが変わりつつある。その背景として、一見後進的であるとみなされがちなファミリービジネスの経営成績が、非ファミリービジネスと同等か、それを上回っていること、長寿企業にファミリービジネスが多いこと、新産業・新サービスによる成長分野においてファミリービジネスが大きな貢献をしてきたこと、ファミリービジネスが雇用や地元企業との取引関係を通じて地域経済に重大な貢献をしていること、社会課題の解決のための資金提供者としてファミリービジネスの役割が高まりつつあることなどが挙げられるであろう。
日本におけるファミリービジネスをめぐる学術研究は、海外に比べて著しく遅れている。企業のほかに創業家という家族の顔を持つファミリービジネスは、一般の企業経営に比べてより複雑であるため、科学というよりもアートの領域であると考える人も少なくないであろう。ファミリービジネスの事業承継に伴う混乱やお家騒動を目の当たりにすると、科学の力が及ばない領域も少なくないように思われる。一方で、理論やエビデンスを重視する学術研究を実施することで、より確かな知見が得られる領域があることも事実である。ファミリービジネス研究教育センターの使命は、ファミリービジネスに関する学術研究を行い、それに基づく教育を実施することで、日本のファミリービジネスの健全な発展や持続可能性の向上に寄与することにある。
従来、ファミリービジネスに関する書籍というと、テキスト、実務書が多かったが、最近、学術研究をベースに書かれた優れた書籍の発刊が相次いでいる。以下に、いくつか紹介しておく。これらを手に取ることで、ファミリービジネスの科学に触れられるであろう。
オススメの図書
- 淺羽茂&山野井順一『ファミリー企業の戦略原理―継続と革新の連鎖―』日経BP 2022年
- 落合康裕『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房 2016年
- 曽根秀一『老舗企業の存続メカニズム―宮大工企業のビジネスシステム』中央経済社 2019年
- ダニー・ミラー&イザベル・ル・ブルトン=ミラー『同族経営はなぜ強いのか?』ランダムハウス講談社 2005年
Copyright © 2022, 梶原 武久