不正抑止と内部統制:画餅にならない内部統制のために

髙田 知実

このサイトを訪れるようなビジネス・パーソンであれば、「内部統制」という言葉に聞き覚えのある人がほとんどだと思います。トレッドウェイ委員会(支援)組織委員会によって2013年に公表された資料によると、「内部統制とは、事業体の取締役会、経営者およびその他の構成員によって実行され、業務、報告およびコンプライアンスに関連する目的の達成に関して合理的な保証を提供するために整備された1つのプロセスである」と定義されます。日本では、2007年に施行された金融商品取引法において財務報告に係る内部統制の有効性に関する評価を経営者に求めたことで、経済用語としても市民権を得たように思います。それから10年以上が経ち、財務報告目的に限らず、企業の中で有効な内部統制を構築することは、当たり前のこととして受け入れられているのではないでしょうか。

しかしながら、実際には、本当に内部統制が有効に機能しているのだろうかと、疑わざるをえない状況が散見されます。テーマとして挙げた不正が、その一例です。私の専門分野は会計ですので、不正といえば、いわゆる粉飾決算のような不正会計がすぐに頭に浮かびます。規模の大小はあれども、毎月のように上場企業による不正会計(正確には、不正会計が疑われるような事例)が発覚しています。また、企業におけるその他のタイプの不正として、近年多く発覚しているものといえば、工場で製造される部品等の検査不正でしょうか。いずれのタイプでも、不正は多様な利害関係者に悪影響を及ぼすものですから、少ないに越したことはありません。

それでは、こういった不正が起こるのはなぜなのでしょうか。大規模な不正が起こった後、上場企業はその原因に関する報告書を公表する場合が多いのですが、いくつかの事例を確認する限り、内部統制を「整備」はしたものの「適切に運用」していなかったケースが少なくないようです。つまり、様々な手続きは決めているのだけれど、その通りには実行していないというわけです。分かりやすい事例としては、現金の適切な管理のために、銀行口座から現金を引き出すには、2人以上の承認が必要という内部統制上のルールは整備したものの、実際には1人で現金の引き出しが可能となっているような状況です。これでは、せっかくの内部統制が画餅になってしまっています。したがって、内部統制を整備したあとには、それが適切に運用されるために、人々の行動を促す仕組みが必要になってきそうです。

近年、「仕掛け」や「ナッジ」という言葉が、さまざまなところで使われるようになっていることをご存知でしょうか。厳密には異なる意味をもっていますが、平易な表現を使って概念を説明するのであれば、この2つは、人の行動を(より良い方向に)誘導するための仕組みといえます。財務報告に係る内部統制制度は、先にも書いたように金融商品取引法によってその整備と運用が求められるものです。この、「法令によって求められる」ことから、内部統制について私たちは、「強制的」というイメージを持ち、人の行為を締め付けるような、あるいは裁量を無くすようなものと理解してしまっているのかもしれません。しかし、北風と太陽の話が示しているように、人の行動を変えるのは、必ずしも、強制的に求められたり締め付けられたりすることではないはずです。内部統制の運用においても、「仕掛け」や「ナッジ」の知見を生かすことができれば、人の行動をうまく誘導することができ、結果的に、企業における不正は、いつの間にかほとんど無くなっているかもしれません。

以上の話は、「内部統制と不正」、「仕掛け」、および「ナッジ」の3つがキーワードになっています。これら3つのキーワードを理解するために適したハンディーな書籍を、ここで3つ紹介しますので参考にしてください。不正を完全に無くすことは難しいかもしれませんが、現状の問題を軽減するヒントは隠されていると思います。

オススメの図書
  • 青野奈々子(2019)『不正事例で基礎から学ぶ—コーポレートガバナンス新時代の内部統制』第一法規
  • 大竹文雄(2019)『行動経済学の使い方』岩波書店
  • 松村真宏(2016)『仕掛学—人を動かすアイデアのつくり方』東洋経済新報社

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