統計学のお隣さん:数学と情報

丸山 祐造

私の専門は統計学です。専門分野の本を素直に紹介しようと思ったのですが、統計学やデータ分析については過去に各務先生保田先生が紹介されていて、実は念頭に置いていた本がかぶっていました。それで分野を変えることにします。神戸大学に赴任する前は東京大学で文部科学省のプロジェクトである数理・データサイエンスの大学教育への普及に関わっていました。データサイエンスは数学、情報学、統計学を基盤として、データに基づいた意思決定のための科学的方法論です。そんなわけで、統計学の隣接分野であり、データサイエンスの基盤でもある数学と情報に関する本を紹介したいと思います。

数学

『チャート式シリーズ 大学教養 微分積分』 加藤文元 監修/数研出版編集部 編著
『チャート式シリーズ 大学教養 線形代数』 加藤文元 監修/数研出版編集部 編著

皆さんの中には、高校時代にチャート式の問題を繰り返し解いた人も多いのではないでしょうか? 昨年から今年にかけて、大学教養レベルの数学である線形代数と微分積分のチャート式が出版されました。大学レベルの数学の教科書の章末問題は、その解答がなかったり、あるいは略解だけで初学者の参考にならないケースは数多く見受けられます。その点チャート式はご存知の通り非常に親切で、すべての問いに対して「指針」「解答」があり、問いによっては「参考」「注意」「補足」があるという形式です。目次に従って、数列の収束を厳密に論じるイプシロン・エヌ(ε-N)論法から始めてみましょう。局所的関数の振る舞いである微分は、統計学において最尤推定量の導出の基礎になりますし、局所的な振る舞いの大域的な集積である積分は、確率の計算の基礎になります。また、大規模なデータをデータ行列とみなして、線形代数の視点から回帰分析を理解出来れば、初心者の域を脱したと言えるでしょう。皆さんはもう社会人なので、赤点も追試も制限時間もなく、ただ数学を楽しめる立場になりました。チャート式はその良き相棒になるはずです。
関連して、豆知識を披露します。特に微分積分では関数のグラフを書くことが問題を解く上で助けになります。Googleの検索バーで「x^2-1」「sin x」「x^2-y^2」のように入力してみて下さい。最初の検索結果にグラフが表示されます。極大値や極小値などがグラフで簡単に確認出来るので是非試して下さい。

情報学

『情報 第2版 東京大学教養学部テキスト』 山口和紀 編

この本は東京大学教養学部1年生の必修の講義「情報」のテキストです。
目次を見ると、その硬さに尻込みするかもしれません。そんな方には新学習指導要領が2022年度からスタートする高校の「情報Ⅰ」の内容を知って頂きたいのです。もちろん教科書はまだ出版されていないのですが、文部科学省のホームページで「情報Ⅰ」教員研修用教材が公開されていて非常に参考になります。

第1章 情報社会の問題解決
第2章 コミュニケーションと情報デザイン
第3章 コンピュータとプログラミング
第4章 情報通信ネットワークとデータの活用
という4つの単元が情報Ⅰで扱われます。これを全ての高校生が必修で学ぶことになります。

さて、今回紹介する本の話に戻ります。ざっくり言うと、上記の高校の学習内容の上位互換です。本の前書きから、少し抜粋します。
「世の中ではともすると、『情報の習熟』=『コンピュータの操作の習熟』と一面的にとらえ、情報機器や応用ソフトウェアの活用能力のみを重視しがちである。」「本書の内容を学び理解することによって、情報を本来の形で考え、その表現や伝達、【略】、情報社会で生きるための素養などについて、筋の通った視点を獲得することが出来る。」
高校時代に上記の内容を本格的に学んだ若者が10年以内に皆さんの会社に入社してきます。是非この機会に皆さんも情報の基礎に再入門しましょう。

数学と情報

『プログラマの数学』 結城浩

「数学ガール」シリーズで有名な結城浩さんの本です。本の帯には「プログラミングに役立つ『数学的な考え方』を身につけよう」とあります。もちろんプログラミングに役に立つ数学ではあるのですが、必ずしもプログラミングに興味がなくても、数や論理に興味があれば楽しめる本です。コンピュータを用いて問題解決する際に、その手順を定式化したのがアルゴリズムであり、そのアルゴリズムに基づいてコンピュータに指示をするのがプログラミングです。みなさんがビジネスにおいて直面する問題の解決にも、きっと新しい視点を与えてくれるはずです。いくつかの章のタイトルは以下の通りで、魅力的な副題が印象的ですね。

ゼロの物語 – 「ない」ものが「ある」ことの意味 –
数学的帰納法 – 無数のドミノを倒すには –
順列・組み合わせ – 数えないための法則 –
再帰 – 自分で自分を定義する –
計算不可能な問題 – 数えられない数、プログラムできないプログラム –

全ての章が、「はじめの会話」「この章で学ぶこと」【内容】「この章で学んだこと」「おわりの会話」という風に読者に優しい構成となっています。また前書きに書かれている通り「読み進めるのに必要とする知識は、四則演算と累乗くらい」ですので、パズル感覚で気軽に挑戦して下さい。

今回は、「経営」とは直接関係のない本の紹介となってしまいました。仕事に疲れたり、経営関係の本に飽きてしまった、というときに参考にして頂ければ幸いです。

 

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