2018年度テーマプロジェクト発表会

2019年1月5日(土)

本年度は、テーマプロジェクトの狙いをより明確にしたシラバスを作りました。昨年との違いとして、「仮説」という用語の使用を止めるとともに、必要最低限のケースの数を3から2に削減しました。というのも、仮説という用語を提示すると、どうしても先行研究から抽出した因果関係をケースで「実証」するアプローチになると感じたからです。また、仮説作りに没頭するあまり、ケースの探索が遅れ、結果的に素晴らしいケースに出会えないチームもありました。

そもそも、先行研究で言われた仮説をケースの中でなぞるだけではインパクトはありません。私たちは、ケーススタディの妙味は、実証よりも、発見や深堀りにあると考えています。その過程で先行研究の助けは必要となりますが、実務家としての自分たちの直感や経験も信じ活用してほしいと思います。主観的な直感や経験と、客観的データのロジカルな分析との同時成立こそがチャレンジとなります。

指導では、ケース数は少なくていいので、刺身でも食えるような新鮮な素材を見つけることを強調しました。先行研究や通説を覆すようなケースを選定し,多面的に徹底的に調べあげ、一見非合理とも思えるような因果関係をwhyのアプローチで深掘りしなければ高い評価は得られません。優れた実務に潜む「もう一つの」「新しい」論理を探り出すこと、聴き手を共感させるように伝えきることができれば、テーマプロジェクトの研究としては成功だと考えます。

MBA学生がプロジェクトに熱い想いと時間と能力を注いでくれたこと、上位チームが素晴らしい研究を行った点は昨年までと同様ですが、上記の指導方針の修正の成果として、極端にレベルの低い発表が無く、全チームの研究が一定水準を超えたのではないかと思います。

12チームが、20分の発表と10分弱の質疑応答を行い、7名の審査員(加護野先生・伊藤宗彦先生・黄先生・鈴木竜太先生・松尾貴巳先生・三品先生・シニアフェローの飯田豊彦氏・井上喜文氏・武田克己氏・田中彰氏・廣地克典氏・福嶋誠宣氏・丸山秀喜氏)が5点満点で評価・審査しました。審査員の皆様に心より御礼申し上げます。ここにあげました研究へご協力いただきました企業や関係者の皆様だけでなく、とりあげなかったものの協力してくださった企業ならびに関係者の皆様、アドバイスをいただいた専門家の皆様、大変ありがとうございました。

 

チーム名、発表のタイトル、主なケース対象企業は、発表順に以下のとおりとなりました。

  • Team 金剛組
    「長寿企業が持つ「継続力」についての研究~ 創業100年企業について~」
    長瀬産業、高松建設
  • チーム眠れる獅子
    「眠れる技術資産の活用への道~眠れる獅子よ、カーブアウトにより覚醒せよ~」
    SPEED SUPLY、Aikomi
  • 神戸牛
    「M&Aにア・イ・タ・イ」
    共栄、三洋貿易、subLime、ヨシムラフードHD、タイヘイ
  • レインボー4
    「偏見や固定観念により隠されている市場に対するアプローチ手法の検討~LGBT市場との向き合い方~」
    パナソニック、ワコール、典雅、ニューコネクト、丸井グループ
  • チームブラウン
    「”遊び心”が企業に与える影響~ムダなものが組織の生産性に与えるインパクト~」
    日本マイクロソフト、アマゾンジャパン、リジョブ、Legaseed
  • もぐもぐのTen王
    「中小企業経営者の意思決定に関する考察【どうしてウチの社長はIT投資をしてくれないのか?】」
    三元ラセン管工業、大洋製器工業、植山織物、アッシュ、農業総合研究所
  • ツートップ
    「人材育成改革によるサービタイゼーションの実現」
    帝人、ソフトバンク、ジュピターテレコム、森永乳業、サントリー、三和建設工業
  • Team 逆襲の田川 金賞
    「チャレンジャー企業の新たなマーケティング~コミュニティを活用したビジネスの研究~」
    スノーピーク、クレハ、DeNA、大王製紙、カルビー
  • 土日は〇〇おもいっきりテーマプロジェクト
    「日本の重厚長大企業が再び成長軌道を描くために必要な人的資源管理(HRM)とは? 成功事例に学ぶ人材育成『変革』の着火点と潤滑油」
    トヨタ、日産、三菱商事、日立製作所、京セラ、パナソニック
  • 本マグロのカマ 銀賞
    「21世紀型企業スポーツ ~成功のためのDos & Don’ts~」
    平林金属、タカギ、富士通
  • チームQx
    「京都流ビジネスモデルの形式知化~地域特性を生かした事業の転地戦略とプロセスの見える化の実現~」
    島津製作所、尾池工業、近江屋ロープ、宝ホールディングス、村田製作所、イセトー、佐々木酒造、三洋化成、近畿車両、川崎重工
  • チームウルソ 銅賞
    「企業と女性が共に成長するために~自己効力感工場による中長期的キャリア概念〇〇の提案~」 
    武田薬品工業、サイボウズ、資生堂、ストライプインターナショナル

ここでは、上位3チームの研究について紹介します。

◆金賞 Team 逆襲の田川

今年は全体的に接戦でしたが、その中で上位2チームは4点や5点をつける審査員が多く、他のチームを圧倒していました。これらは、リサーチクエスチョンの焦点が絞り込まれ、ユニークな事例を選び、深堀した、インパクトのある研究だったと言えます。

Team 逆襲の田川は、ブランドコミュニティを題材として選びました。「市場の規模に対してコミュニティの参加者は少ない。では、売上アップのために、企業はどのようにコミュニティを活用しているか」というリサーチクエスチョンです。彼らは研究の出発点において、コミュニティの規模に注目していました。それがフィールドワークを通じて、コミュニティの規模よりも質の方が重要であること、すなわち質の高いコミュニティが生み出すリアルな経験やストーリーの発信の必要性こそが重要であることに気づきます。次に、発展的リサーチクエスチョンとして、「企業はどのようにコミュニティの質を向上させるのか」を設定し、フィールドワークを続行します。彼らが発見した「コミュニティ参加者の新陳代謝によってマンネリ化を防ぐ」「企業側ですべて用意をせずに、余白を作ってコミュニティ参加者にも運営に参加してもらう」「あえて参加に対してハードルを高くして、参加者に特別感や責任感を持ってもらう」という結論は、意外性もありながら、なるほどと腹落ちするものでありました。一連の結論がもたらす実務への含意は、ブランドコミュニティに対して消極的な企業、潤沢なマーケティング予算を確保できないチャレンジャー企業にも重要な示唆を与え、希望を抱かせるものであります。本研究は、テーマプロジェクトの狙いにも合致する見事なものだと思います。Team 逆襲の田川の皆さん、あらためておめでとうございます。

 

◇銀賞 本マグロのカマ

  金賞チームにわずかに及びませんでしたが、本マグロのカマチームの研究も、フィールドワークを通じて通説を覆すユニークなものでありました。近年増加する企業スポーツの休廃部について、世間では「企業がスポーツチームを保持することは合理性がなくなってきた。せいぜいCSRとしての役割しかないのではないか」と考えられています。彼らは、誰も疑わないような通説を疑い、それとは逆、すなわち中小中堅企業でありながら全国トップクラスのソフトボールチームを所有している企業を見つけ出しました。その企業ではソフトボールが「取引先拡大」「事業拡張」「生産性向上」の点で事業価値を向上させていることを明らかにしました。実際にこのような成功事例は僅かであり、統計的に処理すれば外れ値となるでしょう。本チームはケース企業を何度も訪問し、多面的に情報を集めて徹底的に深堀りし、小さくてもキラッと光る含意を見つけ出しました、彼らの努力には敬意を表したいと思います。

 

◇銅賞 チームウルソ

チームウルソは、女性活躍推進、特に育休制度に着目しました。育児中社員が抱えるコンフリクトや悩みについて、組織論の理論を援用しながら、ケースからのファインディングスを丁寧に読み解きました。本研究からの提案は、3つあります。第一に、管理職自身が育児もキャリアと捉えて育休中社員の育成を真剣に考えること。第二に、会社が育児中社員に対して働き方を強要するのではなく、本人に選択をさせること。第三に、社員が自分の将来をどう考えるかについて、社員だけでなく、家族も巻き込み、家族が支えること。そして、これらによって、育児中社員が自己効力感を維持できるという主張をしています。そもそも女性活躍推進は、複雑に因子がからみあって明快な答えを導き出すのが難しい問題です。ともすればケースバイケースと片付けられたりもします。本研究は新しい概念を創出するなど意欲的な取り組みを行ったことが高い評価につながりました。

 

テーマプロジェクトの成績評価は、発表会でのチーム順位だけでなく、発表会後に各人に提出してもらう内省レポートも加味して行います。内省レポートは、発表に至るまでの思考のプロセスや、チーム運営にまで言及されており、参加者が深い学びをしたことがうかがえます。

概ね優れたレポートが多いのですが、今回、気になったのは次の2点です、第一に、上位入賞チームが必ずしも良い内省を出来ているわけではありませんでした。むしろ、下位チームの人の方が、謙虚に、深く内省をしていました。上位チームでありながら、この科目の成績評価が低い人は、あらためて内省の仕方に問題が無かったかを内省してもらいたいと思います。第二に、自分たちのチームの発表ばかりに焦点を当て、他チームの発表からの学びが乏しい人も多いと感じました。自分たちの研究に関する情報が多いので、それをち密に分析することは意義があります。その一方、自分たち以外の11チームの発表と、審査員によるコメントを聞く機会があったにも関わらず、その知見が十分に活かされていないのは残念です。そこには、必ずや、新しい気づきもあったはずです。

この学年はこれから最大の難関、修士論文に挑みますが、今一度、テーマプロジェクトをレビューし、良い研究はなぜ良かったのか、悪い研究はなぜ悪かったのかについて広い視野から再検討してほしいと思います。

(文責:三矢裕)