2015年度テーマプロジェクト発表会

2016年2月6日(土)

テーマプロジェクト研究最終発表会は8年目。今回のすべての研究発表において、詳細なケースインタビュー調査に基づいた、首尾一貫した研究となっており、発表もプロフェッショナルに行われたと思います。指導教員として、プロジェクト研究に真剣に取り組んでくれたMBA生に感謝したいと思います。プロジェクト研究では、グループで5か月余りの間に経営にインパクトのある研究成果を生み出すことが要求されています。どのようにハイパーフォーマンスチームを組み、独創的な結果を出すようなチーム運営をするかが問われています。日本では非日常的な体験ですが、最近とみにこのようなグループワークが要求される場面が増えてきているように思います。MBAでは体系的な知識の習得とグループワークでのco-productionとcompassionの2つの要素を学んでいただきたい。プロジェクト研究は、特に後者の意味での学びが大きいと思います。

今年は、11チーム、各チーム20分の発表と10分の質疑応答を14名の審査委員(加護野、國部、南、音川、栗木先生、シニアMBAフェローの明石、井上、山縣、金内、田中、白石、松本、石原氏、そして、指導教員の松尾(博))が評価しました。発表のタイトルとケース対象企業は発表順に以下のようになりました。ここに挙げました研究に協力していただきました企業、これらのケース対象企業の他の多数の協力していただいた企業、神戸大学以外でもアドバイスをいただいた専門家の皆様に、心からお礼を申し上げます。

発表タイトルとケース対象企業・事業

  • 『ビッグデータ:導入から成功に至るまでの見えない壁~製造、物流のデータ活用実践の考察~』(伊藤久右衛門 本店、大阪ガス、富士ゼロックスマニュファクチュアリング、トランコム)
  • 『プロボノが組織に与える影響力~働き方の多様性がもたらすもの~』(農業生産法人株式会社GRA、日本IBM、日本電気)
  • 『中小企業経営者の相談相手に関する研究~意思決定にまつわる不安とリスクにいかに向き合うか~』(はっけん、王宮【道頓堀ホテル】、クロスカンパニー)
  • 『FAMILY BUSINESS』(familiar、京朋株式会社、サン・クレア(Oriental Hotel))
  • 『異業種間のアライアンスにおける成功要因』(セコム医療システムx豊田通商xキルロスカ・グループ(インドの財閥)、株式会社フュービックx山口元紀(元レッドソックス専属トレーナー)、ツタヤxスターバックス)
  • 『下請製造業の生き残り戦略 -Survival Strategy-』(中原製作所、日本テクノロジーソリューション、下里鋼業、是常精工、オオアサ電子)
  • 『仕組みを変える! 社会起業家のイノベーション』(坂ノ途中、Dari K、COS KYOTO)
  • 『創業間もなく海外市場を攻める日本発BGC(ボーングローバルカンパニー)の特徴』(テラモーターズ、CAPABLE、Digital Grid Solutions, Cervo、CyberStep(株))
  • 『『さしすせそ』の海外戦略~和食の調味料はいかにして海を越えるか~』(まるかん酢(米酢)、坂元醸造(黒酢)、服部製糖所(和三盆)、枕崎水産加工業協同組合(鰹節))
  • 『出戻り社員~人材戦略の新たなオプション~』(阪急阪神ホテルズ、塩野義製薬、トッパン・フォームズ、阪急電鉄、JR西日本、NTT西日本、江崎グリコ)
  • 『「オンラインレビュー」が与える企業経営の変化についての研究~継続的な人気を誇る、飲食店からの一考察~』(金久右衛門(ラーメン店)、味酒かむなび(居酒屋)、マンジェ(とんかつレストラン)

金賞は、『「オンラインレビュー」が与える企業経営の変化についての研究~継続的な人気を誇る、飲食店からの一考察~』を発表した「麺’s CLUB」が獲得しました。食べログのオンラインレビューで複数年継続して高評価を得ている大阪のラーメン店、居酒屋、とんかつレストランをケース企業として、その差別化戦略、評判の維持の方法、レビューの活用法を調査するなかで、問題の本質に迫っていきました。こだわりの強い、際立った食とサービスの提供で、急速に拡散する話題の提供というのは、ネット社会のビジネスの第一段階としては分かります。さらに、その人気急増に対応し、味覚部分の特色は固持し、サービス・オペレーション面での対応を柔軟に変化、適応させているということが事例を持って具体的に示されました。専門的なネットデータの分析も示され、議論に説得力が伴っていました。中間発表の時点では、ラーメン店の経営に特化した研究であったものが、飲食店のオンラインレビューという切り口に替えたことで、ネットと企業のかかわりという経営問題の一つの事例という意味で、含蓄のある発表になりました。

銀賞は、『中小企業経営者の相談相手に関する研究~意思決定にまつわる不安とリスクにいかに向き合うか~』をした「金の卵」チームが獲得しました。中小企業の経営者の立場から、人材派遣の(株)はっけん、道頓堀ホテル、アパレル製造販売の(株)クロスカンパニーを事例企業として、経営者のエポックでの意思決定においての相談相手に着目し、どんな人とどんな関係を持っていて、どんなことになったのかをケースに語らせていました。分析の道具として、権威勾配というコンセプトを持ってきて、情報の伝達度合い、議論の闊達度、意思決定のトップダウンの度合い、人間関係というようなことを説明されました。最後は適度な権威勾配、公平感、承認というようなことにまとめられたのですが、3つの事例を無理に足したような結論になっていたのが物足りないように思われます。個々のケースをもっと突き詰め、それぞれ印象の強いものにした方が良かったかと思います。加護野先生は発表に対するコメントで、爆撃機の飛行士部隊についての権威勾配の事例研究について言及され、この場合は、権威勾配が強い必要があると指摘されました。何がこの問題の本質であるか、再考する必要があると思います。

銅賞は『出戻り社員~人材戦略の新たなオプション~』を発表した「チーム梅田で全員集合!」が受賞しました。出戻りの語感は良くないのですが、ブーメラン社員と呼ぶべきものでしょうか。積極的にブーメラン社員を採用する企業、消極的な企業の両方の人事担当者にインタビューをし、また、ブーメラン社員自身にも広くインタビューがされていました。ビジネスの変革の起爆剤として、ブーメラン社員を採用・活用するという仮説はサポートされていたように思います。

今回の入賞3チームの評価は大差なく、他のチームより抜け出ていました。ハイパーフォマンスのチームビルディングと運営ができていたように思います。研究発表の密度というような点では、11チームすべてが優だった思います。しかしながら、全般に論理の首尾一貫性を追求するあまり、20分の発表なかで、それぞれのケース自体が訴えるものが弱くなってしまったような気がします。研究チームが語りたいこととケース自体が語ることのバランスをとることは難しいですが、そこが発表の構成での妙だと思います。物事の本質に迫り、その気づきを共有するような発表を目指しましょう。

(文責:松尾博文)

※2015年度 金賞チームのインタビューはこちら