2022年度テーマプロジェクト発表会

テーマプロジェクトの様子

2022年度の神戸大学MBAテーマプロジェクト研究の最終発表会が、2023年1月7日(土)に開催されました。コロナ禍終息の兆しが見えつつある中、マスクなしとまではいきませんでしたが、対面で発表会を実施することができました。年明け早々に、寝不足の社会人学生が一同に集結し、緊張感のある研究報告が終日繰り広げられる場に立ち合い、ようやく平常が戻りつつあることを実感した一日となりました。

今年度の最終発表会では、名誉教授の加護野先生、次年度ゼミを担当する5名の教員(南先生、忽那先生、三矢先生、松嶋先生、服部先生(鈴木先生の代理))、5名のシニアフェロー(延賀さん、前田さん、坂本さん、中田さん、南さん(オンライン))に審査員をご担当いただきました。この他にも、オンラインではありましたが、MBAフェローの方々にご参加いただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

テーマプロジェクトの様子

今年度のテーマプロジェクト研究は、鈴木・梶原の新体制で臨みました(次年度は担当者の入れ替えがあるので、1年限りの体制となります)。これまでは次年度のゼミ担当予定教員として、気楽に言いたいことを言いながら、審査をすればよかったのですが、今回はそうはいきませんでした。各チームの報告に対する審査結果に学生と一緒に一喜一憂する落ち着かない一日となりました。

今年度の最終発表会の審査結果は、1つのグループが頭一つ抜けていた以外は、稀に見る大混戦となりました。その結果、2位と3位は同点で2チームずつが受賞することとなりました。個人的には、受賞チーム数が増えたことで、表彰という形で報われたチームが増えたのでよかったと思っています。

金賞 蟻×天

金賞受賞のチーム

金賞を獲得したのは、チーム理念として「蟻の念いも天に届く」を掲げる「蟻×天」です。このチームは、アプリやゲームなどのコンテンツで病気を治療・予防する治療用アプリの開発について、大手企業が失敗する一方で、CureApp社というスタートアップ企業が上市に漕ぎつけられた理由の解明を試みました。このチームは、治療用アプリの上市に成功したCureApp社の創業者にアクセスし開発プロセスを詳細に描写する一方で、同様に治療アプリの開発に取り組みながら苦戦している大手製薬企業数社にも丹念なインタビューを実施することによって、両者を比較しながら巧みに問いに迫っています。このチームの結論は次のようなものです。まず、大手製薬会社が治療アプリ開発に苦戦している理由について、製薬開発の中枢企業であるがゆえの保守性に原因があると指摘しています。一方、CureApp社については、それまで製薬開発の辺境にいたことが功を奏し、外界・環境に対する敏感さ、既存パラダイムから外れる新しいコンセプト・組み合わせ、“患者さんのために”という医師としての使命感による心理的エネルギーという3つの要素を創業者である佐竹社長が持ち合わせていたことが成功要因であると分析しています。事例の丁寧な記述と分析、スタートアップ企業であるCureApp社と大手製薬会社の事例比較などの点は、テーマプロジェクト研究の見本のような研究であったと評価しています。これに付け加えるとすると、治療アプリ開発の背後に隠されたストーリーを明らかにし、それを多くの人に伝えたいという強い思いが全メンバーに共有されていたことが、ぶっちぎりで金賞を受賞したもう一つの理由であったと思います。MBA生の皆さんには、プロジェクト研究や修士論文を通じて、「思わず誰かに話したくなる」「多くの人にこのストーリーを伝えたい」と思えるような何かを発見した時の興奮や熱量を経験してほしいと思います。

銀賞 いちごまさや・CLUB33

銀賞は、「いちごまさや」と「CLUB33」の2チームです。

いちごまさや

銀賞受賞のチーム

「いちごまさや」が取り組んだのは、供給過少状態にある非ホワイトカラーのリテンションにどう取り組めばよいのかという問題です。今日多くの企業が実際に直面している課題を、率直に研究上の問いとした点で、審査員やオーディエンスの共感が得られ易かったように思います。このチームは、ワタミと馴染みのないパプアニューギニア海産の2社の事例を取り上げ、非ホワイトカラーの離職率が低い企業が、従業員を画一的な枠・働き方に縛り付けず、フレキシブルに働いてもらうための仕組みを導入し、それを例外なく徹底的に実践していることを発見しています。

CLUB33

銀賞受賞のチーム

同様に銀賞を受賞した「CLUB33」は、「所属企業において新規事業が生まれない」という共通の問題意識をもつメンバーが多く集結し、新規事業を継続的に生み出すために組織はどうあるべきかという問いに挑みました。このチームは、組織の特性や土壌に注目し、JMC、ZEON、村田製作所のケーススタディから、新規事業の継続的な創出において、異質な個の非排除(非排除)、機会の提供(機会)、異質な個の活用の常態化(普遍化)が重要な役割を果たすとの結論を導き出しています。テーマ自体は定番のものではありますが、ケースから巧みに問いに対する答えを導き出した点や自社への具体的な示唆を得ている点などが、高評価されたようです。

銅賞 Last Impact・USK総本家

銅賞は、「Last Impact」と「USK総本家」の2チームです。

Last Impact

銅賞受賞のチーム

「Last Impact」は、近年、産業界で注目を浴びているリスキリングに注目し、日本企業がリスキリングを通じて再活性化や成長するために必要とされるプロセスの解明を試みました。このチームは、将来像が見えない、目に見える成果がない、獲得したスキルが発揮できないというリスキリングに伴う阻害要因を乗り越える上で、経営者による「ビジョン設定と継続的なコミットメント」が必要とされること、1on1・伴走等による「アナログコミュニケーション」が有効であること、組織と個人、「相互利得の合致」により組織化が高まることの3点を明らかにしています。このチームの報告で印象的だったのは、加護野先生が「モデルを使うことで、分かりやすいことが分かりにくくなってしまった」として1点を付けたことです。次年度以降、モデルの使用にはくれぐれも気を付けてください。

USK総本家

銅賞受賞のチーム

もう一つ銅賞受賞チームは、メンバーの多くがモノづくり企業に勤務する「USK総本家」です。このチームは、「過剰品質」がもたらす効用について、機械工具メーカーとして有名なKTC(京都機械工具株式会社)のハイエンドブランドである“ネプロス”を事例としながら検討しています。このチームの結論は、過剰品質製品を開発・製造することに、その製品それ自体の売上高から得られる直接的なメリット以外に、品質向上による他製品の競争力アップ、従業員の技術やエンゲージメントの向上、顧客の意識変容という効果があることを発見しています。審査員から過剰品質をより明確化に定義する必要があるとの指摘がなされた一方で、過剰品質について見落とされがちな効果を見出したことが高評価に繋がったようです。


以上の審査結果について、テーマプロジェクト研究の担当者として、いずれの受賞チームも受賞にふさわしい研究内容と努力であったと評価しています。ただし、受賞することだけが、このテーマプロジェクト研究の成果ではありません。今回受賞とはならなかった他のチームも、同じように称賛に値するとともに、受賞チームが得た学びと同様の学びが得られたものと考えています。
今年度から指導を担当し、テーマプロジェクト研究で課される課題がいかにチャレンジングで過酷なものであるかということを再認識しました。多くの学生にとって、研究をした経験がない中で、研究の意味や進め方が分からないまま、テーマを設定し、事例研究を行い、経営実践について有意義な発見をすることが要求されます。あたかも、泳ぎ方が分からないまま、大海原に投げ出されるようなものです。そのうえ、社会人学生ですから、自らの仕事と家庭生活との折り合いを付けつつ、各授業で課される毎週の容赦ないレポートをこなしながら、その合間で所属企業も年代も性別も異なる多様なメンバーとグループワークを行わなければなりません。時折、溺れかけそうになっているチームもありましたが(受賞チームにもそうしたチームがありました)、すべてのチームが目的地まで泳ぎ切ることができて、本当によかったと思っています。皆さん大変お疲れさまでした。

梶原先生

(文責:梶原武久)