2019年度テーマプロジェクト発表会
2020年1月11日、まだ正月気分も少し残った中、今年度のテーマプロジェクトの発表会が行われました。昨年に続き、良いテーマと問いを理論や先行研究に基づき探し出し、その問いを明らかにするケースを探し出し、問いの答えを仲間とともに考え抜く。そんな経営学研究のプリミティブな姿を大事にしながらこのプロジェクト研究を進めてきました。特に前半は、良い問いを見つけるということに注力するように進めてきました。MBA生にとって良い問いとは、かならずしも学術的に意味があることを指しません。むしろ、学術的には意味が薄くとも、現代の経営環境において、問う意味があることを指します。各チームとも問うべき問いを探しての5ヶ月だったかと思います。
発表会当日は、本学の6名の先生(加護野忠男特命教授、三品教授、原田教授、松尾貴巳教授、松尾博文教授、森村准教授)と9名のシニアフェローの皆様(井上様、福嶋様、飯田様、田中様、在間様、石川様、丸山様、永川様、南様)の計15名の審査員によって進められました。今年は中間報告会で審査をお願いしたフェローの方にもお声がけをして、数名の方がきてくださいました。発表のタイトルと主なケース対象企業は発表順に以下のようになりました。ここにあげました研究に協力していただきました企業や関係者の皆様だけでなく、とりあげなかったものの協力してくださった企業ならびに関係者の方々、アドバイスをいただいた専門家の皆様に心より感謝申し上げます。
チーム名、発表のタイトル、主なケース対象企業は、発表順に以下の通りとなりました。
-
うすしお
「国内医療機器メーカーの海外展開に関する研究」
オリンパス -
チーム和平
「日本の大企業における社内新規事業公募」
リクルート ソニー オリックス 他 -
北田嶋 金子
「凄い労働生産性と稼ぐ力:地方の中小中堅企業の人手不足への処方箋」
CKサンエツ -
出藍之誉
「100年後も生き残る伝統企業の在り方について」
BUAISO 新政酒造 福寿園 -
チーム海南大附属
「M&Aシナジーを実現するPMI:日本電産に学ぶ統合アプローチ」
日本電産 -
AVELOW
「中小企業の多角化について」
アスク工業 保安企画 -
チーム315!
「オムロンの実践する新たな理念浸透モデル」
オムロン -
16/69
「Are You DIVERSish?:見せかけの女性活躍推進 なぜ日本企業の“女活”は進まないのか?」
ダイキン工業 BIG ISSUE ミライロ 他 -
シカオ
「蘇れ!日本の大企業:異業種コラボの成功要因研究」
東レ×ユニクロ -
B&B
「事業変革の成功要因:AI時代を勝ち抜くために」
ワコール 阪急百貨店 他 -
ラッキーセブン
「成長の壁を乗り越えて急成長する中継企業の事例研究」
朝日インテック -
JOYSOUND
「生産財企業における外観デザインの価値創出に関する研究」
スギノマシン シスメックス JMC
ここでは、上位4チームの研究について紹介します。
◆金賞 JOYSOUND 「生産財企業における外観デザインの価値創出に関する研究」
JOYSOUNDは生産財におけるデザインの効果について研究をしました。通常、デザインが価値を産むと考えるのはB to Cビジネスを展開する企業です。しかし、生産財においてもB to Bビジネスにおいてもデザインの価値はあるのではないか、そしてそのありようはB to Cとは異なるのではないかというのがこのチームの問題意識です。
発表では、デザイン戦略に今一つうまくいっていないシスメックスと積極的にデザインを取り入れている企業であるスギノマシンを比較することで、その成功要因とデザインの意義について検討し、客に品質の安心感を訴えることの意義と誰が見ても自社の製品だとわかることからくるアイデンティティや理念の浸透としての機能があることを見出します。そして、その有効な方法として戦略レベルからデザインを入れていくことが重要であることを指摘しました。
テーマそのものの新規性と問題意識やそれによって導かれる問いの明確さ、そして結論に至る論理展開とケースの面白さ全てがバランスよく示された完成度の高い発表でした。自分たちには関係ないと考える生産財企業においてもデザインを一考する示唆を与えてくれる発表だったと思います。金賞おめでとうございます!
◇銀賞 ラッキーセブン 「成長の壁を乗り越えて急成長する中堅企業の事例研究」
中堅企業に関わるメンバーが多いこのチームは、成熟を迎えた中堅企業がいかにしてさらなる発展を遂げるのかという難しい課題に挑みました。その中で、朝日インテックをはじめとする3つの企業を取り上げ、その要因の探究に挑み、その転機と転地の重要性を示した研究でした。テーマプロジェクトでは良いケースに出会えるか、見出せるかという点が重要な要素ですが、ラッキーセブンはラッキーに頼ることなく、丁寧な条件分析の中、朝日インテックという素晴らしいケースにたどり着くべくして、たどり着いたと言えるでしょう。一見地味に見える丁寧なアプローチが、他のチームとは大きく差が出る結果を呼んだといえ、このチームの真摯な研究への取り組みが身を結んだと言えると思います。銀賞、おめでとうございます。
◇銅賞 B&B「事業変革の成功要因:AI時代を勝ち抜くために」
B&BはAIによる事業変革の成功要因について探求しました。その中で、結果的に撤退したZOZOスーツと好評を博しているワコールのAIによるおすすめサービスの違いから、AIを用いたサービス戦略の成功要因、さらにはAIをテコにした事業変革について検討しました。結論として、これまでの顧客基盤があることがAIをさらに有効に活用することにつながり、事業変革をより有効に進めることができることが示されました。ホットなトピックは関心も高い一方で、進行中であることからその成否が定まりにくく、難しいテーマになりがちです。このような難しいトピックであるAIに果敢に挑み、一定の示唆を示すことができたこと、そしてそれら得られた示唆をもとに各メンバーが自社への適用を考え、提案したことなどまさに実行力による銅賞であると言えます。もう少し上へ行けなかったことは悔いも残るかもしれませんが、銅賞、おめでとうございます。
◇銅賞 北田嶋 金子「凄い労働生産性と稼ぐ力:地方の中小中堅企業の人手不足への処方箋」
もう一つの銅賞は、富山にあるCKサンエツをケースにした北田嶋金子が獲得しました。中間発表では下位に沈んだチームの鮮やかな巻き返しでした。テーマの変遷はいろいろあったようですが、その中で良いケースと出会い、それをうまく料理したところが評価されました。特に、地方と都市部の賃金格差を逆手にとって、成果主義にこだわり、地方の中での厚遇の企業というポジションを築いた人事戦略に着目した点は素晴らしかったです。料理とは書きましたが、CKサンエツのケースの良さに救われた部分もあり、もう少し先行研究などが整理されていればより上位もあったかと思わせる発表でした。おめでとうございます。
今年は、金賞と銀賞が1点差という僅差の勝負となりました。また、銅賞が2つ同点で並び、2チームが銅賞となりました。また銅賞と5位のチームとの差も小さく、銅賞から8位までが5点以内という接戦でした。昨年に引き続き、大きく点数の低いチームもおらず、様々な要因で順位はついたものの、全体としてみればどのチームもまとまった良いプロジェクトができていたと言えるかもしれません。ただし一方で、MBA生ならではのテーマ、オリジナリティ溢れるテーマが少なく、「過去にも見たことがあるテーマだな」というテーマが多かったことは少し残念でした。それだけ日本企業が抱えている課題がずっと変わっていかないということもありますが、新しい問いを見てみたいという気もしました。
また、発表会の最後には、長年このテーマプロジェクト研究をご担当され、本年でご退官される予定の松尾博文先生から「リスペクトしながらも互いを批判する空気がもっと必要だ」との言葉をいただきました。ケースプロジェクトを通じて、その空気の大事さと一方でその空気を作ることの難しさを体感したのではないかと思います。
このテーマプロジェクト研究は、結果として賞をとる研究をすることだけが目的ではありません。この5ヶ月のプロジェクト研究からいかにより多くのことを学ぶかということも大きな目的です。そしてその観点からプロジェクト終了後の個人内省レポートを課しています。今期の内省レポートに関しては、今年は順位に関係なく、きちんとできている人とそうでない人の差があったように思います。これは単純に時間をかけて内省をしたかどうかの違いではないかと思います。
レポートとしては、①自分たちのドキュメント、単なる感想に終わっているもの、②振り返っての分析で「こうすれば良かった」で止まっているもの、③なぜそうなったかを含め教訓の獲得まで至っているものとその内省の奥行の違いが大まかに言えばありました。①と②の間や②と③の間のものが多かったと思います。またそれぞれのタイプの中にも深さの違いもありました(さらっとした感想と詳細なドキュメントに基づく感想)。これに加え、自分たちの経験からだけでなく他者やコメントからの内省といった広さも学びの違いを生みます。これはどこにアンテナを張り巡らしているかということでもあります。良い内省をしている学生は、この奥行と深さと広さがありました。ただ大事なことは、学びは教訓を得たところで終わりではありません。この内省を次へ活かすことが大事です。ぜひ今回の経験をMBA論文や実践に活かしてください。
(文責:鈴木竜太)