2020年度加護野論文賞 最終審査結果

第13回加護野忠男論文賞選考結果と講評

加護野忠男論文賞の2020年度の最終選考会と表彰式は、2021年3月27日(土)に開催されました。この賞は毎年度の神戸大学MBAの専門職学位論文の中から優秀な作品を選考して表彰するものです。この1年間ほどは新型コロナウイルスの影響で数多くのイベントが中止されたり、オンラインでの実施に切り替わりましたが、表彰式および受賞者によるプレゼンを教室にて対面で実施できたことを非常に嬉しく思います。

今回の選考は、加護野忠男氏(神戸大学名誉教授、神戸大学特命教授)を審査委員長とし、石井淳蔵氏(神戸大学名誉教授、碩学舎代表取締役)、中野常男氏(神戸大学名誉教授、国士舘大学経営学部教授)、吉井満隆氏(バンドー化学代表取締役社長)に審査委員をお引き受けいただいて審議が進みました。また、南知惠子氏(経営学研究科長)と、この文章を書いている森直哉(MBA教務委員)も審査委員として加わっています。

純粋に学術的な成果と方法が評価される博士前期課程の修士論文とは異なり、MBAの専門職学位論文は、経営の現場で起こっている実務的な課題を解決するにあたり、どのぐらい学術的な知見を生かせているかが評価のポイントになっています。

最終選考では、第二次選考を通過した3つの論文を順位付けし、金賞、銀賞、銅賞を決定します。本年度の3論文については、MBAにふさわしい興味深い論題であること、現代的な課題であること等が評価されました。
一方において、厳しい意見も審査委員から寄せられました。たとえば、使われている理論的なフレームワークが古く、なぜそれを現代的な課題に適用するのかが見えてこない、具体的に何を実行すればよいのかが主張として見えづらい、専門用語の使い方が危なっかしい箇所もあって、概念を厳密に正しく理解しているかどうかが疑わしい等です。しかし、これらの厳しい指摘は受賞者の方々自身への建設的な助言、叱咤激励になっているにとどまらず、今後のMBA教育の改善、強化につながるヒントにもなっているものと思われます。

日々の仕事に追われる多忙の中、あえて学術の世界の扉を叩き、ごく限られた時間の中で真摯に制作に取り組まれたスタンスと熱意に強い敬意を表するものです。これはMBAに関係する者たち一同の総意と受け止めていただきたいです。これからも質の高い神戸大学らしいMBA論文が数多く生まれることを期待しております。おめでとうございます。

文責:2020年度MBA教務委員 森 直哉

受賞論文

  • 金賞:髙津 亜弓 氏(國部克彦ゼミ)
    『IFRSの導入がM&AのPost Merger Integrationに与える影響』
  • 銀賞:松岡 佑季 氏(鈴木竜太ゼミ)
    『医療機関における情報の不確実性が組織に与える影響ーCOVID-19流行下での病院を事例としてー』
  • 銅賞:塩尻 晋也 氏(伊藤宗彦ゼミ)
    『恒常的多事多端なベンチャー企業へのサービス方針の提案-駐車場シェアリングエコノミーの独自性を掛け合わせて-』

審査委員

神戸大学社会システムイノベーションセンター特命教授・神戸大学名誉教授 加護野 忠男氏
株式会社碩学舎 代表取締役・神戸大学名誉教授 石井 淳蔵氏
国士舘大学教授・神戸大学名誉教授 中野 常男氏
バンドー化学株式会社 代表取締役社長 吉井 満隆氏
神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

審査講評

論文を読ませていただきまして、かなり質の高い論文が選ばれてきているということで、MBAの水準もきっちりと維持されているという安心感を持っています。それぞれの個別の論文についての我々の評価ポイントをお話しさせていただきます。

最初に、銅賞の塩尻晋也さんの論文「恒常的多事多端なベンチャー企業へのサービス方針の提案-駐車場シェアリングエコノミーの独自性を掛け合わせて-」は、基本的にはakippaという会社の創業初期に発生する不測の事態に対応して、サービスをどのように変えたほうがよいかという提案です。不測の事態が組織の混乱につながることは多いのですが、その中でどのように混乱から抜け出すかという議論でして、従業員の満足をテコにして組織を変えていけるのではないかという提案です。審査委員からは、ケースとしては面白いけれども、提案のロジックがよくわからないという意見がありました。もう少し理論モデルとの関わりを作り上げたほうが面白かったのではないかと思われます。

次に、銀賞の松岡佑季さんの論文「医療機関における情報の不確実性が組織に与える影響‐COVID-19流行下での病院を事例として‐」は、今の時代に非常にマッチしており、新型コロナウイルスの蔓延の中での病院の組織をどのようにすればよいかという議論です。経営学では、不確実な環境では有機的な組織がよく、比較的安定した環境では機械的な組織がよいという古典的な命題があります。その点、病院は機械的な組織であることが多いけれども、何が起こるかわからない状況ではそれだけでは対応できないことが問題です。そこで、有機的な要素を付け加えた組織を事前の段階で作ることが望ましいと提案されています。コロナ禍の病院で何が起こったかを記すものとして面白いけれども、危機対応のために柔軟で機械的な組織に変わるとき、どのような方法で組織編成が行われるかについて、1980年代あたりの研究を丹念にフォローしていれば、より深い議論になっただろうという意見が出ています。

最後に、トップの髙津亜弓さんの論文「IFRSの導入がM&AのPost Merger Integrationに与える影響」は、国際会計基準が企業のM&A、さらにはそのM&Aが起こった後のPost Merger Integrationにどのような影響を及ぼすかについて、インタビューを通じて明らかにした研究です。非常に難しい問題ですが、上手く焦点を絞っています。学術的な研究の成果を取り上げながらも、実践的に有用な処方箋を出しているという意味で非常に高く評価されました。

 
受賞おめでとうございます!