2019年度加護野論文賞 最終審査結果

第12回加護野忠男論文賞選考結果と講評

2019年度加護野忠男論文賞審査会と授賞式は、2020年3月28日に神戸大学大学院経営学研究科 貴賓室にて開催されました。

神戸大学のMBAコースでは修士論文が重視されています。MBA論文は博士前期課程の修士論文と同じ名称の修士論文ですが、博士前期課程の修士論文とは性質が違います。博士前期課程の修士論文は、純粋に学術的な成果と方法が評価されます。MBA論文は、働きながら学ぶMBAだからこそ書けるという要素が重視されます。つぎの2つのことがMBA論文の評価のポイントです。1つは問題の立て方。企業が直面する戦略的な課題あるいは企業内部の多くの人々が見逃している重要な課題を問題として抽出できているかどうか。もう1つは、問題の解き方。抽出した課題の解決にあたって経営学の研究成果、理論と方法を用いて、有益かつ独自性のある解答を導き出しているかどうかです。

今回の選考については、神戸大学名誉教授であり、現在碩学社代表取締役の石井淳蔵氏、同じく神戸大学名誉教授であり、国士舘大学の中野常男教授、バンドー化学株式会社代表取締役社長の吉井満隆氏、加護野忠男教授(現 神戸大学特命教授)を交えて、和やかでありながらも厳しい雰囲気のもと審議が進みました。本年度の選考委員には、学術界、産業界、出版界の3つの領域から、オリジナリティの高い活動で日本をリードしておられる方々に参加いただいています。

最終選考では、候補の3つの論文を順位付けし、金賞、銀賞、銅賞の受賞論文を決定します。本年度の3論文については、重要な経営上の課題をリサーチクエスチョンとして取り上げているという点では高く評価されましたが、一方で、結論の導き方が妥当かどうかとして見た場合のいくつかの不備も指摘されました。MBA論文は、学術的な方法にのっとって職場の経営課題の解決のための妥当かつ独創的な提案が論理的であるかどうかという点を重視しております。リサーチクエスチョンの立て方や、それに回答を与えるための方法について経営学の理論と方法にのっとっており、学術論文に負けない論理的な厳密性も要求されます。この点こそ神戸大学のMBA論文の独自の価値であり、論文賞の重要な審査ポイントです。

このような点から、本年度は金賞1つと銅賞2つということになりました。下記のような課題が指摘されたとはいえ、重要な経営課題とその解決策を研究論文という形で結実させることは非常に高度なことであり、それに果敢にチャレンジした点で3つの論文すべてに敬意を表したいと思います。これからも質の高い神戸独自のMBA論文が数多く生まれることを期待したいと思います。

文責:2019年度MBA教務委員 原田 勉

受賞論文
  • 金賞:𠮷川 智貴氏(松尾博文ゼミ)
    『地域のニーズに適応したMaaS事業 -次世代交通・サービス事業の推進と持続的経営-』
  • 銅賞:溝手 紳太郎氏(平野光俊ゼミ)
    『創薬リーダーのTrue North』
  • 銅賞:福永 靖氏(平野光俊ゼミ)
    『企業組織におけるイノベーション ―非連続的革新を可能にする組織と個人の力―』
審査委員

神戸大学社会システムイノベーションセンター特命教授・神戸大学名誉教授 加護野 忠男氏
碩学社代表取締役・神戸大学名誉教授 石井 淳蔵氏
国士舘大学教授・神戸大学名誉教授 中野 常男氏
バンドー化学株式会社 代表取締役社長 吉井 満隆氏
神戸大学大学院経営学研究科スタッフ

審査講評

まず、金賞をどなたに差し上げるかということに関して、これはほぼ全員一致で𠮷川さんの論文「地域のニーズに適応したMaaS事業 -次世代交通・サービス事業の推進と持続的経営-」ということになりました。ただ、審査委員の一人から、これを公表してしまっていいのかと、JR西日本の度量の大きさがあるのかなというお話がありました。問題が大きくとらえられていて、情報量として非常に豊かであって、データをきっちり分析した上で提言するという、MBA論文としては非常に良く出来上がっているという皆さんの評価でした。

意見が合わなかったのは、残りの二つの論文をどう評価するかということでした。順位を付けるのかそれとも付けないのかということで、だいぶ議論しました。最終的にはこの二つに関しては順位を付けないことになりました。それぞれの論文は問題の立て方に大きな価値があるけれども、それぞれの結論の出し方に欠点もあるという問題の指摘がありました。学者というのは悲しい宿命で欠点を見つけるのが仕事みたいなものです。それで議論をだいぶしましたが、それぞれ銅賞という形にしておいた方がいいのではないかという皆さんのコンセンサスでした。

福永さんの論文「企業組織におけるイノベーション ―非連続的革新を可能にする組織と個人の力―」に関しては、このイノベーションというのは本当に調査担当者が行ったイノベーションなのか、それともこの企業のトップと連携して行ったイノベーションなのか。これについて、もう少し議論があってもよかったのかなという、審査委員の意見がありました。

溝手さんの論文「創薬リーダーのTrue North」は、文献レビューはされているのですが、もう一歩突っ込んだレビューが必要ではなかったか。例えば、リーダーのリーダーシップとR&Dのパフォーマンスとの間の関係について、不確定要素が非常に多いので、これをどう分析するかということについて、もう少し考察があってもよかったのではないか。とりわけ、それが創薬となると、パフォーマンスとリーダーシップとの関係はもっと弱いのではないか、という意見がありました。論文で取り上げられたリーダーに惚れ込んでおられることは非常によく分かるのですが、もう少しそのコンテクストについての分析があったら、もっと説得的になったのではないかという意見でした。

この論文はリーダーシップ論の一つの今のトレンドにしたがっていると思います。昔のように統計的に結論を導くというよりも、少数であっても事例を深く分析するという方法論のほうが示唆が大きいので、本論文の結論は確かに面白いのですが、定性的な方法論については、社会学や心理学などベーシックサイエンスの議論をきっちりレビューしておく必要があるのではないかなと感じました。

それから英語そのままの表現があまりにも多すぎます。「True North」を日本語で表現したら一体どうなるのか。「Authentic」を日本語で表現したら一体どうなるのか。これらはできれば大和言葉で議論してほしかったというのが、私自身を含めた審査メンバーの意見でした。

しかし、いずれにしてもこの論文は候補に選ばれるだけあって、非常に読み応えのある論文でした。読めば読むほどこちらが賢くなるという要素のある論文でした。本当におめでとうございます。

 
受賞おめでとうございます!