リレーションシップ・マーケティング

髙嶋克義

リレーションシップ・マーケティングは、関係性マーケティングと呼ばれることもあり、近年、その重要性を主張する著書が数多く出回っている。ワン・トゥー・ワン・マーケティングやセグメント・ワン戦略というのも、その類語である。

リレーションシップ・マーケティングは、個々の顧客との双方向コミュニケーション活動を重視したマーケティングであり、顧客とともに製品の価値を共創することが志向される。これまで消費財ではより多くの消費者に選考される標準モデルを確立し、広告やチャネルによる一方的なコミュニケーションを中心としたマーケティング活動がなされてきた が、それが必ずしも有効でなくなってきたと言うのである。また生産財では個々の顧客に適応することは以前から一般的なことであったが、それを多数の顧客に対して効率的に展開することを考えようと主張する。

このような発想が最近になって強調されるようになったのは、消費の多様化、小売企業へのパワーシフト、情報化という3つの要因が関係している。すなわち消費が多様化し、企業が消費者に一方的に製品を押しつけることが有効ではなくなり、小売企業へのパワーシフトで、メーカー・小売企業間の協力体制が重要になり、さらに情報処理や通信の技術 進歩によって、多数の双方向コミュニケーションを管理することができるようになったのである。

ただしこの考え方では、しばしば「競争から共創へ」とか「顧客適応」というキーワードを使った直感的な議論が展開され、先進的な企業の少数事例を紹介することだけで、その新しい概念の有効性を証明しようとするために、理論の洗練化と経験的証拠の蓄積がまだ不十分であると言わざるを得ない。とくに個々の取引関係については、信頼関係やパワー関係などの関係の性格やダイナミクスを説明する理論の蓄積をベースとした深い議論が可能となっているが、1つの企業が取り結ぶ多数の取引関係をどのように考え、誰とどのような関係を形成すべきかについては、理論的な課題として残されている。

Copyright©, 2003 高嶋克義
この「ビジネス・キーワード」は1999年3月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

 

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