企業組織再編成の税制

鈴木 一水

平成9年の独占禁止法改正による持株会社解禁以来、商法改正による合併手続の簡素化、株式交換・株式移転制度と会社分割制度の創設、そしてこれらに税制面で対応するための企業組織再編税制と連結納税制度の導入と、ここ数年の間に企業組織再編成に関する諸制度の改革がめまぐるしく進展した。

従来から企業結合の方法として、合併、営業の譲受け、および株式取得による子会社化が認められていたものの、それぞれに関する税務上の取扱いに整合性が保たれておらず、とくに合併においては、移転資産に関して適当に評価益と評価損または繰越欠損金を組み合わせて相殺することによって、裁量的に課税所得金額を調整したり、繰越欠損金を合併会社に引き継ぐことができるという問題があった。また、分割手法としては、かつては現物出資しかなかったが、そこでも出資会社は移転資産に関する課税所得金額を裁量的に調整することができた。

こうした税制上の不備があったところに、株式交換・移転制度や会社分割制度といった新たな制度が創設されたことによって、企業組織再編成に関する税制上の整備が緊急の課題となったのである。株式交換は、完全親子会社関係を構築するために、完全子会社となる会社の株主の有する株式を強制的に完全親会社に移転させ、その対価として完全親会社の新株を交付する制度である。したがって、その効果は、株式を買い取って完全子会社化するのと同じである。株式移転は、持株会社設立のために、既存の会社の株主が有する株式を新たに設立した完全親会社に移転させて既存会社を完全子会社とし、その会社の株主に完全親会社の株式を交付する制度である。経営統合のために共同持株会社を設立する際に、この手法が用いられる。また会社分割は、既存の会社(分割会社)がその営業の一部または全部を新たに設立した会社または既存会社(分割承継会社)に承継することをいい、分割承継会社の新株を分割会社に交付する分割を分割型分割、分割会社の株主に交付する分割を分社型分割という。分割型分割によって営業の全部を分割承継会社に承継させた後に分割会社を清算すると、実質的に合併と同じになる。また、分社型分割によって営業を移転する場合には、実質的に現物出資や事後設立(従来の変態現物出資)と同じになる。したがって、企業組織再編成に関する税務上の取扱いには、同一の経済効果をもたらす手法間に首尾一貫性をもたせ、裁量的に課税所得計算を調整する余地を排除するための見直しが必要となったのである。これを受けて平成13年に導入されたのが企業組織再編税制である。

企業組織再編税制(株式交換・移転を含む)の基本的な考え方は、組織再編手法にかかわらず、原則として、資産・負債の移転を譲渡として取り扱い、譲渡した会社や株主側で再編時の時価と帳簿価額との差額を譲渡損益として計上することにある(非適格組織再編)。ただし、企業グループ内の組織再編または共同事業を行うための組織再編で一定の要件を満たすものについては、移転資産に対する支配に実質的な変化がないということで従来の課税関係を継続させることとし、商法上の会計処理にかかわりなく、移転資産を税務上は帳簿価額で引き継ぐことによって譲渡側での課税を繰り延べるほか、税法上の引当金・準備金あるいは圧縮記帳等の税務上の制度もそのまま引き継ぐこととした(適格組織再編)。しかし、このような整備が行われても、個別会社単位での課税しか認められないと、組織再編には税務上の障害が残る。個別会社内で事業を多角化した場合には、黒字部門の所得と赤字部門の欠損金を相殺できるのに対して、多角化した事業を別会社にして分離すると、黒字会社の所得を赤字会社の欠損金と相殺できなくなるので、企業集団全体としては社内多角化に比べて税負担が重くなってしまう。この弊害を除去するために今年導入されたのが連結納税制度である。

連結納税を選択すると、完全親子会社間で所得と欠損金の通算が可能となり、個別会社内での事業多角化と基本的には同じ効果が生じる。これによって、株式交換・移転あるいは会社分割による企業集団の形成が促進されると期待される。

このたびの一連の税制改正の成果は、適格組織再編による課税の繰延機会よりも、むしろ多様な組織再編手法の間での税務上の取扱いを明確かつ首尾一貫させたことで、組織再編における税務上の摩擦と組織再編の税効果予測の不確実性を小さくすることができ、組織再編がやりやすくなったことに求められる。また、企業組織再編税制は経営資源の選択と集中のための事業再構築だけではなく、中小企業にあっては事業承継などにも活用できる。今後は大企業から中小企業まで、企業組織再編税制の有効利用が経営戦略の1つの重要な課題になってくると考えられる。

Copyright©, 2003鈴木 一水

この「ビジネス・キーワード」は2002年4月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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