民営化

水谷 文俊

「民営化(Privatization)」は非常に広い意味で使われている。例えば、Thiemeyerは西欧諸国での民営化を15項目に分類して定義している。そこでは、公企業の民間企業への転換から、公益事業の競争促進策のような範囲までを含めて民営化としている。つまり広義の民営化は、単なる公共から民間への所有権の転換だけでなく、市場機構の役割を増大させることにより、産業のパフォーマンスを改善させることまでを含んでいる。これに対して、通常使われている民営化の概念はもう少し狭い範囲である。すなわち、公益事業を中心とする公企業の私企業化(あるいは株式会社化)、あるいは経営の公共から民間セクターへの転換にある。例えば、1980年代の3公社民営化の臨調答申では、民営化を所有の民間への移行と、経営の民間への移行の両方を含むものであると定義している。このように、狭義の民営化は、所有及び経営の民間セクターへの転換として捉えることができる。しかし所有が間接的にせよ、公共セクターによって行われている場合には、厳密には民営化とは呼ばない場合もある。例えば、イギリスでは所有も民間セクターへ移行されて初めて民営化が完結されたと見なされ、この場合には「完全民営化」と呼ばれ、所有が全て民間セクターに委ねられていない場合の「部分民営化」と区別されている。

これまで先進国、発展途上国を問わず、様々な種類の民営化が実施されてきた。これまでの民営化の成果を要約すると、プラス効果とマイナス効果が並存しているのが現状であろう。しかしながら、当初の大きな課題であった公企業の効率性の向上という点に関しては、競争条件が整備された場合には民営化は効果がある、というのが一般的評価であろう。ただし、公営企業と比べて民間企業が効率的になるとは必ずしも限らない、という実証結果もあることに注意する必要があろう。さらに、外部委託などによる民営化は、公共支出の削減や効率性の向上に貢献したという結果が多く得られている。その他の民営化に対するプラスの側面としては、経営上の裁量権を与えられた企業は、新しい製品や新しい供給方法を採用して経営効率を高めたり、市場原理が働きはじめたため、顧客の多様な要求に積極的に対応しようとする動きが現れたというものもある。

一方、民営化に対するいくつかの批判としては、1)企業の効率性が増したとしてもそれはサービスの質の低下によるものかもしれないということ、2)効率性を重視するあまり、安全基準がおろそかにされるかもしれない、3)多くの場合、民間企業はたやすく利益が得られるサービスのみを提供し、その他のサービスは切り捨てられるかもしれない、4)短期的には費用の低下が実現できたとしても、長期的にはその保証がどこにもないということ、5)民営化の圧力により、弱者に対して雇用のしわ寄せがきたり、労働環境が悪化するというもの、などが挙げられる。これらのうちのいくつかは、必ずしも正しくはないという結果も報告されているが、まだ明らかでない点も多い。今後、さらなる実証研究の蓄積が望まれる。

参考文献
  1. 水谷文俊(2000)「公益事業における民間供給と民営化」、『国民経済雑誌』、第182巻、第3号、pp.57-76
  2. Thiemeyer, T. and G. Quaden (1986)『The Privatization of Public Enterprises』, CIRIEC, Liege, Belgium(尾上久雄・広岡治哉・新田俊三(編訳)(1987)『民営化の世界的潮流』お茶の水書房, 東京)

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この「ビジネス・キーワード」は2001年10月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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