航空会社の戦略的提携(Strategic Alliance)

村上 英樹

スターアライアンスやワンワールドといった国際航空市場における合従連衡に関する記事を最近良く目にする。しかしその歴史は比較的浅く、いまだ10数年の歴史しか有していない。航空輸送業の場合、戦略的提携と一言でいっても、切り口によってその類型はいくつも存在する。たとえば国際間の戦略的提携の「深さ」を例にとって見ると、ルート・バイ・ルートで単に共同運航する程度のものから、互いに多くの株式を持ち合い、実質上合併に近い形態のものまである。

戦略的提携が合意される根拠として、Khanna et al.(1998)は次のように述べている。すなわち、提携相手を模索する企業は相手および自らとの間で分かち合える共有利益を得ようとする。共有利益は、例えば自らが未経験の事業領域において、相手が持つ経験や知識などの経営資源である。双方が今後の事業展開に際して、共有利益の相互移転が自らの経営資源を補完する可能性が高いと期待すれば、双方の提携関係へのコミットメントが大きくなる。ここでいう「未経験な事業領域」は、法的制度的理由あるいは経営資源の不足などの理由で生じる。国際航空輸送の場合、ほとんどの場合外国の航空会社は他国の国際線で操業することはできない(あるEU諸国の航空会社が他のEU諸国の国内線で操業する例は存在する)。このような制度的制約がある場合、たとえば全日本空輸がユナイテッド航空と提携して縫い目のないスムーズな乗り継ぎサービスを提供すれば、全日空の日本国内のネットワークとユナイテッドの米国内ネットワークが直結されることになる。これによって途中スーツケースをピックアップすることなく、またたくさんのチケットの束を持ち歩くこともなく、日本の旅客は米国の多くの空港に至ることができる。また、到達可能な目的地の数が増えるということは、それだけマイレージの加算機会も多くなるのである。このように、戦略的提携により、消費者も利便性の向上を享受できる。

しかしながら、戦略的提携のうち、特に提携関係が深い場合には、しばしば公的機関が介入する。公的機関が懸念するのは、提携による企業の独占力強化と、それに伴う金銭的な意味での消費者の利益の減少である。1996年に英国航空と米国のアメリカン航空が米国?英国路線で戦略的提携に合意したときには、米国の反トラスト法の審査を受け、結局共同運航やフリークエント・フライヤー・プログラム(マイレージサービスのほうが呼称としては一般的)の統合などにかんして、本来の両者の合意事項を達成できていない状況にある(http://www.american-britishairways.com/background/whitepaper.pdf、この戦略的提携は現在カンタス航空、イベリア航空、フィンランド航空、およびキャセイパシフィック航空からなるワンワールドに発展)。

一方、このような企業の独占力強化・消費者利益の減少につながる恐れのある戦略的提携とは対称的に、消費者の利益を増加させるような戦略的提携も存在する。ある市場で圧倒的シェアをもつ「ガリバー」のような航空会社に対して、「小人」的な規模の航空会社が提携して運賃競争を挑んだとき、「ガリバー」の利潤は減少するけれども、運賃の低下それに伴う輸送量の増加による消費者の金銭的利益の増加、「小人」連合軍の相対的利潤上昇、「小人」の提携による利用者の利便性向上が期待できる。これらのプラスの効果をすべて金額換算できるとして、その値が「ガリバー」の利潤の減少を上回れば、国民経済的な効果としては「小人」同士の合従連衡はプラスの効果を生む。実例としては、米国のラスベガスを拠点(ハブ)空港とするアメリカ・ウエスト航空と、ヒューストンを拠点空港とするコンチネンタル航空が提携し、東西ステレオ型ハブ&スポークを基本戦略とするユナイテッド航空など大手と対抗しているケースが挙げられる。

このように、戦略的提携は「相互補完型」および「対抗勢力形成型」の場合は一般的に肯定される。一方「独占力形成型」の場合には公的機関の介入を受け、しばしば不成立になったり、あるいは企業の活動の多くが制約されたりする。では「相互補完型」および「対抗勢力形成型」提携は全ての面で肯定されるのかというと、必ずしもそうではない。しばしばパートナー同士で「次なる行動」を規制しあい、そこに機会費用が発生する。合従連衡関係を自由にリシャッフルできる環境が整えばこの問題は解消されるけれども、それではメンバーの戦略的提携へのコミットメントが薄れるというジレンマが付きまとうのである。国際航空市場における再編に継ぐ再編は、提携による利益と機会費用のトレードオフ関係が続く限り継続されよう。

Copyright©, 2003村上英樹

この「ビジネス・キーワード」は2001年8月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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