消費者志向経営
馬場新一
消費者志向経営とは、事業活動の全てを、顧客以外も含むあらゆる消費者に向き合うことである。以下で詳しく説明する。
消費者志向経営の定義
消費者志向経営の取組促進に関する検討会の報告書によると、「消費者志向経営」とは、事業者が①消費者全体の視点に立ち、消費者の権利の確保及び利益の向上を図ることを経営の中心と位置付ける②健全な市場の担い手として、消費者の安全や取引の公正性の確保、消費者に必要な情報の提供等を通じ、消費者の信頼を獲得する③持続可能で望ましい社会の構築に向けて、自らの社会的責任を自覚して事業活動を行うこと、としている。(消費者庁のHPより)
他に(公社)消費者関連専門家会議(通称ACAP)の定義は、事業者が社会の一員としてその責任を十分に理解し、消費者の権利・利益を尊重し、消費者視点に基づいた事業活動を行うとともに、持続可能な社会に貢献する経営のあり方、としている。(ACAPのHPより)
つまり、持続可能な社会の形成を図るために、事業者は自社の商品やサービスを購入消費する顧客だけではなく、あらゆる消費者に心から向きあう方針を経営の中心に据えるのが消費者志向経営である。特に、顧客だけでなく消費者全体に目を向けることが必要で、企業の全従業員が消費者の視点を持って事業に取り組むことが求められる。
顧客志向との違い
多くの企業で、経営理念に顧客を重要視する文言が入っていると思う。企業が顧客を大事にすることは当然で、事業収益の源泉は顧客がもたらしてくれるからである。このため、従来は企業と消費者のWINWINの関係を目指していた。しかし、持続可能な社会の形成を考えるとき、顧客以外の消費者までWINの関係を広げて構築することが重要となってきた。
例えば、必要以上に豪華な包装などは、見栄え以外に有用性はなく、包材の製造時と廃棄時には、あらゆる消費者に環境負荷をかけることになる。豪華な見栄えで顧客満足を得たとしても、顧客以外の消費者まで考えると社会にとって有益な消費活動とは言えない。近江商人の「三方良し(売手良し、買手良し、世間良し)」のように、社会的にも良い商いとなることが求められている。つまり販売、購入、消費する当事者だけでなく、あらゆる消費者に未来の消費者も加えた事業活動を良しとするのである。
消費者志向経営の普及経緯
経済産業省が消費者志向を推進するために、平成2年度に消費者志向優良企業表彰制度を創設した。90年当時、消費者と企業の接点は、マーケティングの調査対象やモニターという意味合いが強く、顧客および潜在顧客とされていた。他に企業内で消費者と接する業務といえば、消費者対応となる。80年代に消費者対応の専門部署が設けられるようになってきたが、まだ十分機能しておらず、企業への苦情対応が中心であった。そのような背景の中で、消費者志向体制が整備されている、消費者志向の姿勢が極めて優良等の企業を大臣表彰したのである。表彰の主な基準は、①消費者志向の経営方針への取り込み、②消費者ニーズへの対応、③消費者への情報提供、④品質保証体制、⑤地球温暖化防止等の環境対策、⑥消費者対応体制、⑦消費関連の有資格者活用などであった。なお、この表彰制度は平成17年で終了した。
平成21年に消費者庁が創設されて以降、消費者が主役となる社会の実現に向けての取り組みが始まる。消費者取引のグローバル化、インターネットの利活用の増加、高齢化社会などで、消費者問題も変化した。後追いになるが、消費者教育推進法、食品表示法など消費者関連の法律の制定、特定商取引法、景表法の改正など消費者行政の基盤となる法整備が進められた。制度は施行されても、運用する担い手の育成や、消費者や事業者の意識向上が課題であった。そこで、第3期消費者基本計画に消費者志向経営の促進を記載し、閣議決定の上で推進することとなった。
政府も、事業者が消費者を重視した消費者志向経営を行うことが健全な市場の実現につながるとして、「消費者基本計画」に促進を検討するとして、平成27年3月24日の閣議で決定された。
まとめ
持続可能な社会を目指す現在では、顧客満足だけではなく、顧客以外の消費者や環境などへの影響を考慮した事業活動が、市場からの支持を得られることになる。消費者と事業者の双方向コミュニケーションが充実すれば、消費者の意見を活かした商品・サービスの提供につながる。消費者志向の事業活動は、相互理解も深めていき、消費者と事業者の健全な関係構築が期待される。事業の発展に「消費者志向」を経営戦略に組み込むことが推奨される所以である。
なお、事業者は「消費者志向自主宣言」をすることができる。自主宣言をしたことを消費者庁に伝えると、庁のホームページに企業名が掲載される。2018年11月末現在で99事業者が宣言をしている。消費者庁は顕彰制度も設け、事業者の取り組みを推進している。
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