トリプルメディア

栗木 契

トリプルメディアは、ソーシャルメディア時代のマーケティングやプロモーションの新しい概念である。ビジネスの現実を見通すのに、優れた理論やフレームワークが役立つのは、そこから実践のなかにひそむ秩序が見えてくるからである。トリプルメディアは、そのような概念のひとつである。

インターネットは1990年代のなかば頃から、広く社会で利用されるようになりはじめた。それ以降、およそ20年にわたって、マーケティングのメディアとしてのウェブ利用は拡大を続けており、プロモーションの新たな秩序を形成しつつある。

近年になりマーケティングやプロモーションの分野では、ウェブ空間を「オウンド(所有)」「ペイド(有料)」「アーンド(名声)」の3つのメディアの組み立てとしてとらえるフレームワークが定着しつつある。これがトリプルメディアである。企業がブランドや自社の情報を、ウェブを通じて広く社会に流通させようとするとき、そこにはメディアの3つの基本タイプがある。

第1は、オウンドメディアである。これは、企業が自ら管理する、所有型のメディアである。たとえば、企業ウェブサイトや企業ブログ、あるいはソーシャルメディア上のブランド公式ページなどがこれに当たる。

第2は、ペイドメディアである。これは、企業が料金を支払って利用する、広告型のメディアである。たとえば、バナー広告や検索連動広告、あるいはネット通販サイトでのセールスプロモーションなどがこれに当たる。

第3は、アーンドメディアである。これは、企業が自ら管理したり、料金を支払ったりすることなく生じる、名声や評判のメディアである。たとえば、ソーシャルメディアへの書き込みや画像投稿、あるいは通販サイトへのコメントやレビュー、ブログ記事などがこれに当たる。

ウェブでのプロモーションを継続的に仕掛けるには、オウンドメディアをハブとすることが有効である。ペイドメディアやアーンドメディアによる情報の告知や共有だけを進めても、ユーザーの行動データを多面的に収集したり、その会員化を進めたり、製品やサービスの疑似体験や販売の場を提供したりすることにはつながりにくい。オウンドメディアをハブとして活用しなければ、ペイドメディアで一発当てたところで、ウェブ空間でのプロモーションの利点を十分に活用するには至らないのである。

とはいえ、そこではオウンドメディアだけに注力すればよいわけではなく、オウンドメディアをハブとした連動の仕掛けが欠かせない。すなわち、ウェブ上にオウンドメディアを整備するだけでは、今度はユーザーへの情報の告知や共有化がおぼつかなくなる。

ウェブ空間の3つのメディアには、それぞれの強みがある。ペイドメディアでユーザーとの関係のリーチを広げ、アーンドメディアでユーザーとの関係の評判を高め、オウンドメディアでユーザーとの関係のリッチネスを深める。トリプルメディアとは、このような組み立ての妙を考えることをうながす概念である。

Copyright © 2015, 栗木契

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