ABL (Asset Based Lending)

ABL (Asset Based Lending)

内田浩史

 

最近金融実務の世界で注目を集める言葉の一つにABL(Asset Based Lending)があります。直訳すれば、資産(Asset)を担保にする(Based)融資(Lending)という意味です。これだけ聞くと、担保付の融資はすべてABLなのか、という疑問を持たれるかもしれません。答えは否です。ABLでいうAには特別な意味があります。日本語で「動産・売掛金担保融資」あるいは「動産・債権担保融資」と訳されることからわかるように、ABLは企業が保有する売掛金や在庫(製品・商品等)などの資産を担保にした融資(貸出)なのです。

日本において、融資の主な担い手である金融機関は伝統的に不動産担保が付いた融資を重視してきました。このため、担保に提供できる不動産に乏しい中小企業は、たとえ信用力があったとしても、金融機関からの借入が困難だと考えられてきました。こうした企業について、他の資産を担保に提供することができれば、新たな資金調達方法が生まれるのではないか、という期待の下、政策的に環境整備が行われ、用いられるようになったのがABLなのです。

ABLの借手の例としては、たとえば大企業に部品を納入する中小の製造業者、官公庁に商品を納入する小売業者などが考えられます。これらの業者が行う取引は通常、代金が後日支払われる掛取引です(掛取引に関しては、ビジネス・キーワードの「企業間信用」を見てください)。つまり、こうした企業の売上は一旦財務諸表に売掛金として計上され、すぐには資金が得られません。しかし、大企業や官公庁は高い確率で代金を支払ってくれますから、こうした売掛金は高い価値を持つ資産です。これを担保としたABLは不動産を持っていない借手の資金繰りを改善するでしょう。また、病院もABLの借手に含まれます。病院は診療を行うことの対価として診療報酬を得ますが、患者本人が診察後に支払ういわゆる窓口負担以外の報酬(公的医療保険の負担分)はやはりすぐには受け取れません。この診療報酬債権もABLの担保として用いられ、病院の資金繰り改善に役立っています。この他にも日本では家畜や農産物を担保にしたABLなども行われています。なお、売掛金や診療報酬などはファクタリング(ファクターと呼ばれる金融機関への売却)によっても現金化できますが、ファクタリングの場合は債権が売却されるのに対し、ABLの場合は担保に提供されるだけである、という違いがあります。

ABLは、元々は海外で用いられていたもの参考にして日本に導入されました。しかし、あまり意識されることは少ないようですが、アメリカをはじめとするABL先進国のABLは、実は日本のABLとは少し違った融資手法です。こうした国の典型的なABLにおいて、貸手は借手の返済能力にあまり注目しません。その代わりに見ているのは、担保資産の換価価値です。返済できるかどうかわからないが、持っている資産は優良だから、その資産の価値の範囲内で貸そう、という割り切った貸し方が、海外における典型的なABLなのです。返済能力を重視しない代わりに、ABLの貸手は担保資産の換価価値を頻繁にチェックします。また、ABL先進国では、仮に債務不履行の事態が発生した際に、貸手が実際に担保資産を即座に取得することが可能な法的・実務的仕組みが整えられています。そして、こうしたABLの貸手の多くはノンバンクであり、主として返済可能性が低いと考えられる借手に対する融資手段として用いられています。

同じ「ABL」といっても、日本のABLはここまで割り切ったものでは無いようです。内田他(2014)や金城(2014)によると、日本におけるABLの貸手は、担保資産の評価を通じて借手の返済能力の評価も行っていることが分かりました。たとえば内田他(2014)は、金融機関向けアンケートの結果として、債務不履行時の保全・回収を目的としてABLの担保を徴求する金融機関は半分しか存在せず、多くの金融機関は借手の返済能力を重視していることを報告しています。これらの研究からは、借手が持つ債権や動産の価値を審査することを通じて、借手の返済能力を把握するための新たな情報を得ようとするのが日本のABLであることが分かります。また、日本のABLは銀行や信用金庫などの金融機関が行っており、この点からも従来型融資の延長線上にあるものと考えられます(日本と海外のABLについて、詳しくは金城(2011)やユーデル(2007)等を参照してください)。

同じ名前なのに海外とは何か違う日本のABLは、いわゆる「ガラパゴス化」の一つの例といえるかもしれません。少なくとも、内外のABLのこうした違いを知らないと、同じ言葉なのにどうも話が通じない、という事態になりかねません。しかし、問題は単に言葉遣いだけではありません。海外のABLはビジネスとして既に確立しているといえますが、それとは違う日本のABLがビジネスとして成り立つのかどうかは定かではありません。現に、政策当局やマスコミの盛り上がりとは裏腹に、日本におけるABLは実績がそれほど積みあがっていません(内田他(2014)参照)。これまでにない資産の担保価値評価を追加的に必要とする分、日本のABLはコストに見合わない融資である可能性が否定できないのです。また逆に、日本に海外の「割り切った」ABLが無いからといって、それを日本に導入する必要が無いともいえません。むしろ、従来型融資でカバーされない借手向きの新たな融資手法として、海外のABLは重要かもしれません。もちろんそうした融資は従来型融資に合った企業文化を持つ銀行などの金融機関ではなく、新たなノンバンク等が担うべきものかもしれません。

内田浩史・小倉義明・筒井義郎・根本忠宣・家森信善・神吉正三・渡部和孝「地域金融機関の経営実態」『経営研究』(神戸大学経営学研究科), No. 57, 2014(http://www.b.kobe-u.ac.jp/resource/br/
金城亜紀『事業会社のためのABL入門』日本経済新聞出版社, 2011.
金城亜紀“Implications of Establishing Inventory and Accounts Receivable as Collateral: A Case Study,” 日本金融学会春季大会報告2014年5月25日.
ユーデル・グレゴリー『アセット・ベースト・ファイナンス入門』金融財政事情研究会, 2007.

Copyright © 2014, 内田浩史

 

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