neuro_…神経。

後藤 雅敏

最近、「neuro」で始まる英語を、本や新聞のなかでよく見ませんか。「よく」と付けると「頻繁」に見ているということなので、表現を穏やかにすると「以前と比較して多くなった程度」に見ていませんか。わたくしはこの用語を見ると、心の中で「ネウロ」と読んでしまいます。正しい発音は「ニューロ」です(注、今、カタカナで「ニューロ」と書きましたが、英語での発音を日本語に直す時、一対一に対応するカタカナは存在していないので普通は表現することができませんが、一応ここではこのように書かせてください。)。われわれの世界、つまり学会、では、この単語だけで使用されることは少ないと思います。例を挙げますと「neuro_economics」、「neuro_marketing」とeconomicsとmarketingと合わせて使われますので、「neuro」でも間違えて発音する可能性は低くなります。ただ、これを「神経」と訳出して、neuro_economicsは神経経済学と、neuro_marketingは神経マーケティングとすることには、若干の違和感を覚えます。ある意味では神経の経済学、神経のマーケティングではないからです。ただ、人間の神経活動を観察して、そこから分かってきたことを扱う領域だから、神経と付けても問題はないのかもしれません。一般にはニューロエコノミクス、ニューロマーケティングと単に、発音を日本語に置き換えた形で、あいまいに表現しています。

前者は、様々な脳科学の測定技法を利用して人間の経済的な意思決定を分析する研究、後者は同じ脳科学の測定技法を用いて、そこで得られた知見を商品開発や広告宣伝に役立てていく研究、と言えます。これらの研究領域で最近分かってきていることは、前者では、それまでの経済理論では予測されていなかったような、経済的な意思決定がバイアスをもっており、それが脳の中の活動している部分が、経済理論とは異なった脳領域での活動も見られる、ということです。また、後者では、ペプシとコカコーラの事例が有名でしょう。両者の詳細は、Web上の紹介記事を参考にしてください。以下では、「様々な脳科学の測定技法」の中から機能的磁気共鳴画像法(fMRI:functional magnetic resonance imaging、以下ではfMRIと略称する)の話に限定させてもらいます。脳科学の測定技法の中で、PET(Positron emission tomography)やEEG(electroencephalography)の話は分かりませんので、他の文献を参照してください。

fMRIを使用すると、脳の輪切りの画像を何枚も作り出してくれます。それは使用しているシステムに依存した枚数です。わたくしたちが借用している器材は、株式会社国際電気通信基礎技術研究所が所有するもので、3秒で脳全体を約50枚の輪切り画像にしてくれます。その画像をStatistical Parametric Mapping (以下ではSPMと略称する)で処理します。SPMは脳の画像を処理する唯一のソフトウェアではありませんが、最も多く使用されているソフトウェアです。脳を輪切りにしたデータから、大きさ「3mm×3mm×3mm」に分割したvoxelと呼ばれる単位で、脳を見ていくという作業をします。脳の3mm×3mm×3mmの中に、ニューロンはおそらく数億個の単位で存在しますが、それらがすべて、同じ活動をしているとは思えないのですが、現時点ではこのレベルでしか分析はできません。

ある映像を目で見たとき、脳の賦活した部分の画像はどうであったか。別の映像を目で見たとき、脳の画像はどう変わっていたか。それらを比較します。この考え方は、脳の中の「局所的な神経活動は局所的な脳血流量と脳代謝量と関係する(注、Roy and Sherrington[1890], “On the Regulation of the Blood-supply of the Brain”, The Journal of Physiology.)」という仮説から導かれています。そうして検証された課題が、先ほど述べたニューロエコノミクスやニューロマーケティングでの主張です。これからが、本稿の中心部分です。economicsとmarketingと同じように、accountingをneuroに付けます。

ニューロアカウンティング(neuro_accounting)は、会計の分野で脳科学の測定技法を利用して、会計の代替案選択問題に何らかの主張をする学問です。現在までに分かっていることの中から一つを述べます。市場で情報が少ない人と多い人に加えて、情報が中位の人を加えると、結果がどのように変わるかという問題を考えます。中位の人を加えると、脳の中で賦活する領域が変わってきます。少ない人と多い人はほとんど賦活しません。中位の人は賦活する領域は増えます。市場全体を均一の人間で代表させるような議論から、個々の人間の特徴を加味した議論を展開させていくことが、この方法では可能です。

Copyright © 2014, 後藤雅敏

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