NPM(新公共経営)

島田智明

近年、事業の持続成長や競争優位性の獲得が目的で用いられる「経営学」の概念や手法が、企業だけでなく、地方自治体にも適用され始めた。「経営学」の中でも、とりわけ、経営管理手法を地方自治体の運営に適用しようとする動きは、1970年代の後半まで遡る。そして、1980年代から2000年代にかけて、そのような試みがNPM (new public management)という名の下にもてはやされ、OECD諸国において様々な理論が実践へと移された。マックス・ヴェーバー(Max Weber)が合理的だと位置づけ、ロバート・マートン(Robert Merton)がその逆機能を指摘した近代官僚制に関するいくつかの問題点を克服するために考え出されたものがNPMであるが、NPMという用語は、今日に至るまで、行政改革という意味でさまざまな用途に使われてきた。ご参考までに、NPMは、日本語で、新公共経営、あるいは、そのままニュー・パブリック・マネジメントと表現されるのが一般的である。

以下の表に、近代官僚制による統治モデルとNPMによる統治モデルの違いをまとめている(Naschold, 1996)。まず、近代官僚制による統治モデルにおいては、規則による管理を行うが、NPMによる統治モデルにおいては、規則に加え、目標や成果による管理に重点が置かれる。そして、組織形態に関して、近代官僚制では、明確な階層構造の下、縦割りの分業を行うのに対し、NPMでは、自己成果が反映されるような契約管理の下、提供するサービスに基づいた組織づくりを行う。近代官僚制においては、横並びで競争原理を控えめにする反面、NPMにおいては、一部の業務を外部に委託し、市場ほどではないが競争原理が働くような準市場を形成する。最後に、近代官僚制では、戦略マネジメントが欠如する一方で、NPMでは、サービスを提供する側の官僚の都合よりもサービスを受ける側の住民を優先、つまり、顧客志向の考え方が基礎となる。

表: 近代官僚制による統治モデルとNPMによる統治モデル

近代官僚制による統治モデル NPMによる統治モデル
規則による管理 目標や成果による管理
縦割り分業 提供するサービスに基づいた組織
明確な階層構造 自己成果を重視した契約管理
競争原理の控えめな導入 外部に委託し、準市場の形成
戦略マネジメントの欠如 官僚支配ではなく、顧客(住民)志向

 

Hoodは、定義が統一されていないNPMに関して、以下の七つの要素で特徴づけられるとした(Hood, 1991)。(1) 公共部門における実践的な専門職管理、(2) 業績に関する明確な基準と測定手法、(3) プロセスよりも成果の重視、(4) 公共部門における組織単位の分割最適化、(5) 公共部門における競争原理の導入、(6) 民間企業で実践されている管理手法の重視、(7) 資源利用における規律と倹約の重視。その後、NPMは様々な方向に理論展開され(Stark, 2002)、肯定的な見方(Osborne and Gaebler, 1992)や否定的な見方(Mintzberg, 1996)が広まった。そして、NPMに関する様々な理論が実践に移され、試行錯誤を経て、否定された活動(例えば、脱専門職化)、広まって一段落着いた活動(例えば、民営化)、広まりつつある活動(例えば、公共部門の持分評価)に分けられる。

Dunleavy et al.は、そのような従来のNPMに関する活動を、Hoggettと似通った分類(Hoggett, 1996)だが、分割(disaggregation)、競争(competition)、インセンティヴ(incentivization)の三つに分類できるとした(Dunleavy et al., 2005)。さらに、情報化社会の到来で電子政府が求められる現代においては、行政改革の焦点が移り、Post-NPMの活動として、再統合(reintegration)、ニーズに基づいた全体論(needs-based holism)、電子プロセス(digitization processes)の三分類が適切だとした。

私の考えでは、一般的に、NPMに関する活動は、大きく分けて以下の四つに分類される。(1) 成果向上を目的としたインセンティヴシステムの活用、(2) 組織の分割最適化、(3) 競争原理の導入、(4) 顧客志向への意識転換。具体的に考えると、湯?英彦広島県知事は、広島県庁の仕事を進めるに当たって、就任早々、三つの視座を規定した。(a) 県民起点、(b) 現場主義、(c) 予算主義から成果主義への転換。どれも職員の抜本的な意識改革を促すことを目的としている。県民起点が、上述のNPMの分類の(4)、現場主義が(2)と(4)、予算主義から成果主義への転換が(1)に主として該当すると考える。(3)の競争原理の導入に関して、一行政府内において純粋な市場競争は起こりにくいので、将来的な競争原理の導入の前段階として、広域水道事業を、県の直営から合弁会社による受託という形態に移行した。

参考文献
  • Dunleavy, P., Margetts, H., Bastow, S. and Tinkler, J. (2005) “New Public Management is Dead: Long Live Digital-Era Governance,” Journal of Public Administration Research and Theory, Vol. 16, No. 3, pp. 467-494.
  • Hoggett, P. (1996) “New Modes of Control in the Public Service,” Public Administration, Vol. 74, No. 1, pp. 9-32.
  • Hood, C. (1991) “A Public Management for All Seasons?,” Public Administration, Vol. 69, No. 1, pp. 3-19.
  • Mintzberg, H. (1996) “Managing Government, Governing Management,” Harvard Business Review, May-June, pp. 75-83
  • Naschold, F. (1996) New Frontiers in Public Sector Management: Trends and Issues in State and Local  Government in Europe, Berlin, Germany: Walter de Gruyter.
  • Osborne, D. and Gaebler, T. (1992) Reinventing Government: How the Entrepreneurial Spirit is Transforming the Public Sector, Reading, Massachusetts: Addison-Wesley.
  • Stark, A. (2002) “What is the New Public Management?,” Journal of Public Administration Research and Theory, Vol. 12, No. 1, pp. 137-151.

Copyright © 2013, 島田智明

前の記事

顧客満足度

次の記事

neuro_…神経。