特別損失

北川 教央

特別損失とは、反復経常的に行われる企業の営業活動や金融活動以外から生じた一時的性質をもつ損失のことをいう。たとえば、固定資産の減損損失、事業部や子会社の処分などに伴う引当金(「事業構造改革引当金」「事業再構築引当金」「工場閉鎖損失引当金」などの名称で計上されている)、災害による損失などがその例である。また金額が巨額で臨時的性格が強い有形固定資産や有価証券の売却損、為替差損も特別損失に含まれる。なお以前は前期損益修正にかかわる損失も特別損失として扱われていたが(企業会計原則六、および企業会計原則注解12)、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の公表により現在では除外されている。以下では、特別損失と将来業績との関係について若干の考察を行いたい。

一般的に、財務諸表分析における特別損失の重要性は相対的に低い。なぜならば、特別損失は当期限りの一時的性格を持つ項目であるから、将来の企業業績へ及ぼす影響は小さいと考えられるためである。しかし近年、特別損失の計上額や計上企業の割合が増加し、財務諸表上の重要性が高まったことに伴い、将来業績に対する特別損失の含意を再考しようという動きがみられるようになった。

このような動きのなかで、Burgstahler, Jiambalvo, and Shevlin(2002)が興味深い証拠を提示している。彼らは1982年から1997年の米国企業を対象とした調査を行い、特別損失を計上した企業は将来4四半期に、平均で計上額の27%に相当する経常増益を経験していることを例証したのである。

この結果については2通りの解釈ができるだろう。1つは、特別損失の計上後に企業の収益性が改善した(real future performance improvement)という解釈である。たとえば事業部や子会社の整理による特別損失の計上は、いわゆる選択と集中を通じて、将来の経営効率が改善することを期待させる。特別損失の計上は、将来期間にこのような改善が生じることのシグナルとなっている可能性がある。

しかし、いま1つの解釈として、将来費用の前倒し計上効果(inter-period expense transfer)を考えることもできる。たとえば当期に固定資産の減損損失を計上すれば、将来の固定資産の帳簿価額は引き下げられるはずであるから、その分だけ将来の減価償却費は小さくなるはずである。したがって、他の条件が等しければ将来期間の経常利益は増加することになる。しかし、この増益は単に費用の期間配分を変更したために生じたものであって、企業の収益性そのものが改善したことを意味しない。

それでは、特別損失計上後の経常増益を、いずれの効果の結果として解釈するのがより妥当であろうか。その手掛かりを得るためには、利益変化に加えて、営業キャッシュ・フローなど費用の期間配分の影響が及ばない財務諸表数値の変化を同時に観察すればよい。Cready, Lopez, and Sisneros(2012)は、2002年から2009年の米国企業を対象としてこの調査を行い、平均的には前者の解釈がより妥当であることを指摘している。すなわち、特別損失を計上した企業の営業キャッシュ・フローはその後4四半期にわたり増加していること、とくに事業再編関連の引当金を計上したあとにその傾向が顕著に観察されることを示したのである。

2013年3月期に特別損失を計上した日本の上場企業の割合は90%を超えており、また計上額の平均は総資産の1%にものぼる。財務諸表分析にあたっては、非経常項目である特別損失についても、その内訳などを勘案しながら丁寧に分析することを心掛けたい。

引用文献
  • Burgstahler, D., J. Jiambalvo, and T. Shevlin. 2002. Do Stock Prices Fully Reflect the Implications of Special Items for Future Earnings? Journal of Accounting Research 40(3): 585-612.
  • Cready, W. M., T. J. Lopez, and C. A. Sisneros. 2012. Negative Special Items and Future Earnings: Expense Transfer or Real Improvements? The Accounting Review 87(4): 1165-1195.

Copyright © 2013, 北川教央

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