消費者視点

蔵本一也

消費者関連企業の不祥事が続発している。その都度「消費者視点」に立ち返り、「消費者重視」の経営に変革するなどと、記者会見やインタビューにおいて社長などの反省の弁が述べられる。発生した不祥事の原因究明や対策を講じるために、企業内の自浄作用には限界があるのか、社外委員会などが設置され、その任に当たる例が見受けられる。

しかし、各社に設置されている「お客様相談室」の存在を忘れてはならない。お客様相談室にはいろいろな意見が寄せられる。各社はその意見に対して匿名、実名に関係なく、その都度きちんと対応することが要求され、企業に寄せられる各種の苦情を品質向上に活かし、コンプライアンス経営に寄与させることが求められている。

企業は「お客様第一主義」、「良品を提供する」、「社会に貢献」など、それぞれの企業の特色に応じた「経営理念」を掲げている。「社会的責任」を果たすことが企業に求められ、それを全社員に意識させることがとても重要である。ところが、企業内の全社員にまで遵法精神を浸透させるのは非常に難しく、企業規模が大きくなればなるほど困難な傾向がみられる。

企業の生い立ちや社内風土の問題などは、なかなか一朝一夕に変えられるものではなく、不祥事を起こした企業は、かつては経営幹部まで正確な情報が届いていなかったことが原因であった例もあるが、最近は企業トップ自ら容認していた例も多数見られる。そこで必要となるのが以下に記することである。

1、消費者意見の尊重

今まで会社をつくりあげてきた社員にとっては、会社の仕組み運営についての矛盾や疑問を感ずることがない。社内の役員も今まで自分が企業内で成してきたことを良しとして昇進し役員になってきており、企業人は自分の企業を見る目がどうしても甘くなりがちである。また、商品開発部門は、研究開発し発売している商品についても絶対の自信があり、他者の批判を受け入れない体質がある。故に、消費者からの各種の意見を重視する仕組みの必要性がある。

2、企業の消費者志向体制

近年、企業に寄せられる苦情は益々増加傾向にあり、また、広範囲から寄せられる。その理由として「商取引のグローバル化」「消費者意識の高揚」などがある。世界市場のグローバル化、ボーダーレス化が進む中での消費者保護を目的とした国際規格の必要性が生じてきた。

苦情対応マネジメントシステムの規格は2004年7月に「ISO10002」として発行され、2005年6月に日本工業規格「JIS Q 10002 品質マネジメント・顧客満足・組織における苦情対応のための指針」として、国内規格となり、今では、多くの企業がこの規格の自己適合宣言を行っている。

このISO10002の規格は、外部認証機関から適合認証を受ける品質保証システム規格のISO9001や環境マネジメント規格のISO14001と異なり、自己適合宣言を行う規格である。自社で自己適合宣言を行うのは重要な決断が必要になり、また、消費者からの監視も厳しくなる。

企業トップの強い意志のもと方針が制定され、継続的改善のため教育・監査などが重要とされ、特に現場としての「消費者対応部門」の活動が今まで以上に重要になる。

3、企業の消費者対応

「消費者対応部門」のミッションは企業と消費者をつなぐ重要なチャネルであり、メーカーにとっては唯一の消費者との接点であり、重要な媒体と位置付けることができる。消費者からの問い合わせや意見などに素早く対応することにより、消費者満足を得ることが可能であり、その意見を新商品開発や既存商品の改良などに結び付け、それらの情報を社内発信することも必要である。

4、消費者対応プロセス
  1. 方針を明確にする
    多くの企業が方針管理という管理手法を導入している。「全社方針」に基づき、「品質方針」や「お客様対応方針」が定められ、それを中期方針・年度方針・部門方針などとし、より詳細な目標を明確にし、その達成状況を常にチェックしていくことが重要である。その「お客様対応方針」には、「消費者の声を製品・サービスの向上に反映させる」など、企業としての対応方針を明確に掲げ、インターネット上で紹介し、CSR報告書でも記載している。
  2. 手順を明確にする
    企業に寄せられる苦情は「お客様相談室」以外に、営業部門や総務部門などにも寄せられる。内容は製品に関する各種の問い合わせ、納期・販売店の検索、製品に関する意見やサービスに関する問い合わせ、苦情など多岐にわたっている。どの部門に寄せられる意見・苦情も全て一元管理することが必要である。そこで、管理責任者のもとで、緊急性・妥当性・合理性などの判断が瞬時に下され、それぞれに対応できる仕組み(手順)が明確に規定化されている。

    ここで、重要なことは、この判断を下す管理責任者の資質が問題になる。企業内に所属する社員として、身びいきの判断を下す事は避けなければならない。企業内における消費者の代弁者である自覚が必要である。是々非々の立場で判断し消費者からの重要な意見は企業内において尊重し、改革・改善に結びつけるという強い意思も備えるべきである。

    全社に寄せられる苦情を一元管理する上で、関係部門へのフィードバックの仕組みも同時に構築する事が求められている。再発防止策を全社に徹底し、再び同じ苦情を発生させない仕組みを作る事が重要である。

5、最後に

企業として、消費者に安全・安心を提供することは当然のことであるが、製品の経年劣化や製品寿命は避けて通ることができない。また、予想されない誤使用により、思わぬ事故に繋がっている例もある。

消費者啓発の重要性が求められている、全国の消費生活センターや行政機関の協力を得ることにより、企業からの情報発信の機会を増加させ、自社のホームページを通じて、正しい情報開示や各種の啓発資料提供なども同時に実施すべきである。

企業として、更なる品質向上に取り組むことはもちろんのこと、消費者モニター制度の創設など、消費者意見を取り入れる仕組みを構築し、企業内に企業人と異なる視点が入ることが必要である。

Copyright © 2010, 蔵本一也

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