循環型サプライチェーン
島田智明
皆さんは循環型サプライチェーンという言葉を耳にしたことがあるだろうか。英語で言うと、Closed-Loop Supply Chainである。循環型サプライチェーンとは、従来のフォワードサプライチェーンと、それと物が逆流するリバースサプライチェーンを合わせたサプライチェーンのことである。フォワードサプライチェーンは、通常、単にサプライチェーンとだけ表現され、消費者に流れる新製品の供給連鎖のことを指す。それに対して、リバースサプライチェーンは、消費者が使用を終えた廃棄物の流れである。前者では、原材料を製造する川上から、製造業者、卸売業者を通して、消費者に商品を販売する川下に物が流れるのに対し、後者では、逆に川下から川上に物が流れるので、リバースサプライチェーンという言い方をしている。両方の物の流れを合わせて、循環型サプライチェーンと呼んでいるのであるが、廃棄物が新製品と全く同じ経路を逆に上っていくわけではないし、廃棄物の一部が新製品にそのまま還元されないことの方が多いということを断っておかなければならない。
リバースサプライチェーンにおいて、製品の再生レベルは、製品の分解レベルに応じて、再整備(Refurbishing)、再利用モジュールによる製造(Remanufacturing)、再利用部品による製造(Cannibalization)、再資源化(Recycling)に分類できる。さらに、再資源化困難なものについては、焼却して熱をエネルギーとして利用する熱回収を行い、それでも回収困難な物質については埋め立てとなる。日本では、よく似た概念で、3Rという言葉が企業の環境問題取り組みの目標に掲げられている。3Rは、廃棄物の発生抑制(Reduce)、部品の再使用(Reuse)、製品の再資源化(Recycle)を意味する。循環型サプライチェーンにおいては、Reduceを前提にしており、Reuseできない部分に関してはRecycleして、資源を循環させようと努力しているのである。
リバースサプライチェーンの定義を前述したが、それと関連した用語に、リバースロジスティックスやインバースマニュファクチャリング等の言葉がある。順番に説明すると、まず、リバースロジスティックスであるが、廃棄物の物流だけでなく、新製品の返品の物流も含んでおり、返品の多い欧米では、それをどう取り扱うかは大きな問題となっている。次に、インバースマニュファクチャリングであるが、廃製品を原材料に変える分解過程であり、原材料を新製品に変える通常のマニュファクチャリングと逆なのでこのように呼ばれている。ちなみに、インバースマニュファクチャリングという用語は日本でよく使われており、海外では単にリカバリー(回収)あるいはリソースリカバリー(資源回収)と表現するのが自然である。いずれにしろ、これらの概念は循環型サプライチェーンの一部を担っており、循環型サプライチェーンを理解する上でよく耳にする用語である。
では、どうして今、循環型サプライチェーンが注目され始めているのであろうか。それは世論が環境を通した持続的社会を重視し始めたからである。製品のライフサイクルを考えたとき、その製品が循環型になっているかどうかということが、循環型社会を目指す上できわめて重要ということである。確かに、十年前と比べて、製造業の環境に対する取り組みは随分と変化した。例えば、十年前、ノートパソコンを製造していた会社は、いかに小さく、軽く、機能に富んだノートパソコンを作るかに重点を置いていた。今もそれは変わらないが、それに加えて、今はいかにリサイクルしやすいかということも重要な要素となってきている。また、それに伴って、リサイクルの前提となる廃棄物の回収も大きな課題となってきている。回収の仕組みを考えるとき、いかに効率的なリバースサプライチェーンを構築するかが大きな鍵となる。当然のことながら、通常のサプライチェーンの効率性も考慮に入れなければならないので、両方を含めた循環型サプライチェーンが注目されているのである。
本内容は、現代経営学研究所が発刊しているBusiness Insight No.57から抜粋し、編集したものである。Business Insightは、加護野教授が編集長で、長田准教授が副編集長という黄金コンビで運営している季刊誌である(※注:2008年3月当時。現在の副編集長は三矢教授です)。循環型サプライチェーンをもう少し詳しく知りたい方は、是非、現代経営学研究所の会員となって、Business Insightのバックナンバーをご注文されることをお薦めする。
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