ネットワーク外部性
出井 文男
「ネットワーク」という言葉を見ない日はないような現代ですが、これに「外部性」という言葉がついたネットワーク外部性とは何でしょうか。
携帯電話を購入する場合を考えると、一人の消費者が得る効用は明らかにその携帯電話のネットワークを使っている他の人々の数に左右されます。多くの人がそのネットワークに参加しているほど、一人の消費者の効用は増加すると考えられます。正の外部性が発生しているのです。
このように直接的物理的な効果としてネットワーク外部性が生じる以外に、間接的にネットワーク外部性が生じることがあります。パソコンを購入する場合が良い例です。どの機種を買うかは似たような機種を買っている人の多さに影響されます。その機種がたくさん売られるほど、その機種で使えるソフトが多種類供給されるからです。このことから分かるように、ハードウエアとソフトウエアが補完的な商品については、ネットワーク外部性が見られます。
自動車のような耐久消費財にもネットワーク外部性が生じます。アフターサービスの質が高いか便利かはサービスネットワークのもつ経験の程度や規模に依存します。さらにその経験と規模はこれまでにその自動車が何台売れたかに連動します。外国からの輸入車を考えると、新しいブランドやあまり知られていないブランドのサービスネットワークは未経験で小規模だという認識を消費者がもつので、最初の段階では販売が進みにくいことになります。
上述の輸入車の例は貿易においてネットワーク外部性が起こることを示す一例です。貿易におけるネットワーク外部性はこれに留まらず、以下のようなところにも現れます。それは途上国が先進国市場に新しく製品を輸出する場合です。日本がかつてテレビを米国市場に輸出したときや、最近では中国が農産品を日本市場に輸出したときには、ある時点を境に急激に輸出量が増大しました。この現象はネットワーク外部性が働いたと考えられます。
先進国の消費者は途上国からの新しい輸入品に対しては品質面や安全性に懸念をもちます。途上国の製品に安かろう悪かろうというイメージを強くもつため、輸入が開始されたときには先進国の消費者には途上国の製品に対する強い心理的抵抗感があります。しかし、先進国でより多くの消費者が買うようになるとその心理的抵抗感は弱まり、逆に途上国の製品への評価は高まります。このメカニズムがネットワーク外部性を引き起こすことになります。
途上国の企業はこのような心理的抵抗感を弱めるための手立てを色々考えてきました。日本企業が米国市場に入るため OEM という手段を使ったのはそのためと思われます。シアーズは米国の消費者を惹きつけるテレビのスタイルがどのようなものかを東芝に教えました。中国では日本の商社が農家に日本の消費者が受け入れることのできる品質と安全性をもつ農産物の生産を指導しました。
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