服部 淳一さん
大阪セント・レジス・ホテル株式会社 2016年度入学生 國部克彦ゼミ
はじめに
先日、六甲台での2度目の桜の季節を迎えました。六甲山麓に佇む歴史の風格漂う学舎群からは学びに対する『緊張感』を、キャンパスから見下ろす大阪湾や神戸の美しい街並みからは朝には『勇気』を、そして100万ドルの夜景となった夜には『癒し』を感じながら現在は、修士論文の執筆作業に励んでおります。
私は大学(外国語学部)を卒業後、東京と京都のふたつの外資系ホテルでゲストサービス、レセプション、コンシェルジュなどを経て、2010年より現在の職場で経理部門の仕事をしています。
MBAへの志望動機
転職とMBAのどちらを取るか – 2015年初夏、その問いに対して私はMBA受験を選択しました。今後のキャリア・デザインについて考えMBAに興味を持ち、学校案内を取り寄せたり関連する書籍を読み始めた矢先、思いがけず転職の誘いがありました。悩みに悩んでその誘いをお断りしたことがMBAへの思いをより一層強いものにしました。転職することで得られた経験やスキルが自分を大きくしたであろうことは想像できます。しかし、MBAで経営学を基礎から体系的に学び、視野を広げ視座を高めることが、中長期的に考えたときに今後のキャリア・デザインにより役に立つと考えました(今でもこの時の決断は間違っていなかったと思っています)。
そもそも私がMBAで学びたいと考えたきっかけは、グループホテル内での経理業務シェアードサービスセンター立ち上げと、その前提となるワークフローシステム開発のプロジェクトに参加したことでした。得るものが非常に多いプロジェクトでしたがチームビルディングや、プレゼンテーション能力、決断に至る理論的思考力など自分の至らぬ点を多々痛感したことも事実であり、この経験がMBAを志望するきっかけとなりました。また、優秀な仲間がホテル業界を去ってゆく場面に何度となく遭遇し、離職率の高さや慢性的な人材不足など深刻な問題を数多く抱えるホテル業界を何とかしたいという悶々とした思いも大きな原動力となりました。
神戸大学MBAへの志望動機
8月中旬に買い求めた『人生を変えるMBA』という書籍が神戸大学MBAについて深く知るきっかけとなり、8月下旬には過去の入試問題を受け取りに六甲台キャンパスを初めて訪問し、本館や社会科学系図書館、その他の立派な施設、そして周囲の環境に魅了され、10月下旬の体験フォーラムに参加した頃には絶対にここに合格しようと心に誓うようになっていました。それでもその間、大阪・京都・神戸にある他MBAの説明会や公開授業にはできるだけ参加しました。例えば、[講義]に関しては金融や、医療、自治体といった専門分野に強い学校、[講師]に関しては実業界出身の講師が充実している学校、[生徒]に関しては同族会社の事業継承者や中小企業の経営者、学部卒業生、留学生が多い学校など、一言でMBAといっても学校によってカラーが全く異なります。授業カリキュラムや履修スケジュール、そして会社や自宅からのアクセスなども含めて是非ご自身の目で複数の学校を確かめられることをおすすめします。私は神戸大学の[伝統]に一番心を惹かれ、結局受験は神戸大学MBA1本に絞ることとなりました。私の感じた[伝統]とは、①ブランド力(実際、入学後のプロジェクト研究等のインタビュー依頼も学校名を伝えると快く受け入れて下さるケースがほとんどでした)や、②卒業後も続くアルムナイ・ネットワーク、③教育環境の充実、そして④伝統校ならではの進取の気風、でした。
入試対策
社会人の専門職大学院受験についての情報はあまり多くなく、心構えは諸先輩方の『合格への道』を熟読することでイメージが明確になりました。入学を志してから合格通知を受け取るまで、私が意識していたことは2点、【スケジュールを管理する】ことと【受け取り手を意識する】ことでした。
【スケジュールを管理する】
出願や試験までのスケジュールを常に意識し、逆算しながら準備されることをお勧めします。それでも、働きながらの受験準備には出張や残業、そして様々なトラブルなど、思った通りには時間が取れないことが想定されます。私も同様でしたが、その対策として毎朝1時間早く自宅を出て、職場近くのカフェに通うことを習慣づけました。研究計画書や志望動機の準備、また経済紙や書籍に目を通すなど、平日に毎日1時間「MBA合格について考える時間」を設けられたことが私には合っていたのだと思います。
【受け取り手を意識する】
手に取り、目を通す方のことを意識し、例え書面であっても熱意や誠意は受け取り手に届くものと考え、出願書類や研究計画書の準備にあたりました。そうすると、自然と手書きの筆致は丁寧に、そして研究計画書は何百枚もの応募書類の中でどうすれば自分のものに教授の目が留まるかを意識した内容になるはずです。
研究計画書について
研究計画書については、入学願書をポストに投函する直前まで何度も推敲を重ねました。研究計画書をどれだけ熟慮し充実させられるかが、合否を左右する最大の要因です。とはいえ、入学前に深められる知識レベルには限界があるので、おそらく受験時の研究計画書で問われているのは「入学への熱意」と「冷静な思考・説明能力」の2点であろうと考えます。神戸大学MBAは社会人が対象ですので、職場において自分が本当に困り、悩み、問題だと感じていることに根ざした研究テーマを選ぶことが重要です。この研究を行いたい、いま行わなければならない、という迫力や切迫感を計画書の中に表現するためにも、時間をかけて自分と向きあい、「なぜ」「どうして」を繰り返しながら、経験に基づいた臨場感溢れる文章となるようご自身の言葉でまとめてください。そうすることで自分がなぜ神戸大学MBAに入学するべきなのかをより深く考える事が出来ますし、このことは二次試験(口述試験)でも、そして、入学した後も大いに役立つと考えます。
神戸大学は「学理と実際の調和」を理念としています。神戸大学MBAを教員と学生、学生と学生、(場合によっては学校と企業)といった相互間の共創的な研鑽の場たらんとする学校側の視点に立ち、自分がこのコミュニティに何を提供することができるのかといった趣旨を研究計画書に盛り込まれることも是非ご検討頂ければと思います。
1次試験・筆記試験(英語、小論文)
試験については、1次も2次も非常に寒い時期ですし、しっかりと温度調節のできる服装でお越しになることをお勧めします(特に、六甲台本館の試験会場の寒さは非常に厳しく感じました)。また、これまでの努力の成果を発揮するためにも何よりまずは体調を十分に整え、当日を迎えられることが重要であることは言うまでもありません。
【英語試験】
基準を満たしたTOEICスコアカードを入学願書に添えて提出していたため、英語試験は免除となり受験しておりません。英語を日常的に使用されている方には有利な制度と思われますので活用をお勧めします(但し、入学願書の出願期間に間に合うようスコアカードを入手するには9月試験の申し込みを7月中には行っておく必要があるかと思いますので早めのスケジュール確認をお勧めします)。英語試験について考慮する必要が無かったことで、研究計画書や口述試験の対策に時間を集中できたことが自分にとっては大きかったと思います。
【小論文】
過去の入試問題をご覧になられるとおわかり頂けるかと思いますが、毎年出題されるジャンルは大きく異なります。日頃から、新聞や経済誌などを幅広く読まれることは当然ながら、記事の内容について自分なりの見解を思い描き、それを文章に纏める練習をしておくことをおすすめします。私は上記練習を行わなかったため、意外な盲点と思われるかもしれませんが、解答が『手書き』であることに手こずってしまいました。鉛筆を用い手書きで解答用紙を埋めてゆく作業では当然ながら漢字は変換できませんし、書き間違えれば消して書き直す必要もあります。問題用紙が配られたら、すぐに答案用紙に記述を始めるのではなく、①まず論文全体の構成を考えメモを取り、②自分の考えを「序論」「本論」「結論」のなかでいかに表現するかを下書きし、③解答用紙を埋めてゆく、という作業を3分の1ずつの時間配分で実施しようと思っていましたが、③に思った以上に時間を取られ、読み返す時間が取れずヒヤッとしたことを記憶しています。
2次試験(口述試験)
口述試験は9つの教室に別れて同時進行で進められ、1つの教室につき試験官3名で約10分の面接が行われます。1次試験終了後、3週間ほど時間がありましたので、想定される質問に対する回答を用意し、事前に何度かリハーサルを実施していたことがよかったと考えています。面接では、限られた時間の中で試験官に自身の考えを簡潔にわかりやすく伝える能力を試されます。質問内容はすべて事前提出書類に記載していたことではありましたが、研究計画書についてはかなり突っ込んだ質問をされた記憶があります(その意味でも試験官が手元におく研究計画書は徹底して完成させておく必要があることをご理解頂けると思います)。難しい質問に対しては、適当に誤魔化したりいたずらに虚勢を張ったりせずに、現状ではきちんと理解出来ていないことを認める姿勢も大事かと思います。最終的には「入学への熱意」と、研究計画書に書かれた内容を淀みなく説明できる「冷静な思考・説明能力」が合否を分けるはずです。
最後に
六甲台本館の正面には、経営学部・経営学研究科の前身である神戸高等商業学校初代校長・水島銕也先生揮毫の『凌霜雪而香(霜雪を凌いで香し)』という碑が置かれています。『人生の試練に耐えて菊のように香り高く美しかれ』という教えは、MBAの学生にも、自主的に勉強会や合宿を開催し学生同士が学びあう学風として受け継がれていると感じます。また、先生方もそのような社会人学生を尊重し、ビジネスの最前線に身を置くプロフェッショナルの意見として授業中に発表や議論の時間を設けてくださるなど我々学生からも知識を得ようという姿勢を感じます。このような共創的な研鑽の場に身を置くことは、自分の短所を補うことに役立つのは勿論ですが、逆に自分の長所を確認することにも繋がると思います。
『VUCAの時代』と呼ばれて久しい我々が置かれたビジネスの場では、Volatility(変動)、Uncertainty (不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)、これら4つの要因により、極めて予測困難な状況にあるとされています。私は、MBAとは、数年後には陳腐化しているかもしれない目の前の問題の解決策を学ぶだけではなく、10年後20年後、そしてそれ以降も求められる自分で考え行動するための『学ぶ姿勢を学ぶ』場所であると考えます。神戸大学では卒業後も、本人の意志さえあれば継続的に学ぶ機会(社会人Ph.D.コースやMBA Cafe、RIAMなど)が設けられていますし、“Lifelong Commitment to Study(生涯にわたる学問へのコミットメント)”を望み、そのような場所をお探しであれば神戸大学MBAにいらっしゃることを強くおすすめします。
MBAという場を通じて得られた先生や学友など多くの人とのご縁は私にとって一生の財産です。ここで出会ったすべての方たち、そして、私がここで勉強することを応援し、支え、励ましてくれているすべての方たちに感謝しつつ、この稿を終えたいと思います。
参考図書
- 『人生を変えるMBA』神戸大学専門職大学院(MBA)(2015)有斐閣
- 『ゼミナール経営学入門 第3版』伊丹敬之・加護野忠男(2004)日本経済新聞社
- 『国内MBA研究計画書の書き方』飯野一・佐々木信吾(2003)中央経済社