環境経営システムとは何か
企業にとって環境経営は焦眉の課題となっている。しかし、そのためのシステムは十分に確立されているとは言えない。ここでは、筆者の考える環境経営システムの要件を説明しよう。
環境経営システムは、(1)環境経営理念、(2)環境マネジメントツール、(3)環境配慮型市場の3つから構成される。
(1)環境経営理念
環境経営理念とは、環境経営を推進するために、経営トップが社会に対して表明するものである。環境保全活動は、企業の自主的な行動に関わる部分が大きいので、その実行を社会に対する誓約として明示することが求められる。その内容は環境保全の実行と情報開示に大別される。
(2)環境マネジメントツール
環境経営理念を実現する技術である。代表的な環境マネジメントツールを体系化したものが下表である。
企業・事業所単位 | 製品・サービス単位 | |
環境負荷を測定・評価するツール | 環境パフォーマンス評価(EPE) | ライフサイクルアセスメント(LCA) |
環境負荷を削減するツール | 環境マネジメントシステム(EMS) | 環境配慮型設計(DFE) |
環境パフォーマンス情報を外部に開示するツール | 環境報告書 | 環境ラベル |
環境保全活動と経済活動を統合するツール | 環境会計(環境管理会計) |
上表でいうEPEは環境パフォーマンスの測定と評価の側面全体を、EMSはそこで測定・評価された情報をもとにして環境負荷を低減させるシステム一般を指す。LCAは製品のライフサイクル中でどのような環境負荷が生じるのかを定量的に把握する方法である。製品の設計開発および製造段階で環境負荷を低減させ、環境負荷の低い製品作りを支援するシステムがDFEである。環境報告書は自主的な開示手段であるが、わが国では環境省、経済産業省からガイドラインが発行されている。環境ラベルはどの製品がどの程度環境配慮的かを消費者に知らせるための手段である。
次に環境保全活動と経済活動を統合する手段が環境会計である。まず環境保全コストが測定されることにより、環境保全活動が経済活動に与える影響が明確になる。さらに環境保全ベネフィットが測定できれば、環境保全コストと対比させることで経営意思決定を支援することが可能となる。
また環境会計は、企業経営に有効な手段として開発されることも必要である。環境保全投資の評価方法やマテリアルフローコスト会計などがその代表である。これらは環境管理会計と呼ばれ、アメリカ、ドイツなどでかなり発展し、日本でも導入が進められている。
環境パフォーマンス指標を業績評価に組み込んだ環境業績評価も環境会計の一環として重要な手段である。この手法はリコー、ソニーなど先進的な一部企業で導入が始まったばかりである。
(3)環境配慮型市場
環境経営実現にはその企業を支援する市場メカニズムが不可欠である。企業が環境保全活動を行うことが市場で評価され、ステイクホルダーに選別してもらわなければ、企業は環境保全活動を継続できないためである。先述した通り環境保全活動には余剰コストが必要であり、その最終的負担者は市場を構成するステイクホルダーであるためだ。環境経営企業を支持する市場は「環境配慮型市場」と呼ぶことができる。
製品サービス市場におけるグリーンコンシューマーの動向、資本金融市場におけるグリーンインベスターの動向など、環境配慮型市場の動向の兆しはすでに芽生え、今後ますます活発化する傾向にある。
しかし、環境配慮型市場は自動的に構築されるものではない。むしろ、企業とステイクホルダー双方からの継続的な働きかけが必要である。適切な環境情報開示に加えて、環境経営理念や環境マネジメント技術もその意味において、環境配慮型市場を促進する役割も果たすのである。
Copyright©, 2003 國部 克彦
この「ビジネス・キーワード」は2002年12月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。