債権の価値損傷とその分類

岡部 孝好

一般企業における受取手形、売掛金、貸付金、銀行における貸出金は債権であり、この債権にどれほどの価値があるかは、将来の指定期日に借り手が債務(元本と利子)を弁済できるかどうかによって決まる。債務を弁済しうる借り手の潜在的能力は支払能力(solvency)といわれるが、借り手に十分な支払能力があれば、債権には額面通りの価値があるといえる。しかし、借り手の支払能力が下がってくると、貸し手の債権は価値損傷(impairment)を引き起こし、借り手が支払不能に陥ると、債権は貸倒れ(bad debt)となって、無価値になる。

債権にはその価値が完全なものと、その価値が損傷しているものとがあるが、価値損傷の程度には大きなバラツキがある。そこで、一般には、借り手の支払能力にもとづいて、ランク付けをする。一般企業の場合には、金融商品の会計基準により、(1)一般債権、(2)貸倒懸念債権、(3)破産更正等の債権、の3グループに類別するが、銀行の場合にはさらに細かくなって、金融再生法の開示基準により、(1)正常先債権、(2)要注意先債権、(3)破綻懸念先債権、(4)実質破綻先債権、(5)破綻先債権の5つに区分する。「要注意先」では価値損傷は軽微であるが、最後の「破綻先」になると借り手の事態は深刻で、会社更生法などによる法的整理が開始されている。

債権には貸倒れのリスクがつきものだから、貸し手は自衛のために、貸付けの段階でふつう物的担保や人的保証を求めている。債権がどの程度までこの担保や保証によってカバーされているかは、担保の処分価値と保証人の支払能力によって違ってくる。担保の処分価値が低くても、保証人の支払能力が低くても、貸倒れのときに、回収できる債権の金額は少なくなる。そこで、金融再生法の開示基準では、(1)預金・国債による担保か保証によって全額回収できる債権、(2)不動産担保の処分によって債権の70-80%を回収できる債権、(3)不動産担保の処分によって債権の20-30%を回収できる債権、(4)保証や担保によっては回収できない債権の4つに分類することになっている。借り手の支払能力の違いにもとづいてまず債務者区分を行い、次に担保と保証による回収可能性にもとづいてもう一度分類しなおすわけである。

金融再生法の開示基準による2つの分類基準を組み合わせて、マトリックスを作成したのが、次の表である。それぞれのセルでは、債権が?分類??分類のどれに該当するかがランク付けされているが、この類別が債権回収可能性に対する最終的評価を表している。?分類は健全債権であり、?分類??分類が価値損傷を引き起こしている不良債権にあたる。

価値損傷債権の分類(金融再生法の開示ルール)

  保証と預金・国債による担保 不動産担保(70-80%相当) 不動産担保(20-30%相当) 保証・担保なし
正常先債権 ? ? ? ?
要注意先債権 ? ? ? ?
破綻懸念先債権 ? ? ? ?
実質破綻先債権 ? ? ? ?
破綻先債権 ? ? ? ?

 

?分類:回収の危険性に問題の少ない資産。
?分類:回収について通常の度合いを超える危険性を含むと認められる資産。
?分類:最終の回収または価値について重大な懸念が存し、したがって損失の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な資産。
?分類:回収不可能または無価値と判定される資産。

各金融機関では「債務者信用格付基準」など、「自己査定基準」を設けて、不良債権を独自の方法で管理しているから、貸倒引当金の設定率は一様にはならない。しかし、この?分類??分類が貸倒引当金の算定基礎となっていることも事実である。新聞報道では、?分類では債権額の0.2%、?分類では15%、第?分類では70%、さらに?分類にもなると100%が引き当てられているという。銀行と一般企業とでは事業の性格が大幅に異なるが、一般企業においても、これからは類似の方法で、貸倒引当金の設定が行なわれることになる。

Copyright©, 2003岡部孝好
この「ビジネス・キーワード」は2001年6月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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