サプライチェーン・マネジメント

加登 豊

管理会計では、従来、内部組織のマネジメントが主な検討の対象となっていました。製品開発の初期段階からコスト低減を考える「原価企画」と呼ばれる製品開発コストマネジメントの研究が1990年前後を境に飛躍的に進展しましたが、それとともに組織内でのコスト低減だけでなく、組織間コストマネジメントの重要性が認識されるようになりました。日本的だといわれる下請け産業構造やメーカーとサプライヤーが一体となった製品開発や取引関係などについての分析も多面的に行われています。

80年代に日本企業がなぜ圧倒的な競争力を有しているかをアメリカ企業は徹底的に研究しました。その結果、単に効率的な生産システムや全員参加型の品質管理活動ばかりでなく、製品開発の進め方にも興味を持ちました。

日本から学び、それをアメリカで機能するようなシステムを次々と生み出したアメリカ企業ですが、そのひとつがサプライチェーン・マネジメント(supply chain management, SCM)です。もっとも、サプライチェーン・マネジメントは、ロジスティクスの効率化、タイム・ツー・マーケットの短縮化、情報処理技術に関する用途開発など多様なニーズを充足する動きなどの複数のルーツを持つようです。ただ大切なことは、これまでの検討が企業内部にのみ向けられていたのに対して、SCMは企業の枠を超えて企業間ネットワークにまで考察が及んでいることです。

サプライチェーン・マネジメントに関して重要な点が2つあります。ひとつは、SCMがアメリカ的な系列化の動きであるということです。いまひとつは情報処理技術をマネジメントにフル活用するという視点です。特に後者に着目すると、EDI(Electronic Data Exchange)、CALS、インターネットを活用したオープンネットワーク調達などが、サプライチェーン・マネジメントにおいて重要な位置を占めていることを象徴しています。サプライチェーン・マネジメントのためのソフトウェアもERP(Enterprise Resource Planning)として数多く開発され、これらを活用する日本企業も増加し始めています。ERPの導入によって、日本的な組織間関係、既存の業務システム、意思決定のあり方の変更を必然とするのですが、このような大きな変革は日本企業があまり得意とするものではありません。

CMはすでに述べたように、多くのルーツを持つため、同じ用語が様々な異なった意味で利用されており、多くの混乱を招いています。6月に予定されている現代経営学研究学会のワークショップでは、SCMに関してこの分野の専門家をお招きし、最新の情報を提供していただくことに加えて、SCMの本当の姿を考えてみたいと思います。ぜひ御参加ください。

Copyright©, 2003 加登豊
この「ビジネス・キーワード」は2000年3月配信の「メールジャーナル」に掲載されたものです。

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