サービタイゼーション

南知惠子

サービタイゼーションとは製造業のサービス化を表す言葉である。サービサイジングとも言う。GE(ゼネラル・エレクトリック)社が航空機エンジンのメーカーでありながら、整備計画や管理自体を提案し、製品の耐用年数を長くするというサービスを行っていることなどが知られている。製造業者は製品を納入する際に、保守運営を行なったり、機械の使用に関するトレーニングを行ったりといったサービスを提供していることがよくあるが、サービタイゼーションと呼ぶ場合は、ハードに必要なサービスを顧客に提供するという通常の業務を超え、自社製品にサービスを統合し、製品に付加価値をつけようとする行為を意味する。例えば、顧客に納めた自社製品に不具合や故障が起こり、顧客に呼ばれてから修理を行うというスタンスはサービタイゼーションとはいえず従来の付帯サービスにとどまっている。しかしながら、不具合や故障が起こる前に計画的に整備を行うことにより、顧客が所有する製品の価値を高めていくという戦略を提案すればそれはサービタイゼーションとなる。製造業者がサービタイゼーションへと動機づけられる背景として、サービスが、保守運営など安定した収入源となり得ること、あるいは製品とサービスとの組み合わせにより製品だけよりも提供物を差別化して市場に訴求しやすいことが指摘される。

サービタイゼーションを戦略的に策定するためには、顧客志向と組織編制が必要となる。自社製品の付帯サービスを追加し、顧客に有料サービスとして提供していくだけであれば、顧客企業は進んでそのサービスに支払いをしようとはしないであろう。サービタイゼーションという言葉が1980年代の終わりに初めて提唱されたときは、顧客に焦点を当てた、製品、サービス、ナレッジの組み合わせたものであることや、パッケージ化された全体包括的なアプローチとして捉えられ、顧客志向が明確にされていた。

この顧客志向を進めていくと、顧客のところに製品を必ずしも納めなくても、顧客が必要とする機能のみ提供すればよいという発想になっていく。例えば空調設備をハードとして企業や公共施設に提供していた製造企業が、施設自体の空調を管理すること自体を商材として提供するようになると、これは製造物を提供する段階から、製造物が提供する機能、例えば温度管理やエネルギー管理自体をサービス自体として提供することになる。つまり、サービタイゼーションとは、製品にサービスを付加する段階、顧客企業のニーズに合わせて製品とサービスを提供する段階、さらに顧客企業が望む機能をサービスとして、サービス自体を自社製品として提供する段階へと進行するという捉え方が可能になる。製造業者がハードを販売せず、製品機能のみを販売してサービスとして契約するのは、サービタイゼーションの最も極端な形態ということになる。

企業のサービタイゼーション戦略としては、いくつかの方向性がある。例えば、サービス提供において製品志向なのか、あるいは顧客志向なのかという点で、サービス化を進める方向性が決まる。さらに、製造業者としての自社製品でサービスを提供するのか、あるいはサードパーティーの製品を組み合わせるのかという視点においても、サービス化を進める方向性に選択肢が生まれる。製品/顧客志向と、自社/マルチベンダー志向という2つの軸でサービス化への移行プロセスを捉えると、例えば、自社製品への付加サービス段階から、製品志向の企業であれば、他社製品との組み合わせでサービス展開を進めることになり、顧客志向であれば、製品付加サービスからオペレーション・サービスへと発展するといったサービス化の進行プロセスが見られることになる。

サービス化を進めるにあたって、各々の組織の志向に適した方向性があるとは示唆されるものの、製造業者にとってサービス化を進めることには組織的に体制的な変化を求められる。製造業者は、製造における技術資源や人的資源を有していても、サービスにおける資源を最初から確保することや、育成してきているとは考えにくい。製造業者が製品中心のサービス提供から例えば顧客中心のサービス提供へと転換すること自体にある種の飛躍が必要になる。つまり顧客志向の組織的な編成換えの必要が出てくるのである。

具体的には、製品の事業部にサービス担当の組織を置くか、あるいはサービス専業の組織を立ち上げるかである。事業部にサービス業務をさせることのメリットは、製品をベースに付加的なサービスを展開しやすいという点である。設置型の製品を製造する企業にとっては、製品開発時から保守運用サービスやオペレーション・サービスにおいてサービス展開を計画できるというメリットがある。サービス専業の組織を立てることのメリットは、例えば、CS部門 にテクニカル・サポートを置き、顧客単位でサービス展開を戦略的に考えられるというメリットが存在する。

しかしながら、前者には製品ベースでサービス展開をしていくという方向性に限定されがちになり、後者では、サービス組織を事業部とは独立して立てる場合に、CS部門などプロフィット責任がない場合など、サービス開発を戦略化していくことは難しいという問題がある。そこで、統合組織の必要性が主張されることになる。

Copyright © 2014, 南知惠子

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