渡邉豊彦 さん
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学准教授
2012年度入学生 原ゼミ
1.バックグラウンド、MBAを目指すきっかけ
1991年に岡山大学医学部を卒業、泌尿器科学教室に入局し、同時に大学院に進みました。大学院では尿路感染症の基礎研究を行い、医学博士を取得しました。その間、現在の上司である教授から、臨床上の疑問をリサーチ・クエスチョンに構造化し、研究実施計画を立案した後で研究を実際に行い、得られたデータを解析処理、そして論文にまとめる、という医学アカデミアとしてあるべき姿を仕込まれました。
2年半の米国留学、 6年間の一般病院での勤務を経て、39歳時、スタッフとして帰局しました。病棟医長として、ベッドコントロール、手術管理、リスクマネジメントなど病棟業務を統括し、その後、医局長在任中は、人事、会計責任を担いました。その間、国際会議、全国規模の学会を主催し、私は、その企画、運営、会計を任されました。プログラム編成など学術面だけでなく、コンベンションセンター、ホテル、広告代理店、製薬・医療機器企業、旅行代理店との折衝を重ね、プロジェクトマネジメント、組織マネジメントの重要性を痛感しました。
また、病院が経営を考えなくてよかった時代から、経営を求められる時代に急激に変化してきています。国家財政が逼迫し、医療費抑制政策が実施され、診療報酬制度がマイナス方向で見直され、介護保険の導入により福祉に市場競争が導入されています。さらには、民間医療保険が参入し、株式会社も一部病院経営が可能となり、混合診療が特定療養費の拡大解釈で実質容認がされるようになりました。各病院は、自らの状況を分析し、戦略を策定し、経営目的を達成していくという、ごく当たり前の経営活動が必要になってきたといえます。
このように質が高く効率的な医療への要求、さらに機能分化と連携という経営環境下での戦略的経営の必要性、費用対効果の高い医療サービスの提供のためには、医師においても経営学知識が求められています。現在は、泌尿器科准教授として、一般臨床に加え、研究、学生教育、教室運営において教授を補佐し、指導する立場にあります。プロジェクトマネジメント、組織マネジメントを系統的に勉強したいという思いから、神戸大学MBAを目指すことになりました。
2.なぜ神戸大学経営学研究科なのか
歴史と伝統、優秀かつ熱心な教授陣、魅力あるプログラム、これだけでも十分なのですが、必ず“熱い連中”が集まってきます。現在、神戸大学で学び始めて半年が経過しましたが、一緒に学んでいる70余名は戦友であり、一生の知己を得たと思っております。年齢、バックグランド、専門性、置かれている環境はそれぞれ異なりますが、神戸大学の教室ではフラット・対等な関係です。とても心地よく学び、議論することができます。
3.MBA受験決意後に行ったこと
私の場合、上司がMBA取得を勧めてくれたこともあり、恵まれた環境にありますが、同僚、部下にも受験を公言し、敢えて自分を追い込んだ状況にしました。職場、家族の理解、協力なしに神戸大学MBA生活を乗り切ることはできません。また、私の場合、身近に神戸大学でMBAを取得し、その後経営学博士も取得された医師の先輩がおられますので、様々な点でアドバイスをいただいております。もしこのような先輩が周りにおられるのであれば、積極的にアドバイスを受けられることをお薦めします。
4.試験対策
1)研究計画書、経歴詳細説明書
合格の決め手は研究計画書の作成が全てであるといっても過言ではありません。十分に時間をかけて、テーマを絞り込んでください。私の場合、9月初めから研究計画書の作成に取り掛かりました。これまでのキャリアの節目節目で何を考え、どう対応してきたかを踏まえ、いま自分が仕事で抱えている問題意識を、リサーチ・クエスチョンとして構造化してください。そして、そのまま自分の言葉で書いてください。インターネットからの“コピペ”では、決して人の心を打つ文章にはなりませんし、薄っぺらなものにしかなりません。この研究を行いたい、いま行わなければならないという迫力、または切迫感を計画書の中に表現するためにも、同時に提出する経歴詳細説明書も十分に推敲し、研究計画書とリンクさせる必要性があります。MBA合格のための研究計画書の書き方のようなハウツー本もありますが、購入はしましたが、全く参考にはしませんでした。
(参考推薦図書)
- 近藤勝重 『書くことが思いつかない人のための文章教室』 幻冬舎新書
- 戸田山和久 『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』 NHKブックス
2)一次試験(英語、小論文)
大失敗でした。本学ホームページの“合格への道”の存在を知らなかったことが敗因です。必ず、私だけではなく、過去の神戸大学MBA生の合格体験記を読んで、自分にあった一次試験対策を練るようにしてください。
- 英語
一次試験対策として行ったのは、過去問の入手、新しい英和辞書を買ったこと、以上2点のみです。日常的に医学論文を読んでいるし、英文論文も書いているので、特別なことはいらないだろうと正直なめていました。これが敗因です。いざ、本番となると、知らない単語、専門用語が多く、いちいち辞書を引かねばならず、あっという間にタイムアウト。ビジネスの世界では常識である単語、略語も分からなかったのです(CSR? IR? このレベルでした)。英語に自信のある方、仕事で英語を使われている方でも、経営学とは遠い領域の仕事をされている方はまず、『加護野忠男、伊丹敬之著 ゼミナール経営学入門 日本経済新聞出版社』、『神戸大学経済経営学会編 ハンドブック経営学』で経営学概略を掴み、経営学単語に親しむことが大切です。 - 小論文
小論文対策も基本的に英語と同様です。経営学の基礎知識を上記2冊をはじめとするテキストで身につけてください。日経ビジネスを定期購読し、毎週のテーマを、実際の試験と同じように制限時間内、制限字数以内で自分の考え、主張を簡素にまとめ、実際に書いてみる練習を繰り返しするのがいいかと思います。
3)二次試験(面接)
3対1の面接で、10分程度で終わります。研究計画書の内容に沿って質問が行われると思っていたのですが、問『岡山からどうやって通われますか』:答『新幹線で通います。金曜日は講義後宿泊も可能です。』、問『合格後、勉強する時間はとれますか?土曜日の講義はちゃんと出てこられますか?』答『時間を上手く作るよう工夫します。職場の協力・応援も得られます。頑張ります!』のような感じで和やかに終了。担当教員によっては、厳しく研究内容を突っ込まれるそうです。経験上、面接の時点で、ほとんど合否は決まっていると思います。身嗜みに心を配り、礼を失することなく、堂々と臨んでください。試験当日の六甲台の試験会場は冷えます。防寒用具をお忘れなく。
5.最後に
神戸大学で学ぶようになって、これまで自分がいかに狭い世界、常識の中で生きてきたことを思い知らされました。漫然と過ぎていく、また過ごせてしまう日常に不満、不安を覚え、新たな領域の知識を身につけたいという欲求、ある種の刺激をもとめ受験したのですが、“ここまでの刺激はいらないよ!!”というぐらい、刺激的な生活を送っています。連日の課題レポート作成、グループワーク、深夜のスカイプ会議と息つく暇もなく、タイムマネジメント、体調管理が要求されます。グループワークの後、六甲キャンパスから眺める神戸の夜景は最高です。是非とも、皆様が合格され、ともに学べることを祈念しております。