藤野憲治 さん
東神開発株式会社勤務 2009年度修了生 髙嶋ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
2008年4月入学で高嶋ゼミ(マーケティング)所属、2009年9月にMBAを修了しました。
私は髙島屋グループの商業ディベロッパーである東神開発に勤務しています。東神開発は日本初の専業の商業ディベロッパーとして1963年に髙島屋、三和銀行(当時)、日本生命、野村不動産の4社共同出資によって設立されました。私の主な業務は商業施設の開発や再生で、新たな商業施設企画のためのマーケティングリサーチ、基本コンセプトの構築、具体的なテナントミックスプランの設計、テナント誘致、プロモーションを中心とした開業業務などを行っています。
私は今の会社に2004年の12月に転職しましたので現時点(原稿執筆時点2010年7月)で6年弱のキャリアです。
もともと私は高校卒業後6年間の社会人生活を経てから大学に入学したという少し変わった経歴を有しています。 MBAの同期や先輩方にも個々に様々なキャリアを持っている方がいらっしゃいますが、私と同じような方は聞いたことがなく、過去の人生の中でも同じようなキャリアの方は殆どお会いしたことがありません。従って私は一般的な神戸大のMBA生とは少し毛色の違う“非エリート”のMBA生と言えるかもしれません。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
私は今春(2010年春)ある商業施設の再生の担当となったため、福岡に転勤したのですが、それまでは大阪、さらにその前は東京に勤務していました。大阪へ転勤してきた際に感じたことは東京に比べ、大阪は中堅のビジネスパーソンの層が薄いというか、2000年以降東京一極集中が加速したことで、仕事やビジネスの話で盛り上がれる同世代のビジネスパーソンが大阪には少なくなっていると感じていました。そこで、「関西に住みながら、前向きで刺激を受けられるビジネスパーソン達に一番効率よく出会える場所」は何処かと考えて出た答えが「神戸大MBAコース」でした。
関西は京都を中心に大学の数は多いですが、MBAを志向するようなビジネスパーソンの数は限られているため、MBAマーケットは供給過多状況で、殆どの大学が実質的な競争倍率が1倍程度以下であるのに対して、神戸大のそれは低くても2倍程度、我々の年以降は概ね3倍程度とそれなりのハードルを乗り越えて入学しなければなりません。その選考を突破したビジネスパーソン達が集まっています。その見立ては合格後、入学してから“正解”であったと確信しました。MBA生のレベルが高い。また、私は入学時37才で入学者の丁度平均の年齢だったため、殆どの同期の方と肩に力を入れずに話すことができたことも良かったのかも知れません。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
簡単に「達成できた」とは言い切れません。私立に比べて格段に少ないとは言え、1年半で100?150万円程度は投資した訳ですし、日本の多くの企業がそうですがMBA取得が昇進や昇給に直接結びつく訳ではありません(私の場合、社内に対してMBAに通っていたこと、修了したことを公言していなかったため、その効果はゼロで当然ですが(笑))。MBAというタイトルを得たことの自己満足にとどまらず、如何に価値を独自に創造的に構築していけるかがそれぞれの人のセンスの違いになると思います。
企業派遣のMBA生であれば修了すること、無事1年半(2年)でMBAを取得することで基本的な目的は達成されるかも知れませんが、私のように自費で、しかも会社にも大っぴらに言わずに通った者は実際にMBAに通ったことによって何らかの資産を得なければ殆ど意味がありません。
またその資産はMBAのテキストに載っている知識では時間と共に陳腐化してしまいますし、テキストを買えば、その多くは得ることができますので、それではないと思っていました。自分自身10年前に中小企業診断士の資格を取得した後、「知識は陳腐化する」ということは身をもって体験していましたので(笑)、よりこのような思考になったのかも知れません(但し、神戸大ではMBAとして単に知識を得るのではなく、考え方を身に付けるということを標榜しています。その点に関しては他の多くの方が「在学生の声」や「修了生の声」でコメントしているのでそちらをご参照ください)。私は自分が得る資産として徹底して“人”に拘りました。(働きながらMBAに通おうと思うということなど)志向が似ていて、質のいい70人の同期生がいれば何らかのカタチで一生付き合う人が5?10人くらいはできるのではないかと入学した時に直感的に考えました。同じ時期にMBAに通っていて単に知り合いができた程度は自分の生活に大きな変化はもたらさないと思い、少し変な言い方ですが、単に「人を知る」程度に留まらず、“その人の懐に食い込む”くらいの意気込みが必要だと考え、行動しました。
具体的な行動例の一つとしては、授業の後の大人数での飲み会にはあまり参加せず、70人の同期の中から順番に1名か2名ずつ声を掛けて飲みに行ったり、平日の昼に大阪や京都などでランチを共にしたりしました。残念ながら、“同期全員”とまではいきませんでしたが、半分から7割程度の方とは何らかの面と向かった機会を持つことができました。授業後の全体飲み会やゼミの飲み会にはあまり参加しないのに個別に一人一人を誘い出す私の行動は同期の人達にも少し“不審”に思われていたかも知れません(笑)。
私のこのようなMBA期間での行動が実を結んだかを評価するには修了後、5年・10年の期間が必要ですが、今のところはいい方向に向かっていると感じています。M1(修士課程1年)の年末に同期の井上貴文さんとスタートした「神戸アウトドアクラブ」という山登り・アウトドアのクラブは同期だけにとどまらず、MBAの先輩・後輩まで巻き込んだ活動を修了後の今も継続していますので、一つの大きな成果だと思っています。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
まずは、好き好んで働きながらのMBAに飛び込んでいるので、時間的にタイトであったとしてもそのハードさを“負担に感じない”ことが重要だと考えていました。レポート作成やプロジェクト発表のためのパワーポイント作成は楽しいことだと思ってやっていました。ただ、現実的な問題として通常の業務に加えて毎週のレポートなどの提出課題やプロジェクトのグループミーティング、授業の予習など、時間が取られるため、今までの生活を変えて、時間を捻出しなければなりませんでした。
そこで、私がした工夫は一言で言うと、「MBAの期間に限っては今まで飲みに行っていた人と夜に飲みに行かない」ということでした。MBA入学前までは毎週1?2回は夜に友人や仕事の関係者、会社の同僚と飲みに行っていたのですが、08年4月以降は周りの方には申し訳なかったのですが、基本的に夜は飲みに行かずに、友人や仕事関係の知り合いと会う場合はランチに限定しました。ランチなら時間が1時間程度と限定されるし、お酒も飲まないのでダラダラと時間を消費してしまうことがなく、非常に効率的だったと感じています。さらに、ランチをだけでは時間が足りない場合は、相手にもよりますが、出勤前の朝の時間帯にスターバックスなどでミーティングするようにしました。
5. 神戸大学の修学環境についてお聞かせ下さい。
神戸大MBAはいい意味でも悪い意味でもアカデミック志向です。修士論文を課しているのがその一つの象徴でもありますし、修士論文を書くことは社会人としてはいい経験になりますが、ビジネスマンとしてはその経験がなくても特に問題はないですし、会社で調査などを定期的に行うとかでなければ直接的に何か役に立つ訳でもないと感じています。また講師陣は金井教授をはじめ有名な先生も多くおられ、その多くの先生方が大学で研究を行ってこられたアカデミック色の強い講師構成になっています。実業界の経験のある先生は平野教授など、ごく一部の先生であるというのもMBAということを考えると逆に神戸大の特徴であると言えるかも知れません。勿論、大学院で学ぶ以上本当の実学志向、即物的な授業でないことは理解していますが、個人的な感想としては実業界出身の先生が豊富なMBAコースなどではどのような体験ができるのかということに純粋な興味はあります。
そんな中で自分が体験した講義で印象に残っているのが、忽那教授の「ベンチャー起業応用研究」などで行われた実務家の講義でした。ターンアラウンドマネージャーの笹井氏やベンチャーキャピタリストの山本氏、M&AコンサルのGCAサヴィアンの講師陣は正に今の時代をアライブしている方々で、それだけに言葉に説得力があります。笹井氏が再生のために派遣された企業で戦略(考え方)を浸透させるために何が一番重要だったかというと、「痛風になるまで社員と飲みに行くこと」だったそうです。こんなマネジメントの極意などはどのHR系の講義でも教えてはくれないのではないかと思っています。
6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
二つのプロジェクト研究(前期:ケースプロジェクトと後期:テーマプロジェクト)のうち特に後期のテーマプロジェクトはある程度、クラスのメンバーの個性を知った上で、メンバー編成から自分達で行うということが非常に有意義でした。
「もし、自分が会社を興すとすればクラスの中の誰と組むか?」????自分自身がMBA生活を過ごす中で常に持っていた一つの視点でした。
両プロジェクトとも実際に研究対象企業の方にインタビューし生の声を聞かせていただき、またそれをもとにチームメンバーで議論を進めていったことに得るものが多かったです。テキストには書いていない生の体験でした。しかも神戸大という信頼(ブランド)やチームの仲間のネットワークで普段は会えない大手企業の経営者や業界の重要人物にも会って議論できたことはすごくラッキーだったと思います。
二つのプロジェクトは私の中では独自に設定した軸において、継続・発展したプロジェクトでした。まず前期のケースプロジェクトを経験して我々のグループとして得た教訓がありました。それはアルフレッド・チャンドラーの言う「組織は戦略に従う」ではなく、その逆で“戦略は組織(人)に従う”ということでした。これは『ビジョナリー・カンパニーⅡ』でジェームズ・C.コリンズが言葉を変えて何度も訴えている「誰をバスに乗せるのか?」ということと同じ意味なのですが、ケースプロジェクトでの企業の改革の過程を研究することによって得た結果でした。その結果を受けて、後期のテーマプロジェクトではまず、パフォーマンスが最も上がりそうなメンバー構成を自分で考え、リクルーティングしました。議論のエンジンとなるような人、考える力の強い人、データ収集や資料作成などの地味な作業を堅実にこなす人、率先して仕事に取り掛かってくれる人、決まったことを着実にこなしてくれる人です。組織なので4番バッターばかりではやはり機能しません。突破役や繋ぎ役がいてこそ、組織全体のパフォーマンスが上がると考えてチームを編成・構成し、そのメンバーで研究して最も力を結集しやすいと思われるテーマを後で設定しました。たまたまFA(ファクトリー・オートメーション)業界に関わる仕事をしているメンバーが多かったため、テーマもその関連に自然と決まりましたが、私の仕事や興味の延長線上で考えると流通や小売業界のマーケティング的なテーマに落ち着いていたと思います。しかし、テーマプロジェクトに関してはメンバー優先でテーマを設定する、それが“組織のパフォーマンスを上げる王道である”というある種の信念を持って臨んだため、テーマには拘りませんでした。結果的には自分自身が全く知らなかった業界のことについて知ることができたり、その業界の有力な方にお会いできたりし、貴重な経験になりました。
また、テーマプロジェクトの我々のグループのパフォーマンスは、12チーム中最終順位が4位ということで特別に高かった訳ではないですが、この結果自体はゼミの先生方に最終発表のみで評価されたことなのであまり気にしていません。それよりもグループのメンバーが本当に熱い議論をし尽くし、限られた期間・時間の中で目いっぱいのリサーチに没頭できたことが何よりの成果だったと私は思っています。
またそのメンバーの中で私はできればそのコーディネーター役というかそれぞれのメンバーの個性や能力を一番発揮してもらえる環境を整えるというか、そういう役回りをできればと思っていました。よく言えば、サッカーに例えるなら中盤でパスを出す、前後左右に配球するパッサーの役回りを担えればと思っていました。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
上記で書いていることとも関連するのですが、神戸大MBAで学んだことにより二つの変化がありました。(1)組織にとって人が重要であることを本当の意味で初めて認識したこと、(2)リーダーシップについて考えたことです。
(1)は元々自分自身は企業にとって重要なことはマーケティングや経営などの戦略であって、その優劣がパフォーマンスも決定すると信じていました。しかし、前期のケースプロジェクトや後期のテーマプロジェクトでのある種の“実験”を通じて、優秀な経営者がいい戦略を構築してもそれを遂行するのは従業員(=人)であって、結局は戦略を遂行する人のレベルが企業のパフォーマンスも決定するということを幾つかの事実を目の当たりにして実感できたことが自分にとって考え方の大きな変化でした。
(2)は社会人MBAという特殊な集団の中に1年半いることによって感じたことでした。平素我々が準拠している会社ではもともと明確な序列が決まっているため、仕事を進めていく際に「この部署のリーダーは誰なのか?」と悩むことは基本的ありませんが、社会人MBAは会社での肩書や年齢はそれぞれ異なりますが序列というものは全くありません。ただ、グループワークを進めていく際にはやはりリードする人が必要ですが、自分より優秀で年齢も会社での肩書も上の人達を如何にすればリードすることができるのか、自分の発言に説得力を持たせるためにはどういった行動を普段から取るべきなのか?ということをもの凄く考えました。これもMBAに入らなければ得られなかった経験であり、今までの会社生活では得られない大きな変化でした。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
MBAの期間をより充実したものにするためには、自分自身の反省も含めてですが、MBAに入る、修了するのが目的ではなく、MBA修了後のその先にどのような目的・目標があるのか?何を実現するための過程としてMBAがあるのか?ということをより具体的にイメージ、位置づけることがより重要かと思います。また、マネジメントやマーケティングの知識を得るのではなく、折角、優秀な教授陣とMBA生と相対する訳であるので、そこでのコミュニケーションを通じて何を得るのか?という具体的な目的を持った方がより有意義だと思います。
プレゼンテーションのスキルを身につけるのか?論理的な思考力、論理的会話力を習得するのか?リーダーシップか?一生付き合える恩師や親友を得るのか?等々、テキストを読んで得られるものではない無形の何を得るのかを具体的に目標設定することで、MBA期間中に色々と試せることもあるでしょうし、自身の行動も有機的になってくると思います。 また晴れて入学された暁には積極的にみんなの前でプレゼンテーションできる場を活用していただきたいと思います。日本人は一般的に人前で発表することやプレゼンテーションすることに対して遠慮する人が大半ですが、少し冷静に考えれば神戸大MBA生、OB、教授陣を前にプレゼンし、それを評価してもらえ、しかも失敗しても取引先を失ったり、出世に響くなど、なんのマイナスも蒙らないような恵まれた機会はそうそうあるものではありません。しかし、「発表に対して、遠慮がち」という姿勢は残念ながら神戸大MBAでもその傾向は散見されました。できれば折角多くの方が自ら望んでMBAに参加しているのですから、みんなが積極的にプレゼンテーターに立候補し、チーム内で予選をやるくらいの気概があればより良かったと思いますので、是非M1の方やこれから受験・入学される方は頭の片隅に留めておいていただければと思います。
また、受験の関門の突破に関してはこのサイト内の「合格への道」の中で書かせていただいておりますのでそちらを参考にして頂ければと思います。