相澤卓也 さん

阪和興業株式会社勤務 2009年度修了生 平野(光)ゼミ

1. プロフィールをお聞かせ下さい。

阪和興業という商社の人事部で、人事制度の企画や運用など、人事業務全般に幅広く携わっています。人事部に異動する前は、2度の海外駐在を含めて、食品部で水産物の営業を通算18年半担当していました。神戸大学のMBAコースには2008年4月に入学し、人的資源管理を中心に研究する平野ゼミに所属し、2009年9月に修了しました。

2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?

まず、なぜMBAで学ぶ決意をしたかを説明します。数年前に営業から人事部に異動して、人事や会社全体に関する意見を求められることが増えました。そういったときに、今までの実務経験と勘で反射的に説明しようとしてもうまく説明できず、説得力に乏しいと感じることが多々ありました。そこで、自分が担当している人事制度や経営全般に関する知識や理論の裏づけがあれば、自分の言いたいことを分かりやすく説明でき、説得力がヨリ高まるのではないかと考えました。知識だけなら書籍やインターネットから得ることが可能です。しかし、高い問題意識を持つ学生とともに経営に関する専門的で高度な理論を学び、理論をこれからの実践に結び付けたいと考え、大学院に進学し経営学を学ぶことを決意しました。

それで、神戸大学MBAを選択した理由ですが、自分が学ぶ大学院を選ぶに当たり、第一に仕事を継続しながら学べる大学院であること、第二にプログラムが充実していることの2点を比較検討した上で決めようと考えました。神戸大学MBAプログラムは、1年半で修了できるので、業務への影響を最小に抑えながら就学できることに魅力を感じました。また、会社や自宅からのアクセスがよく、通学の負担が少ないこともありました。次に、プログラムについては、他大学のMBAプログラムのホームページに掲載されているシラバスやカリキュラムを比較検討しました。神戸大学MBAプログラムでは、担当される教授が作成した詳細なシラバスが掲示されており、講義の品質への自信と、何よりも講義にかける「熱さ」を感じました。また、受身になりがちな講義だけではなく、チームによる問題解決を図るプロジェクト方式や専門職学位論文作成のためのゼミなど、BJL(By the Job Learning)を標榜するだけあって、社会人の問題意識をよく考えた上でバランスよく構成されていると感じました。時間割も公開されており、どのようにプログラム全体が組み立てられているかも確認できました。また、経営学を学ぶなら神戸大学、という思いもありましたし、すばらしい教授陣から直接教えを請うことができることも魅力的でした。そしてカリキュラムのコストが非常にリーズナブルであることが決め手になりました。入試倍率が高く合格できるか不安でしたが、神戸大学MBAプログラムだけを私は受験しました。

3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?

当初の目的は十分達成できたと感じます。まず、講義を通じて、高度な理論を理解するための基本的な知識を体系的に正しく身につけることができました。また、現代経営学演習(ゼミ)では、専門職学位論文のテーマに関する分野の専門的な論文や書籍をレビューします。講義を通じて経営学の基本が理解できていることが、高度で専門的な理論を理解するうえで自分にとって大きな助けとなりました。その結果、MBAで学んだ知識や理論のレンズを通して、今までとは異なる視点から様々な事象を捉えることができるようになりました。また、ゼミでの指導によって複雑な事象を分析する手法が身についたこともあり、今までよりも自分の意見に厚みが増し、説得力が高まったと実感しています。

4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。

想像以上にハードな1年半でした。仕事と家庭の間でかろうじてバランスが保たれていた入学前の生活リズムに、「神戸大学」が突然割り込んできて、予想していたとはいえ相当振り回されました。

1回生では、土曜日に5コマまたは6コマ、金曜日の夜間にも2コマ(1コマは90分)の講義がありますので、必読文献やケーススタディのケースを予習して理解度を深める努力が欠かせません。それに加えて、各講義で出される課題レポート、プロジェクトの情報収集やプレゼンテーション作成など、どんどん負荷が上がります。時間は24時間しかありませんから、どうやって勉強に割ける時間をひねり出すかに当初はかなり苦労しました。入学当初は、帰宅後の深夜と日曜日に勉強を割り当てていましたが、これだと仕事と勉強にしか時間が割り振れていません。こんなことでは家族の理解は得られるわけもありません。そこで、日曜日の朝から夜までは意識的に勉強しないようにして家族と過ごし、主に早朝に集中して勉強するようにしました。それでもレポートが立て込んでくると徹夜が多くなり、睡眠時間はどんどん減ってきます。2回生になると基本的にはゼミだけですが、学位論文作成の負荷が最高潮に達しますので、ずっと論文のことを考えている状態に陥ります。こうして家族と過ごす時間は格段に減り、コミュニケーションも少なくなりがちです。日曜日でもなにかが頭からはなれないことも多く、家庭人失格といわれても仕方ないぐらい、家族には在学中を通して多大な負担をかけました。それに耐えてくれた家族には本当に感謝しています。

また、職場の上司や同僚、部下の理解や協力も欠かせません。毎日の課業は待ってくれませんし、突発案件や例外事項にも対応しなければなりません。そこで、毎日のルーティンワークを中心に対応するため、早朝出勤し、始業前までにルーティンワークを片付けるなどして、仕事の効率を落とさないようにしました。一方で、土曜日にはできるだけ仕事を入れないような工夫や、レポートや課題が多いときや、特に論文作成が終盤に差し掛かってきたころに休暇を集中して取らせてもらうなど、様々な形で協力をお願いしました。仕事柄出張も多く、入学当初は移動中に文献を読むなどしていましたが、移動中は睡眠時間と割り切って体力の回復を図り、泊まりの出張でも早朝に勉強するペースをなるべく崩さないようにしました。そういう1週間に慣れてきて自分なりのペースがつかめてくるころには、勉強と仕事の効率が格段に上がりました。

そして、同期の仲間の学ぶ姿勢に本当に助けられました。神戸大学MBAプログラムで学ぶ仲間は、全員在職のまま勉強に励んでいます。私よりも苛酷な環境で勉強を続けている方もいます。年齢や地位を超えて様々なグループが形成され、そういった仲間に励まされて修了まで来ることができたと思います。

5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。

カリキュラムは、講義、プロジェクト研究、ゼミの3本立てで、1年半で修了するために緻密に組み立てられています。

講義科目は、シラバスと時間割をご参照いただくとして、MBAとして必要な知識を身に付けるために十分であるだけでなく、現代のトピックを取り上げた科目や実務家による科目も用意されています。講義だけでなくケーススタディも取り入れられており、グループディスカッションや課題レポートを通じて、講義が一方通行にならないように工夫されていて、担当される教授方が入念に準備されてきていることがよくわかります。書籍を読むだけでなく、講義を受け、仲間と議論し、課題レポートを作成する過程で、自分の理解度を確かめながら学ぶことができました。

講義以外では、ケースプロジェクト研究とテーマプロジェクト研究が必修です。それぞれのプロジェクト研究の詳細は、シラバスやプロジェクト発表会のページをご参照いただくとして、研究対象や課題を選び、仮説を設定し、フィールドワークを通じて仮説を検証するというプロセスを、異なるバックグラウンドを持つグループメンバーとともに回していきます。企業選定からプレゼンテーションまで、グループで何度となく議論を戦わせ、協力しながら完成させていくプロセスを経て、グループメンバーの多様な考えや意見から刺激を受けることで自分の思考が鍛えられます。

また、専門職学位論文の作成が義務付けられており、学位論文作成に向けて、1回生後期からゼミがスタートします。私は「知的体育会系」の平野ゼミで1年間お世話になりました。ゼミでは、専門職学位論文のための研究指導が行なわれます。テーマ探しで迷い、やっと探しあてたテーマに沿った先行研究をレビューし、自分なりに仮説を設定し、フレームワークや数式で表現し、データを集めて仮説を検証していきます。ゼミでの発表で論理展開が怪しいと、平野教授や朴さん(TA:博士後期課程3回生)、あるいは他のゼミ生から容赦なく指摘・批判され、軌道修正を求められます。また、ゼミが終わると、場所を変えての「補講」(要するに「飲み会」です)でさらに教授や仲間から教えを請い、次のゼミに備えることになります。次のゼミまでにご指摘をもとに再度思考をまとめ、それを表現する作業を繰り返します。このように、講義から学ぶ経営学の知識の習得もさることながら、ケースプロジェクト研究に始まり、ゼミでの指導と学位論文作成の濃密な思考プロセスの中で苦しむことで、さらに論理的な思考と表現力が鍛え上げられていきます。その成果として学位論文を仕上げ、審査会で合格したことで、MBAで学んだ集大成となりました。

こういった活動を支える施設・資源も充実していて助かりました。その中でも社会科学系図書館は、経営学や経済学の資料の宝庫で、必要な書籍や論文はほぼすべて図書館にあり、入学当初から学位論文作成まで、よく活用しました。また、社会人大学院生のための自習室には、無線・有線LANが完備されており、専用のコピー機も設置されていて、レポートや学位論文の追い込みのときにはよく利用していました。あと、ネットワーク環境でいうと、外部からでも学内ネットワークに入ることができるので、たとえば自宅にいながら、世界中の電子ジャーナルやサーベイリサーチに欠かせない統計ソフト(SPSS)にアクセスできます。

最後に、人脈を得るために神戸大学MBAプログラムの門をたたいたわけではありませんが、 会社にいるだけではまず出会うことのない人々と同期になりました。特に、2つのプロジェクト研究のグループやゼミの仲間とは濃い時間をすごしただけに非常に印象的です。その他の同期も含めて意識が高く、これだけ多様なのに共通の何かを感じます。これが「縁」なのだと思います。結果的にはすばらしい人脈形成になったと思います。また、平野ゼミはOBとの交流もあり、さらに人脈が広がっています。

6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?

ゼミと2つのプロジェクト研究を除いて、数多い講義の中から印象深かったものを、受講順に3つご紹介したいと思います(それぞれの内容は、シラバスをご参照ください)。ご紹介できない授業もそれぞれ十二分に堪能いたしました。

第一は、三品教授のゼネラルマネジメント応用研究です。いまでも忘れもしない第一日目、これからどんな授業が繰り広げられるか不安と期待が入り混じった雰囲気の中に、三品教授が登場して講義が始まります。ディスカッションで教授が発言を促しますが、誰も発言しようとしません。そこで、いきなり誰かが突然指名され、自分なりの答をその場で出さなければなりません。こうして全員が神戸大学MBAプログラムの洗礼を受けます。これから始まる1年半にわたるMBAでの学びの基礎になった講義だったと私は位置づけています。最終試験はこれまたユニークで、対策はほとんど不可能です。今までどれだけ主体的に学んできたかを問う問題になっていたと思います。

第二は、「コジケン」こと、小島教授の経営戦略応用研究I&IIです。過年度に比べてレポートの本数が減ったとはいえ、グループレポートを1本、個人レポート5本が要求され、1本当たりのボリュームは論文並みです。レポート期限が近づくと頭の中はレポートのことばかりで、深夜でもメールが飛び交い、やっとの思いでレポートを完成させます。実務でも実際に手を動かさないと覚えが悪いのと同じで、経営分析を何本も自分の手でやったことで、手法がしっかり身に付いたと思います。

第三は、松尾教授のオペレーションズマネジメント応用研究で、10月に実施されるMBAフォーラムの公開授業でもあります。基本的にはハーバードの英文ケースを中心に使ったケーススタディで、グループを自己編成し、全グループ共通のレポートを1本、グループ発表を1本、最後に試験としての個人レポートを1本出します。グループ担当以外のケースでも積極的な発言が求められるので、必読文献を読み込み、その日に使われるケースの予習が欠かせません。ケースを緻密に分析し、議論を戦わせていくプロセスで、思考がさらに鍛えられました。非常に楽しい授業でした。

7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

MBAプログラムの1年半の間は、全力で走っているという感じしかありませんし、修了しても自分が劇的に変化したという感じはまだ得られていません。それでも少しは変わったな、と思えることがいくつかあります。どのような事象でも、表面的な症状(Symptom)に左右されることなく、原因(Cause)をつきとめて解決策を導き出せるよう、いままでより批判的に事象を捉えるようになったと思います。また、仕事を続けながら学生生活を送ることで、想像以上の負荷がかかります。ハードなカリキュラムをこなして修了までこぎつけたことは、自分の自信につながっています。MBAで鍛えられたことで、何事にも今まで以上に落ち着いて対処し、意思決定できるようになってきたと感じています。学生時代のことよりも、これからMBAで得たことを会社や社会に還元するためにも、これからの研鑽のほうが重要と改めて感じます。

8. これから受験を考えているみなさんへアドバイスをお願いします。

もしMBAプログラムに興味があって、仕事や家庭の理解を得られそうなら、ぜひ神戸大学MBAプログラムをご検討ください。なぜ学びたいのかという強い動機、それと貪欲な知的好奇心があれば、濃密でエキサイティングな1年半(または2年)になることを保証します。もし実務的な知識やその応用を求めるのであれば、神戸大学MBAである必然性はないと思います。それではなぜ神戸でなければならないのか。それは、プロジェクト研究やゼミ、それと学位論文の作成、つまりresearch-based educationを通じて事象の本質にどのように迫るか、また理論と実践をどのように融合させていくのかについて、深く学ぶことができるからだと考えます。さらに、神戸では、実務家だけがこの場に参加して学ぶことができます。責任ある仕事を任されるポジションにいながら、さらに学ぼうとする意欲の高い人々が集まっています。そういう仲間とともに学会をリードする素晴らしい教授陣から学ぶ体験は、一生の財産になると思います。カリキュラムはハードですが大丈夫。仕事との両立は大変ですが大丈夫。同期の仲間も同じ思いで走っています。

ぜひ挑戦してください。本当に面白いですから。

前の記事

寺田多一郎 さん

次の記事

藤野憲治 さん