池口 拓也さん
川崎重工業株式会社勤務 2019年度入学生 伊藤宗彦ゼミ
はじめに
私が在住する神戸は先日梅雨入りし、蒸し暑い夏の香りを感じる季節となりました。例年であれば六甲台キャンパスから大阪湾および阪神間の眺望を楽しみつつ、図書館や自習室で友人と和気あいあいとしながら修士論文を仕上げている時期だと思います。しかし、今年は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために外出もままならない状況ですが、このような状況を鑑みて諸先生方が綿密に対応を協議され、現在は遠隔での講義開催およびゼミ指導が進められています。周りの環境が大きく変化しても、それに惑わされずに、継続してこの学べる機会をいただけたことを肝に銘じて、現在は修士論文を書きながら目の前の壁を1つずつ乗り越えていく日々です(ちょっとだけ寝ようと思ったら朝まで寝てしまったことも多々ありますが…)。私自身も本学MBAに興味を持った際にこのページを幾度も閲覧したことは覚えています。私はエネルギー分野の製品開発業務に従事しておりMBAに関する知識はありませんでしたが、自分が抱える問題意識を体系的に研究している学問分野があることを知り、学んでみたいと強く思いました。実際に入学してからわかったことですが、学ぶことは想像以上に楽しく、また同期との人脈も広がり、本当に受験してよかったと思っています。この執筆の依頼を受けた時にはいささか戸惑いもありましたが、私の体験をご紹介することで、これからMBAを目指そうとしている皆さまに少しでもお役に立てたら幸いです。
本学MBAを知るきっかけ
本学MBAの存在は、入社してから比較的早いうちから知っていました。入社後すぐの同期の飲み会で工学博士である友人(現在、中小企業診断士の資格取得)が「神戸大学に社会人MBAがあるらしいよ。授業料も安いし通いやすいから、機会があれば行ってみたいね。」と話していたからでした。それ以降15年間は特に意識せず頭の片隅に置いていました。
私の問題意識
幾つかの製品開発をこなすうちに、今後の製品開発の方向性のあり方について悩んでいました。世界一の効率を誇る製品を開発しても市場浸透には時間がかかったり、プロジェクトマネジメントや製品企画に参画する機会が増える一方で、社内調整に想像以上に時間がかかったりしたことも多々ありました。あわせて、当社での組織再編をおこなう時期も重なり、私の部門は2017年からカンパニー再編やディビジョン制の導入など、業務執行体制の変更により毎年組織が変わることを目の当たりにしました。組織再編に伴いカンパニー内でシナジー効果を高めた収益改善が求められてきましたが、当時は私自身が受動的かつ画一的な対応しかできず、業務改善へ直接結びつけられずに悩んでおりました。
受験を決意
ちょうどその頃に、本社人事で課長をしていた同期へ相談したところ、「本学MBAを修了されたOBが隣の部署(実際は背中越しの席だったようです)にいるから話を聞いてもらったらどう?」ということで、OBの方にも同席してもらい、8月末に話を聞いてもらいました。すると、経営学に「戦略」という学問分野があること、書籍や通信教育では経験できない幅広い年齢層との人脈構築の機会があること、そして、10月上旬に本学で「神戸大学MBA体験フォーラム:神戸大学MBA プログラムの公開授業と説明会」が開催されることを知りました。このフォーラムが開催される約1か月前くらいだったと思いますが、急いでメンバー登録をおこない、メールおよび電話で聴講可能であることを確認し、その2日後に募集終了のメールを受信したことを記憶しています。そして、フォーラム開催当日、六甲台キャンパスの本館206教室へ向かい、緊張感がある雰囲気のなか、三品和広先生による公開授業「戦略は人に宿る:ジャック・ウェルチの教訓」が始まりました。150人もいる生徒に対して、三品先生の「なぜそう思う?」「キーワードをちゃんと覚えている人はいないのか?」と的確な指摘と含蓄に富んだ真理を衝いた言葉から、この授業のエッセンスに至るまであっという間の90分でした。授業後の率直な感想は、「なんて面白い講義なんだ!!」と気持ちが高揚し、また正門近くの階段上からの眺めをみて、このような素晴らしい先生方と学べる環境が整った本学MBAの受験をチャレンジしよう、と決意することになりました。今思えば、このカスタマーエクスペリエンスが私の期待を超えた「心の満足」に繋がり、神大MBAのファンとなった記念の日でもありました。
出願・受験準備および受験当日
私は10月上旬に受験を決意したので、準備までの時間はあまり残されておりませんでした。まずは、出願に必要な書類と過去の入試問題を取り寄せることです。神戸大学MBA体験フォーラムでも入学願書一式は受け取りましたが、書き損じも考慮して、入学願書請求依頼を経営学研究科教務係へ送付しました。合わせて、神戸大学生協の入試問題コピーサービスに連絡し、可能な限りの過去問(3年分)を取り寄せました。特に、願書提出時に必要な「成績証明書」、「卒業証明書」、「在職証明書」は受け取るまでに時間がかかるので、出身大学および社内人事担当へ早めに作成依頼をしたほうが良いです。
研究計画書については、そもそもの書き方が分からなかったので、末尾の参考書を見たり、OBの方へ相談したりしました。実際に書いてからわかることですが、この計画書作成には特に時間をかけて取り組まれることを勧めます。日常業務で抱えていた抽象的な問題意識を具体的に文章化することで改めて明確になるとともに、その問題を解決するために学ぶのだという、自分の気持ちを確認するよい機会にもなりました。そして、できれば他の人にも見てもらったほうが客観的な内容になり、広い視点からのアプローチにつながると思います。このように、願書提出に必要な準備をしていくことで、「受験する」という実感が少しずつ湧いていったように思います。
ちなみに、私は研究計画書の仕上げに時間がかかり、願書提出締切日の前日20時まで研究計画書を修正していました(前々日までは北海道へ家族旅行していました:笑)。21時頃に電車に乗って神戸中央郵便局へ行き、夜間窓口で願書を提出しました。受験を考えておられる皆さまにおかれましては、ぜひとも提出までに余裕あるスケジュールを立てて取り組んでください。
受験勉強としては、過去の入試問題を時間制限なしで何度か解いたくらいです。そして、経営学に関する受験準備としての事前勉強も特にしておりません(研究計画書を作成するうえで経営学に関連する書籍を読んだ程度です)。英語は、年によって難易度に差があるように感じました。わからないところは辞書で調べながら、全ての文章を訳したうえで設問を解きました。なお、英和辞書は1冊持ち込み可でしたので、本番当日も持参し、わからない単語はいくつか調べました。
また、英語・小論文ともに、最近の時事に関することが問題に取り上げられるため、春以降の気になるニュースの読み直しもしました。なお、私は1月が受験日でしたが、前月の12月のニュース記事(日産ゴーンの金融商品取引法違反の容疑に関するもの)が取り上げられましたので、受験直前まで社会動向を注視されることをお勧めします(受験ギリギリまで先生方が設問設定を協議・検討されているということに驚きました)。さらに、私は願書を提出してから受験当日までのあいだに、参考図書に挙げた『人生を変えるMBA』を購入しましたが、何人かの同級生に聞いてみると願書提出前に読んでいた人が多かったです。神戸大学のMBAの雰囲気が非常にわかりやすく記載されており、また執筆された先生方のうち講義で顔を合わせる機会も多いため、入学後にもリアルに楽しめる書籍だと思います。
受験当日でお伝えしたいのは、一次試験・二次試験とも「防寒対策を入念に」ということです。六甲台キャンパスの立地、および、試験会場となるであろう本館の建物では、下界よりも寒く、かつ、底冷えがします。マフラーや手袋はもちろん必須で,ダウンなどの上着を着たまま受験している人も少なくなかったように思います。あわせて、温かいお茶などを入れた水筒も持参されると良いです。
二次試験では面接に呼ばれるまで1時間以上待ち時間がありました。最初のうちは研究計画書などを見直したり想定質問に答える練習をしていましたが、すぐに飽きてしまい、後ろのほうの席から受験生と控室担当の大学事務の方の人間観察をしていたことを思い出します。面接室へ入室後は、2名の試験官から研究計画書や業務内容、入学動機などに関する質問が約10分間あります。事前に応えられるように準備することはもちろんですが、難しい質問については「理解できていません」と真摯に認める姿勢も大切だと思います。
入学して
入学して感じたのは、授業にかじりつく大変さや知らなかったことを知るという面白さもありますが、様々な職業・年齢の、個性豊かでエネルギッシュな同級生たちと出会えたことが想定外だったことです。また、私たち2019年入学では女性の方が19名(入学者の約3割)と例年よりも多く、アットホームな雰囲気でもありました。最初の頃は、互いに緊張しながら文字通り講義とレポートに追われて駆け抜けるように過ぎていきましたが、同級生による学内レストラン「さくら」での懇親会やケースプロジェクト研究・テーマプロジェクト研究を通じたチームとの深い関係性により、MBA学習生活の苦楽を共にし切磋琢磨しつつ救いの手を出してくれるアツい同級生に何度も助けられました。
国内における新型コロナウイルス流行の兆しが見られる前の2月上旬には、英国産業事情応用研究(RST2019)の一環で、同級生約20人と渡英しました。出発当日のヒースロー空港付近のストームの影響で、ほとんどの航空便の出発が大幅に遅延する波乱の幕開けでした。そのせいか、メンバーの一体感は格別なものとなり、旅程全てが大変心に刻まれる思い出です。そして、2月下旬からは新型コロナウイルス流行の影響を考慮して、遠隔講義および遠隔ゼミ開催へ変更となりました。そのため、同期全員が揃うようなこともなくなり、学生生活も残り3か月しかないという寂しさを感じています。そのかわりに、今はゼミでの研究の面白さを実感しています。受験のきっかけとなった自分の問題意識について、第一線の先生方のご指導のもと、目から鱗が落ちるような先行研究に出会いながら研究できることと、研究結果を職場へ持ち帰り応用することができる可能性があることに、ワクワクしているからだと思います。
最後に
私には家内と幼稚園に入園した息子がおり、家内は病院で医療従事者として働いています。そのため、土曜日は私が優先的に通学するために家内は休日を取るかたわら、日曜は家内が仕事になる場合が多く、息子と公園で遊んだり一緒に食事を作ったりします。コロナの影響がないときには、息子と一緒に大学へ出かけたり(七夕祭にも参加しました)、ケースで一緒だったメンバーのお宅へ遊びに行き、メンバーにかわいがってもらうこともありました。平日2人とも働く日には朝食と幼稚園送りは私が担当なので、レポートで追い込まれているときには徹夜することも何度かありましたが、今思えばうれしい悲鳴だったと笑い話の1つです。
受験を考えている皆さんも、日々それぞれの制約があるなかで学びたいと志や興味を持たれていると思います。何事も前向きに考えて、ひとまず挑戦してみてはいかがでしょうか?
参考図書
- 『ゼミナール経営学入門 第3版』、加護野忠男・伊丹敬之著、2003、日本経済新聞出版社
- 『国内MBA研究計画書の書き方』、飯野一・佐々木信吾著、2003、中央経済社
- 『人生を変えるMBA』、神戸大学専門職大学院(MBA)、2015、有斐閣