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市場の二面性(two-sided market)

丸山雅祥

李白の詩、「五陵の年少、金市の東、銀鞍白馬、春風を度(わた)る」には、当時の「市」の賑わいが実に鮮やかに描かれています。金市というのは、唐の長安に設けられた西市を指し、そこでは胡の国(西域、イランなど)からもたらされた胡椒、胡麻、胡瓜など、珍しい商品が取引され、市の東には胡弓などを奏でる歓楽街が栄えていたということです。現代の日本ではどうでしょう。都心の商店街が、軒並み空き店舗の増加でわびしい姿をさらしている一方で、ネット上のショッピング・モールは華やかな賑わいを見せています。

「買い手がたくさん集まる場には、多くの売り手が集まり、多くの売り手が集まる場には、多くの買い手が集まる」。古今東西、「市・場」が賑わう場合も衰退する場合にも、そこに働いているは、この「市場の二面性」という相乗効果です。実は、「市場の二面性」(two-sided market)というキーワードが、近年、産業組織論の研究者の中で一躍、注目を浴び、「プラットフォーム」という言葉と対になって多数の論文が生まれ、新たな研究領域が急速に拡大しています。

プラットフォームとは、周知のように駅で乗客が列車に乗り降りするために設けられた台のことで、なかには大都会の駅に見られるように、様々な列車がひっきりなしにそこに乗り入れ、多数のお客が行き来するものもあれば、田舎の無人駅において密かに存在しているものもあります。この意味が転じて、IT用語では、アプリケーション・ソフトを起動する際の基盤となるOSの種類や環境、設定のことをプラットフォームと呼ぶようになり、自動車の分野では、ボディ設計の基本部分(車台)のことをプラットフォームとも呼んでいます。そうした最近の議論を要約すると、「プラットフォームとは、複数の階層(レイヤー)あるいは補完的な要素(コンポーネント)で構成される産業やシステム商品において、他の階層や要素を規定している下位構造(基盤)」という広い意味で使われています。また、「市場の二面性(あるいは多面性)とは、あるプラットフォームを基盤としている複数の異なるレイヤーや補完的な要素について、それらが市場で取引される際に働く相乗効果のこと」だといえるでしょう。

市場の二面性は多くの分野に見られます。普及しているゲーム機向けには、様々なゲームソフトが開発され、ソフトの豊富さがゲーム機の一層の普及につながります。多くの人々が使っているクレジットカードには、その利用を認める店舗が増え、多くの店舗で使えることがそのカードの普及につながります。多くの購読者がいるメディアには多くの広告が掲載され、広告収入によってメディアの購読料が下がると、ますます購読者の数が増加します。商店街やネットのモール・ビジネスにも、この論理が働いています。ただし、市場の二面性がプラスの方向でうまく機能するように、ネット上のモールを運営する企業はさまざまな工夫を試みています。また、商店街の中にも、ふたつのプラットフォーム(商店街とネット)をマルチ・ホーミングして、クリック・アンド・モルタルで頑張っているお店が結構あることも無視するわけにはいきません。

 
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