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消費者参加型製品開発

小川進

90年代中ごろ以降、インターネットの普及に伴い見られるようになった製品開発の方法に消費者参加型開発があります。それは、ネットを使えば、消費者と直接対話できるという特長を活かし、製品コンセプトの創造や仕様決定の段階で消費者に参加してもらうというものです。消費者は、生活上の問題や製品アイデアを提示したり、複数の製品案に対して自分の好みを投票する、あるいは実際に購入予約をするという形で製品開発に参加します。

消費者が製品開発に参加する程度は様々です。単に開発会議に招待されて意見を述べるというものもあれば、具体的な製品仕様を提案する、試作品を提示するといったものもあります。

そうした中、最近では消費者参加型製品開発を仕組みとして事業化している会社も登場してきています。その会社の代表として空想生活(http://www.cuusoo.com/)というサイトを運営するエレファントデザインを挙げることができます。

エレファントデザインの仕組みでは、(1)消費者からの問題、ニーズの提示(2)それらに対するエレファントデザイン側からの具体的な複数の製品デザインの提示(3)それらデザイン案に対する消費者の投票(4)最終製品案に対する購入予約の募集、といった流れで製品開発が進んでいきます。最終的には、生産者が利益を確保できる必要最少ロット数に予約数が達すれば、製品案が実現されることになります。

この仕組みをエレファントデザインと提携することで導入し、成功した会社としては無印良品の名前で知られている良品計画を挙げることができます(http://www.muji.net/)。そこで開発された製品としては、例えば、コードレスで持ち運びができる照明器具の「持ち運びができるあかり」、中味に微粒子の発泡ビーズを使い、体へのフィット感を出した「体にフィットするソファ」、装着後取り除いても壁にピン痕がほとんど残らない多機能棚の「壁棚」があります。それら製品はマーケティングの教科書に出てくる典型的な製品開発手法によるものよりも2.7倍から78.4倍の売上高を実現していることが報告されています。

もちろん、何の資源、何の仕組み上の工夫もなく、そうしたことが可能になるわけではありません。まず、この方法の潜在力を引き出すにはいくつかの経営資源の存在が必要になります。現時点では、(1)生産ノウハウと生産受入メーカーとのネットワーク(2)開発された商品を販売する巨大な実店舗網(3)開発主体が展開するブランドに対する大規模な消費者コミュニティの存在、などがこの手法での成功を促進すると考えられています。

次に仕組み的にも、この手法で高い販売成果を上げるには、次のような工夫を加えることが必要になると言われています。つまり、(1)ユーザーの会員登録(2)投票制度を通じたROM(サイトを閲覧するのみの者)のRAM(サイトに書き込みを行う者)化(3)開発過程の積極的開示(4)実店頭購入者を主要ターゲットとする商品企画(5)開発過程の計画化(6)先行予約者に対するインセンティブの提供、です。

このようにいくつかの成功事例が報告されている消費者参加型開発ですが、大企業ほどこの方法が受け入れられないという現象が起こっています。それは、(1)開発された製品の売上規模が社内で評価されるほど大きなものになる場合が少ないこと、(2)開発が成功した場合でも開発担当者ではなくアイデアを出した消費者の方が評価されること、などのためです。こうした問題を克服するには、製品開発担当者の「消費者より自分の方が製品について知っている」という思い込みや「消費者の言いなりになるのをよしとしない」考え方を改める必要があります。また消費者参加型開発を実践する開発担当者に対する社内評価の方法も変えていかなければならないでしょう。

いずれにしても消費者参加型開発は発展途上の方法です。その潜在力の大きさやそれを引き出す具体的な手法については残念ながら未だ明快な見通しが得られていません。それらを明らかにしていくのが我々研究者の今後の課題だと言えるでしょう(ご興味のある方は拙著『競争的共創論』白桃書房をご覧ください)。

 
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