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会計基準の国際的コンバージェンス

桜井久勝

コンバージェンスとは「収斂(しゅうれん)」という意味であり、ここでは世界の国々で多様な利益計算のルールを、できるだけ統一して1つに集約することを意味しています。2002年にEUが投じた一石を契機として、企業の業績測定を左右する会計基準を国際的に統合しようとする動きがますます加速しています。日本のビジネス界では、これを企業会計を通じた新たな外圧と受け止める意見もあるほどです。

企業の国際活動が輸出入から海外子会社での現地生産へ、さらには海外証券市場への上場やそこでの資金調達へと、ますます拡大していくのに対し、企業の利益測定や財務報告を左右する会計制度は、国ごとに異なっています。この現状に対して、資本の国際交流を促進する観点から、投資家が他国の企業の業績を適切に理解し相互比較できるよう、会計制度の国際的な統一が求められてきました。
 
これに応えて各国の会計士協会が結集して1973年から制定を開始したのが「国際会計基準」です。当初この会計基準は、各国のルールを並列的に是認する姿勢をとり、実際の採用企業も少数でした。しかし2001年に改組されてからは並列的な是認をやめ、1つの取引には1つの会計処理だけを認める方針に転換し、また制定するルールも「国際財務報告基準」へと名称変更しました。
 
この会計基準の国際的な普及を加速したのは、2002年にヨーロッパで行われた重大な決定です。EU加盟各国の投資者が財務諸表を利用する場合の利便性を高めるために、EU域内の上場企業に対して、2005年からこの会計基準に準拠した連結財務諸表を作成・公表するよう、EUが要求したのです。しかもこの要求は、アメリカや日本など、EU域外からの上場企業へも拡大して、現在のところ2009年から適用することが予定されています。ただしEUは、国際会計基準と同等の高い品質の会計基準を有する可能性がある国として、アメリカ・日本・カナダを挙げ、同等性が認められればその外国基準を採用する外国企業もEUで上場できる道を残しました。

他方、圧倒的に大きな経済力を有するアメリカは、アメリカの会計基準に準拠した財務諸表を作成したり補足しない限り、外国企業によるアメリカの証券市場での上場や資金調達を認めていません。この現状に関してEUはアメリカに対して積極的に働きかけた結果、EU域内企業が国際会計基準に準拠して作成した財務諸表をアメリカ市場でも補足情報の追加なしに通用させることをめざして、相互の会計基準のコンバージェンスを促進することで、2002年にアメリカと合意に達しました。
 
このプロジェクトが進行して米欧のコンバージェンスが完了すると、日本基準で作成された日本企業の財務諸表は米欧の市場で通用しなくなってしまいます。事実、EUの決定に対して、アメリカと日本以外の国々は、自国企業に国際会計基準を採用させる道を選びました。もし日本もそうせざるをえなくなると、日本企業の業績を測定するための会計基準を日本みずからが決定できなくなるわけですから、国家の主権や国益にかかわる重大な事態だといわざるをえません。
 
しかし幸いなことに、EUは日本基準が若干の相違点を残して、国際会計基準と同等の品質を具備する可能性が高いと認定し、2005年から日欧間のコンバージェンスに向けた作業を開始しました。また日米間でも2006年5月から同等の協議が開始されています。
 
これに呼応して、2006年6月と7月には日本国内で重要な意見表明や政策決定が行われています。6月には日本経済団体連合会が、米欧とのコンバージェンスを加速して会計基準の相互承認を求める意見書を出しました。7月には日本政府が閣議決定で、会計基準の国際的なコンバージェンスを推進する方針を打ち出し、金融庁の企業会計審議会も同内容の意見書を公表しています。
 
かくして日本の会計基準は、国際会計基準やアメリカの会計基準と同等の高い品質の確保と維持を通じた国際的コンバージェンスへの道を歩み始めました。会計基準の制定に関する国家主権や国益を守るうえで、これは賢明な選択であったと思われます。しかし日本の会計基準は、いくつかの重要な点で米欧のそれと相違しており、今後の議論の展開方向に関心がもたれるところです。

 
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