河井 嶺男さん
沢井製薬 勤務
1 . プロフィールをお聞かせ下さい。
2016年度入学の河井嶺男(かわいみねお)です。私は、2007年に薬学研究科修士課程修了後、沢井製薬に入社し製剤研究部にて7種類ほど製品を開発し、学会発表や特許申請を行ってきました。その後、2011年1月に現在の開発部に異動し、新規開発製品のコンセプト作りやプロジェクトの事業性評価取りまとめなどを行っています。
2 .なぜ神戸大学のMBAを選択されましたか?
2014年1月、私に転機が訪れました。それまで研究職でモノづくりに携わってきた私が、企画という製品コンセプトの確立、プロジェクトの事業性評価の実施といった製品開発のマネジメントを行う立場になりました。
製品のコンセプト作りにはニーズに対する情報収集力や提案力「マーケティング」が必要です。事業性評価にはヒト・モノ・カネの流れを理解し、NPV等の文字や数字の意味を正確に理解すること「ファイナンス」が重要です。これまで、顧客ニーズやNPVという言葉を全く使用すること無く眼の前のテーマに対応していた私が、費用、労力の配分といった制約条件をクリアし、研究者と医療関係者の方や患者さんの間にWin-Winの関係が成立するコンセプトを提案しなければならなくなりました。
ヒト・モノ・カネといった制約条件とその流れ、供給したいサービスの関係性を体系的に学ぶ必要があり、色々調べていた中で辿り着いた場所がMBAです。この気付きをきっかけにMBA関連のセミナーや、神戸大学のセミナーに参加してみることにしました。その中で、「種々の束縛条件下で解決策を探る」(松尾博文先生のオペレーションズマネジメント:入学後一番興味深かった授業)という公開授業を聴講した際に、「これだ!」「ここは自分にとって一番必要な能力を高められる場所だ!」と感じ、こういった考え方、知識を会社に持ち帰って製品開発プロジェクトに活用したいと考えるようになりました。また、経営に関する本を読んでいく中で、学生時代に買っていた「踊る大捜査線に学ぶ組織論入門」の著者が、金井壽宏先生であったことに気付きました。更に、丁度その頃、百田尚樹氏の「海賊とよばれた男」を読んでおり、この本のモデルとなった出光興産の創業者出光佐三氏が、神戸大学の出身であったことも知り、「これは何か神戸大学に縁があるに違いない。」そう確信し、受験するに至りました。
3 .MBAに在籍されて、今現在の1週間のスケジュールを教えて下さい。
これを書いている2017年6月の時点で、M2の授業はほぼ終了しており、基本的には土曜日のゼミだけになっています。私達のゼミは毎週土曜日にあるため、平日にゼミの準備(修士論文の作成)、土曜日に大学において先生・TAさんを含めたメンバーでディスカッション、日曜日は家族と過ごす、という一週間です。
具体的には、平日は、定時頃に出社し、19時頃に退社することを心がけています。20時から家族でご飯を食べて、娘とお風呂に入る(いつもシャワーをかけると号泣されます)のが私の役目です。22時半くらいから自分の時間になるので、そこからどれだけ頑張れるかで、成果が変わってきます。調子の良い時は、3時過ぎまで頑張っていることもありますが、大体は2時頃に寝ています。元々6時間は寝ないとパフォーマンスが出ない体質ということもありますが、M1の頃と比較すると、効率的になったのか、サボっているのか、少し寝る時間は多くなったかもしれません。
土曜日は午後からゼミですので、午前は自習室にいるか、家で資料を纏めています。そして日曜日は22時頃までは家族と一緒に過ごしています。先輩方でも日曜日はそうやって過ごされている方が多いようです。また人によっては会社の昼休みにも課題などをこなされている方がいらっしゃいますが、私はPower Nap、30分弱のお昼寝タイムです。これで、睡眠不足をカバーしています。
4.ゼミではどのようなことを学ばれていますか?また、専門職学位論文に向けて現在どのような研究に取り組まれていますか?
会計学がご専門の音川和久先生のゼミに所属し、「薬剤師の購買行動」というテーマで研究に取り組んでいます。このゼミの特徴は医療関係者が多いことで、2名のお医者さんを含め、医療機器・医薬品などでその半数が占められています。また、会計からイノベーション、人材、マーケティングなど様々なテーマで各自が修士論文を書いており、幅広い内容で授業の復習・知識習得ができているように感じます。
私の修士論文はマーケティング領域になるのですが、与えられた課題をこなすM1の時と比較すると、授業で習ったこと以外にも文献などを読まなければ理解できないことも多く、目に見える形で1週間何も進捗していないと精神的にも不安定になりがちです。しかし、音川先生の「全員野球」のスローガンのもと、皆で助け合いながら、前へ進んでいます。有り難いことに、他のゼミと比較してもMBA生同士のディスカッションが活発なようで、ここでも広い視点からの意見を貰っています。
5 .神戸大学に入学してから、今までを振り返ってどのような感想をお持ちでしょうか。
私は、入学ガイダンス時の同級生を見て、その雰囲気と発言に圧倒され、来る場所を間違ったと思っていました。しかし、今振り返るとこれほど素晴らしい環境は他にはなかったと考えています。私のリソースが大きく変わったことを、いわゆるヒト・モノ・カネ・情報という資源から書いてみます。
まず、モノという観点で見れば、本棚に入らない量の本。大学に入る前に6段もある本棚を準備していたのですが、今は机や床にまで本の海になっており、いつ片付けをしようか悩んでいるところです。しかし、これらは、修士論文を書くにあたり、再度読み返すことで、授業を思い出すとともに、新しい気付きが多く、更なる学習意欲を高めてくれるものです。今後の社会生活においても、困ったときにここに戻れば良い、という指針を与えてくれています。
情報という点では、MBAで学んだのだから、経営学の知識が一通り頭に入っていて当然なのかもしれませんが、製造業で言う企画段階から営業までを一気通貫で話をすることは通常はあり得ない環境のものです。同じ製造業でも、業種が変われば常識が変わります。それは頭では分かっていてもクラスメートの口から聞くことで納得いく情報になったことは数知れません。
カネの観点では、金曜日、土曜日の飲み会と先に挙げた本代、加えてRSTプログラム(日本研修・UK研修)によるイギリス渡航費用などで、かなり必要にはなりました。ただし、厚生労働省の教育訓練給付金のシステムもあるので、ハードルはかなり低くなっていると思います。もちろん、払った金額を超える価値が十分にあります。
最後にヒトの観点です。MBAを修了された方々がみな総じてMBAで得た素晴らしいものは何かと問われた際に「クラスメートやヒト」と答えるのは、何故なんだろうと考えていたのですが、それが今になって、よく分かってきました。
まず、神戸大学には素晴らしい先生方がいらっしゃいます。授業を受けた先生方は豊富な知識があるにも関わらずさらに学ぼうとする思いが深く、MBA生の意見を解釈した上でご自分のものにしようとされていることを多く感じました。
次に、クラスメートです。私の場合は、先に挙げたRSTや学内でのTEDカンファレンスのようなプレゼンセッション、JBCC(ビジネススクールのケースコンペティション)など、ほぼ全てのイベントに運営側や参加者として関わってきました。MBA生が主体で進めるプロジェクトは運営側であっても参加側であっても本当に面白く、クラスメートの発想力の豊かさと意見の内容に視野の広さを感じるばかりです。お互いの意見を尊重しながら、ごく僅かな時間で極めて深く、時に情熱的な内容に、時に大爆笑する内容になるのが本当に魅力です。
特にプロジェクト方式のメンバーが素晴らしく、このメンバーとは、一生関わっていくつもりです。いつもSNS上でディスカッションが行われており、「研究と営業のコンフリクト」や、「土佐勤王党にみるリーダーシップ」、「上司・他部署との折衝」、「ファミリーマネジメント」など、テーマはどれも実務家が知っておいて損のないものばかりです。社内では聞けないことや、聞いても核心に迫ることができない内容が社外では聞けるのです。しかも理想像と現実のギャップ、失敗例が分かるのは、こういった社外ネットワークを作ることができたMBAの場があってこそです。修士論文についてもこのメンバーでゼミの枠を超えて合宿や勉強会を行うことによってモヤモヤしている内容がクリアになる素晴らしい場を提供してもらっています。
6 .今後のキャリアプランについてお聞かせ下さい。
現在私は開発部企画グループに所属し、4年目になりました。神戸大学で得た知識を利用できる場合はうまく利用しながら業務を進め、今後どのようなキャリアを歩んでいくか考えている状況です。MBA入学前に2日程かかっていたある業務に関する報告書作成等が、1時間で完成するようになったことを見ても、非常に仕事の効率が良くなりました。従って、これまで手を付けられなかった事も対応する時間ができ、これまで社内で取り組めていなかった新しいことを少しずつ始めながら、自分の強みをさらに伸ばすには何が必要なのかを考えています。
このままこの部署で歩んでいくとすれば、医療機関と医薬品の価値をともに創ることができる体制を構築し、現在の製品コンセプト確立業務とは異なった方法で、より患者さん指向の製品開発に携わっていこうと考えています。
例えば、現在よりも飲みやすく扱いやすい薬を創り、患者さんに治療に積極的に参加してもらい、飲み忘れや飲めずに残った残薬の問題を含めた医療費の削減や、健康寿命の延伸に繋げていきたいと考えています。
7 .残りの学生生活に関して、どのような希望をお持ちでしょうか。
修士論文は、早く書き上げたいと思いますが、素晴らしい同級生と話す機会が減るという点では、まだまだ修了したくない思いです。1つ1つのイベント(飲み会なども含めて)大事にし、これまで触れ合う時間の少なかったクラスメートとも密接に関わっていきたいと思っています。入学前には全く内容を知らなかった、組織や人材、会計などに授業を通じて興味が生まれ、意外と良い成績を取ることができました。神戸大学のリソースを活用できる期間が残りわずかとなってしまいましたが、これらの分野に対する興味を大事にしながら、研究や会社での提案・改善などを行っていきたいと思います。
最後になりますが、仕事をしながらも大学で学ぶことができるのは、会社の方々と家族、クラスメートのフォローがあってのことです。この場を借りて感謝申し上げます。