山口美希 さん
農業機械メーカ 勤務 2016年度修了生 内田ゼミ
1. プロフィールをお聞かせ下さい。
2015年度入学の山口美希です。出身は埼玉県、大学時代は北海道で畜産学を専攻し、農業に関わる職業をと農業機械メーカを就職先に選びました。入社当初は、農業機械の開発・設計に携わっておりましたが、現在はそれらの商品企画・マーケティングを担当しています。機械だけでなく、農作物である生物、そして農業機械を使われる農家のお客様、変化する農業市場と向き合わなければならない、やりがいのある仕事だと感じています。
神戸大学MBAでは、内田浩史教授にご指導いただき、農業機械開発における「顧客の声」に関しての研究を進め、学位論文を執筆致いたしました。
神戸大学のカリキュラムを修了した今、実は産休中です。ちょうどこの原稿がWEBに掲載される頃が出産予定日付近でしょうか。久しぶりの落ち着いた時間の中で、私にとって刺激的だった1年半のMBA生活を振り返ってみたいと思います。どうぞ、お付き合いくださいませ。
2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?
志望理由に関しては、いくつかの理由があり、ここではその一部をお話したいと思います。
私は、生物を専攻としてまいりましたので、作物を育てる中での苦労や工夫について、農家のお客様とお話するのが大好きです。しかし、いつごろからでしょうか、お客様との会話のなかで、「栽培」だけでなく、「経営」の話題が増えてきたように感じていました。農業機械に関する要望のヒアリングにおいても同様です。「技術」的な観点だけでなく、「経営」的な観点でそれらを語られる方も多くなりました。そうなると、農家と向き合う私たちも、機械や作物の知識だけでなく、経営的な視点を持ち合わせないと、真の要求を聴くことはできないのではないか、いつしかそう考えるようになりました。そのとき、「経営を学ぶ」という選択肢が私の中に浮かんできたのです。全国転勤の可能性があるなかで、学ぶ環境としては最適な近畿圏に居る今こそがそのチャンスであるように思えました。
神戸大学を選択したのは、神戸大学のMBAカリキュラムを修了した会社の先輩からの助言が大きく、セミナーに参加した感触も非常に良いものであったためです。また金曜日の講義が行われるインテリジェントラボラトリが、私が勤務するビルである梅田ゲートタワー内にあり、密かに運命的なものを感じたことも事実です(その通学時間約30秒)。
3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?
「経営を学ぶ」という意味では、達成できたのでしょう。ただし、ビジネス書や社内の研修で散在的に得ていた知識が系統立って整理できた、単に経営に関する知識が増えたということでしかありません。当初持っていた目的以上のものが、神戸大学MBAコースで得られたのです。
神戸大学での経験を例えるならば、自分という器のなかに、ただ水が満たされていくだけのものではありませんでした。その水は、受動的に与えられるのではなく、自分で水脈をたどってようやく得られるような貴重な水でした。また、器自身も変わっていき、変えられていく、そんな経験です。「経営を学ぶ」という動機で入学した自分が、まさか人生観やアイデンティティまで考えさせられて、変わっていくとは・・・思ってもいなかった収穫でした。
4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。
仕事と学生生活の両立について、私は恵まれていた方かもしれません。前述したように金曜日の講義が職場と同じビル内という地の利もありましたし、上司や同僚の理解、人事部門のバックアップもありました。私の所属する部署は出張が多いのですが、講義のある金曜日や土曜日になるべく影響しないように出張計画を組むことができたなど、様々な面で支えていただいたと思います。
また、家庭との両立に悩まれる方が多いのではないでしょうか。予習や復習に時間がとられる分、家事に割ける時間や家族と過ごす時間は少なくなります。土曜日は終日講義ですし、同級生とのディスカッションと称した飲み会は毎週のように・・・。この1年半は掃除機や洗濯機を触った回数は数回程度・・・。夫の協力なしには学生生活は成り立たなかったといっても過言ではありません。私の場合、最後の半年は妊娠期間と重複していましたが、こちらは幸いにも悪阻がほとんどなく、気分転換の晩酌ができずに悲しい思いをした程度でした(個人差がありますので、あまり参考にしないでください)。
実は、私にとって一番重要だったのは睡眠時間の確保です。過去の体験談を拝見すると、「睡眠時間を削ってやりきった」という方が多くいらっしゃいますが、私は逆でした。経験上睡眠時間を削ると体力的にも精神的にもパフォーマンスが下がることがわかっていましたので、「いかにして上質な睡眠を確保するか」が1年半の裏テーマとなったくらいです。これについては、「昼寝」が効果的であったことを記しておきます。課題などをこなしていると睡眠時間はどうしても短くなってしまいます。昼休みに20分間昼寝を組み込むことで、気分をリフレッシュさせていました。おすすめです。
5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。
時間を感じさせない、走り抜けるようなカリキュラムであったと思います。当時の私の日記には、「RPG(ロール・プレイング・ゲーム)のような日々だ」と書いてありました。講義を受けるたびに、課題をひとつ達成するたびに、レベルアップを感じさせるような計算されたカリキュラムです。そこに、同級生や教授との相互作用による味付けがなされて、自分だけの経験値となっていきます。RPGには仲間の存在が欠かせません。神戸大学MBAコースの一番の魅力は同級生である仲間の存在でしょう。70名近い同級生のそれぞれが独自のバックグラウンドを持って入学してきます。一人ひとりとの出会いが新鮮なものでした。彼らと協力し、時には意見をぶつけ合い、それぞれの価値観にふれ、教えられ、自分の世界は広がっていきます。そして、最後は自分自身の問題意識と向き合いながら研究を進める論文作成が待っているのです。論文執筆を主とする「ゼミ活動」については、後述しますが、非常に考えられた1年半のカリキュラムだと実感しました。
6.在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?
授業については、イノベーション関係の講義がどれも印象的でした(「イノベーション・マネジメント」、「テクノロジー・マネジメント」など)。ちょうど、農業界においても、自社においても、「イノベーション」の必要性が議論されている時期でしたので、講義で取り上げられたテーマやフレームワークを農業に当てはめて再考することで、より理解を深めることができた気がします。
また、「ゼミ活動」については、内田先生なしでは語れません。神戸大学MBAは、ゼミを担当される教授が各年度に5名いらっしゃいます。ゼミの所属については、学生の研究志望に応じて各ゼミに13~15名程度割り当てられます。内田先生の専門は「金融」、そして私の専門は「農業」、ましてや内田先生は初めてゼミを担当されることもあり事前情報などもなく、果たしてどのような指導になるのか、と期待と不安が交じり合った感情で初ゼミに臨んだ記憶があります。そして、神戸大学MBAの講義の大半がそうであったように、そんな感情はすぐに裏切られるのです。「顧客満足」に重点を置いた内田ゼミのカリキュラムは、思い返すと見事なものでした。統計処理や論文の書き方などテクニカルな部分の指導ももちろんですが、いかにして問題意識と向き合うのか、それは本当に自分の知りたいこと、得たいことなのかと、様々なアプローチで問いかけ、指導いただきました。他ゼミのOBを招いてのディスカッションやゼミ生同士のプレゼンも刺激のあるものでした。苦しいこともありましたが、どんどん自分のテーマにのめり込んでいき、そのたびに自分の問題意識が先鋭されていく感覚は得難い経験です。そのために、六甲駅のカフェで3時間も付き合わされた内田先生はさぞかし疲れたかと思いますが・・・。そして、それらを論文という形に仕上げるのに、最後の山があります。このときほど「文章で人に伝えること」の難しさを感じたことはありません。内田先生は、そんなつたない文章にも丁寧にコメントしてくださるのですが、「So what」、「For what」の嵐であり、卒業が遠のく夢を何度も見ました。しかし、私は私自身と向き合って苦しんでいるだけですが、内田先生はそれをゼミ生の数だけ同時期に抱えていたということになります。神戸大学MBAの教授陣の細やかさとタフさに畏怖さえも覚えます。もちろんそれを上回る感謝の念とともに。
それ以外にも、「プロジェクト研究」や「RST」など印象に残ったものはたくさんあります。それらについては、別の紹介ページが設けられていますので、参考にしてください。趣のある校舎や、朝まで過ごした自習室、何度も通った図書館など、場所にも思い出が詰まっています。もし、神戸大学に通われることになれば、同じような体験をされることでしょう。
7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?
変化というものは時間とともに徐々に感じられるものです。現時点で、感じている変化について、述べさせていただきます。
神戸大学に入学するまでは、自分優先の生活でした。大好きな農業に関わる仕事にやりがいを感じ、仕事を通じて自分を高めることができるのだと思っていました。しかし、仕事と大学の両立という忙しい日々のなか、業務の効率化や家事の分担、大学の仲間と行うプロジェクト・ゼミ活動などを通じて、「他者の存在」の重要性に気づきました。これが、自分にとっての大きな変化のひとつです。
また、とても個人的なことですが、「子供を産み、育てる」という思いに至ったことは、MBAがきっかけだったのかもしれません。妊娠・出産・育児の経験は貴重なものと聞きます。しかし、これまで連続して築いてきたキャリアを一旦ストップさせなければならないのも事実です。私にはなかなかその選択ができませんでした。しかし、「どうなるかわからないから、その選択をしない」というのは、とてももったいないことだと気がついたのです。このタイミングで神戸大学に通っていなかったら、仲間との出会いや、この経験や知識は私のなかには存在しなかったのですから。未知のものこそ自分にとってかけがえのないものとなる可能性がある、そう考えるようになりました。何を選び、何を選ばないかは人それぞれです。しかし、その選択ひとつひとつを意味のあるものにしたい、そう考えるとともに、次のステージに期待を膨らませつつある日々です。
8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
みなさんは、自分の人生をどのように過ごしたいと考えていますか?私は、どんなときにも、明るく前向きでありたいと思っています。そのために、「学ぶ」という刺激は重要なものでした。前に進むためには、常に知らない扉を開け続けなければなりません。今回、そうして開けた扉が、神戸大学MBAコースでした。今までは、「自分」が学ぶことに精一杯で、学んでいる他者を見ることがありませんでした。しかし、同じMBAコースで学んだ約70名の同級生を見て気がついたことがあります。学ぶ姿勢は、美しく、強く、優しく、魅力的であると。
「受験を考えている」ということは、すでに「学び」への一歩を踏み出していることです。その姿勢や気持ちを大事にしてください。学びの場は、もちろん大学だけではありませんが、私にとって、神戸大学MBAコースで得られたものが特別で、ほかでは得難いものであったことは事実です。みなさんの次の一歩が、神戸大学MBAに続いていることを願っています。