石倉一樹 さん

三菱日立パワーシステムズ株式会社 勤務 2017年度修了生 國部ゼミ

1. プロフィールをお聞かせ下さい。

私は、1998年に三菱重工業株式会社に入社して以来、発電プラントの輸出ビジネスに携わってきました。発電所を海外の電力会社に購入頂き、主要機器を製造、海外現地で建設工事を行い、その後のサービスメンテナンスまでを請け負う息の長い仕事になります。これまで受注営業、プロジェクト遂行、途上国での現地建設現場、海外駐在を経験し、2014年、三菱重工業の発電プラントの事業部門と日立製作所の同じく火力発電ビジネスの事業部門とが業務提携を行い、現在の三菱日立パワーシステムズ株式会社が発足したことを受け、現在、その本社海外営業部に所属しアジア市場を担当しています。

このように、これまで海外営業という立場で色々と経験をしてきていますが、輸出営業という同じ職種を継続してきていることが、続く志望動機や研究課題、神戸大学MBAでの学びへと繋がっていきます。

2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?

発電ビジネスは、GEやSiemens と言った欧米の競合企業がいるグローバルな業界です。時にビジネスモデルを大きく変えるアプローチをし、収益率も高い競合企業に対し、このままでいいのか、と、日々悪戦苦闘する中、焦燥感を感じていましたが、次の道をぼんやりながらも示してくれたのが、5年間のアメリカでの駐在期間でした。ワークスタイルは日本人とは異なり、合理的でスマートに考えるアメリカ人たちとの仕事や、普段のビジネスとは離れた方々と交流した日々が、多様な考え方を受け入れ、そこで日本人の良さや強みを味付けしていくことの重要性に気づかせてくれました。そして、過去、身近に神戸大学MBAや神戸大経営塾(企業向研修コース)の卒業生がいて、複眼的な視点でビジネスを捉える彼らの活躍を目にしていました。また、メーカー勤務ですので、周りにいるエンジニア達が世界最高技術を競いあっている中、営業として競合相手と呉していく知見を身につけたいとの思いもあり、関西勤務になった際には、ぜひ神戸大学で学びたいと考えるようになっていました。

3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?

難しい質問ですね。入学前は、本質的なことをあまり理解せず、どこか競合相手に勝つための答えを簡単に求めていたところがあったように思います。MBA に入り、多くのケースを掘り下げ、繋ぎ合わせて一段高いメタのレベルに上げ、もう一度、その有効性を実践の場で試してみるという思考を教授陣と同級生と繰り返すことで、より面白い世界があることに目を開かされました。そして、神戸大学MBAでの学問領域は多岐にわたり、夫々の分野に深いアカデミックな世界が広がっていました。その広がりと深さに刺激を受け、入学前に持っていた焦燥感がどんどんと好奇心に変わる中、私の中に新しい問題意識や課題が設定されることになりました。

私がいるエネルギー業界では、事業環境が大きく変わってきており、ハードメーカーがソフト技術をいかに取り入れるか、コンテンツを極めるのかプラットフォームを押さえるのか、機器売りを追求するのか事業投資を手がけるのか、職域の垣根、従来の枠組みがどんどんと取っ払われてきています。そのような中、一流の教授陣による幅の広く深みのある講義と、多種多様な企業で働きその道のプロである同級生たちから異なるアイデアをもらい、思考の広がりを持てたことは今後に向けて大きな財産になりました。そして、自分なりの仕事観を1年半かけて考え抜いたという意味において、入学時点での目的を大いに超えた達成感や感謝の想いがあります。

4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。

在学期間中、私は、兵庫県高砂市にある工場において、アジアで建設中のプロジェクトを遂行する部門のグループ長をしていました。グループ員は15名ほどおり、彼ら、彼女らと一緒に複数のプロジェクトを商務的な面から運営、サポートしていく部門になります。私の立場は、いわゆる、営業課長、中間管理職です。

私が、MBA受講を始めるに当たって、上司や先輩、グループのメンバーは、非常にサポーティブでした。ご自身たちも日々のプロジェクトを通じて、多様な学びの重要性を認識されており、金曜夜の授業への時間的な融通など、思い通りにして頂けました。

プライベートでは、MBA1年の夏に第三子が生まれましたので、在学中は妻に3人の子育ての多くを任せることになりました。1年半の間、土曜日は講義で家におらず、日曜日や長期休暇の多くの日も、インタビューに出かけるか、自習室でレポートを書くという状況が続き、家族には大変苦労をかけましたが、家族も理解を示し、サポートしてくれたことで乗り切れたように思います。卒業式の夜、妻から笑顔で「次は何にチャレンジをするの?」と言葉をかけてもらった時のことは忘れられません。

5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。

神戸大学MBAには、プロジェクト研究、ゼミ、そして各講義においても徹底的に討議・対話を通じて掘り下げが行われていくという特徴(伝統)があります。そこでは、全く事なるバックグラウンドを持つメンバーが集まり、自分の意見・意志を伝え、合意形成がなされていきます。同級生たちも、職場に戻れば、暗黙知も含めて言葉の通じる同質性の高い組織で活躍しているかもしれませんが、このグループ討議の場では、バックグラウンドの異なるメンバーの皆が納得し、結論に腹落ちするまで議論を重ねることが必要なりました。私は日系メーカー勤務ですが、70名の同級生の所属する業界は機械、製薬、金融、流通、スポーツ、サービス業などバラバラ、外資系企業やベンチャー企業で働く方、中小企業の社長、銀行員、医者、開発エンジニア、営業から企画・経理や人事までポジションも多種多様なメンバーであり、それぞれが問題意識を持ち込んで対話が行われ、時には仕事へのアドバイスもくれることになります。B to Bビジネスを手がける日本企業に所属する私に、外資系企業やB to C業界など畑違いの同級生たちから聞く話は、とても新鮮でした。そして、1年半、多くの同級生と対話や飲み会をしましたが、皆、自分の意志で来た人ばかりでしたので、非常にポジティブな空気があったように思います。

6.在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?

三品和広教授がリードされたシャープ株式会社を取り扱ったケースプロジェクト研究、松尾博文教授がリードされたテーマプロジェクト研究の学びを経て、國部克彦教授の指導による修士論文作成へとつながりました。この3つは苦労をした分、印象に残っています。

三品先生によるゼネラルマネジメントの講義で魂を揺さぶられる中始まったケースプロジェクトでは、当時ホンハイによる買収が決定しつつあったシャープ株式会社が取り上げられ、「いつシャープは道を誤ってしまったのか」というテーマを12チームに分かれ競い合いました。私たちは、最終的には、退職された方々へのインタビューまで辿り着き、彼らが未だに持つシャープへの想いを聞き、「心が折れた」タイミングに触れ、企業経営の内に秘める残酷さと、そのコインの裏側である経営判断の重要性と責任の重さに想いを馳せることとなりました。

続くテーマプロジェクトでは、チーム内にいた中小企業副社長の悩みに皆で共感し、「中小企業における事業承継」をテーマに選びました。先ず、加護野忠男先生にお話を聞きに行きましたが、「寝室に入る覚悟がいるよ」と言われたこのテーマは、本当にディープな世界でした。多くの経営者の方と会い、会社員には抱えきれない彼らの悩みの数々を聞きました。事業承継とは、企業経営者の多くにとってその生涯をかけ育ててきた企業を次世代へ繋いでいく営みであり、家族や親子という根源的な生き様、経営者や後継者たちの世代交代への悩みを聞き、何度も話し悩んだ半年だったように思います。プロジェクト発表を終えた夜、チームメンバーで飲みに行き、経営者の愛憎入り乱れるテーマを振り返りながら、自分たちの家族や子供たちについて語り合いました。皆、家族の時間を犠牲にしながらMBAに通っていただけに、いい大人たちが本音で仕事と家族について語り合うセンチメンタルな夜になりましたが、MBAを振り返っても忘れることが出来ない思い出の一つです。

カリキュラムが進む中で、國部先生によるゼミも始まりました。論文のテーマを絞り込む初期段階では、ゼミメンバーがそれぞれ古典を選び、発表するというユニークな授業もありました。國部先生には、新しい論文を読むとその内容に毎回影響を受けてしまい、都度脱線してしまう私を丁寧かつ分かりやすい説明で導いて頂き、また、副担当をして頂いた三矢裕教授からは、「棺桶に入れることができる論文を作って」「抽象化するには、まず具体で深く潜るしかないよ」と何度も励まされながら、考え抜くことにトライしました。think differentlyが國部先生のモットーの一つであり、テーマをより一歩でも深いところへ、そして、論理的に解きほぐそうとしたことで、自分なりに今後の道標を作れたように感じています。

「なんとか競合相手への勝ち方を知りたい」と志望したMBAでしたが、たどり着いたことは、環境変化に臨機応変に対応しつつ、唯一無二の地位を確立していくためには、まず自分自身と自社を深く見つめ直し、そして、相手だけではなく、いかにして顧客やその先にある社会と繋がっていくかを深く考え抜くということだったように思います。

7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

私は、神戸大学MBAの特徴の一つである「経営学と実践の場との知の往復」として、学んだことを自身の職場で実際に試してみることが恩返しだと思っていました。

例えば、組織行動の講義などで学ぶモチベーション、リーダーシップ、コーチングなどは、実際のグループ運営に取り入れ、1 on 1 ミーティングを継続的に行いながら、メンバーとのフィードバックに活かしました。若い社員や他部門から来たメンバーは、それぞれに悩みや想いを持っていますが、MBAで得た知見や同級生とリーダーとしての悩みを共有したことは自身のチーム運営に効果があったと思います。私自身もそうですが、同じ職場に長くいると同質性が高くなり、個々人にステレオタイプ的な会話や評価をしがちに思います。ただし、実際には、年齢、性別、職歴、家庭の状況などで仕事への向き合い方は異なるという当たり前のことを、一段も二段も深いところから見つめ、会話できるようになったことはMBAで得たものだと思います。

また、経営戦略やマーケティングでの学びも実践の場に取り入れることにトライしています。私が勤めていた工場では、年間1万人近い来訪者がおり、ここで実際に工場を見学された方々には感銘を受けて頂くという経験を何度もしていました。そこで、「工場に来たら契約率が高くなる」という仮説を立て、来訪と受注に関するデータを定量的に分析し相関関係を導き、その後、「工場に来たから購入を決めたのか」「購入を決めたから工場に来たのか」という因果関係を探るため、お客様にインタビューをするというアカデミアの手法を用いて分析を試みました。この活動は社内で評価され、社内発表会において金賞を獲得、現在はファクトリーブランディングとして、工場の周辺地域も巻き込みながら活動を継続させています。一連の活動では、デザイン思考、オペレーションマネジメントや事業創発、國部先生のご専門であるCSRの観点なども盛り込み進めています。この活動の良さの一つは、掘り下げる中、チームメンバーが工場の持つ価値を再発見できたことであり、これは、神戸大学での学びにヒントを得て実践と往復させたからこそ出来たのではと思います。

8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。
  1. 広範な講義、多士済々の教授陣、同級生との対話で複眼的な思考を得る。
  2. ビジネスの場に持って行ける実践につながるカリキュラムがある。
  3. この1、2を通じて、想像していたよりかなり深いところへ行ける。

かなと思います。まとめてしまうとあまり面白くないですね。

働き方改革、人生100年時代、オープンイノベーションなどなど、メディアにバズワードが乱れ飛んでいる中、一人で考えていてもなかなかすぐには正解が出ないこともあるように思います。神戸大学MBAには、熱い想いを持たれ、日本の産業界へ影響力を持つ多くのアカデミア出身、実業界出身双方の超一流の教授陣がおられ、そして、未来志向の友人たちが集まってきます。その中でもがきながらも友人たちと一緒に目線を上げて未来を見つめ考え抜いたことは、私にとってこれからの長い人生において貴重な経験になりました。

そして、これからの時代は、協調性も必要ですが、その上で個々人がうまく差別化していくことが大事なのではないか、また、異なる他者をうまく結びつけていく能力が強く求められるのではないか、と感じています。神戸大学MBAには、その個としての差別化(自分目線で言い換えれば自立化)や、他者を理解する能力を深めていくヒントがあったように思います。「MBAの講義内容がwebで視聴できる時代に、社会人が集まって学ぶ意味は何か?」と先生方が問われておられましたが、そこに神戸大学MBAの真の価値があるように思います。

もし、直感的に神戸大学MBAが面白そうだなと思われたら、そして、一度自分や自社の過去と未来を見つめライフプランを考えてみたいな、と思われるのであれば、神戸大学MBAの門を叩かれてみたらと思います。Apple社創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が言うconnecting the dotの世界観のように、「いずれ点は結ばれる」と自分の直感を信じ、思い切って一歩を踏み出せば、今までとは違った景色が見えるかもしれません。

1年半のMBAを終えた今、一緒に卒業した70人の同級生たちも同じように何か得るものを持ち、新たな挑戦に向かっているようで、先日同級生と会った際には、「MBA は終わっても、終わったわけじゃない」と言っていました。

神戸大学MBAは、そのような気持ちにさせてくれるところではないかなと思います。