渡邊幸代 さん

南海電気鉄道株式会社 勤務 2023年度修了生 黄磷ゼミ

1. プロフィールをお聞かせ下さい。

皆さま、こんにちは。渡邊幸代と申します。大学(文学部系)卒業後、アパレルメーカーに入社し、営業、商品企画、広報、お客様相談室などの業務を担当。2018年に南海電気鉄道に入社し、現在、ブランド統括部長として、南海グループの企業ブランド価値向上に資する戦略立案や施策の実行、グループのブランド管理、広告宣伝などを担当しています。また、沿線の堺市公園協会理事、堺・アセアン交流促進委員会の委員なども務めています。

2022年度に本学に入学し、黄ゼミで「地域密着型企業のコーポレートブランドのイメージ転換の成功要因」について研究。2023年9月に修了しました。

2. なぜ神戸大学MBAを選択されましたか?

アパレルメーカーでは、ブランドのMD(マーチャンダイザー)、コーポレートブランド再構築プロジェクトのPMOなどを務め、一貫して「ブランド」を担当してきました。しかし、鉄道会社という全く異なる業界へ転職し、「ブランド」が、メーカーと同じようには機能しない難しさを感じていました。さらに2020年からのコロナ禍で乗客が大きく減少し、鉄道会社の存在意義が揺らぎ、先の見えない情勢のなか、社内だけでは解決策が見いだせない苦しさを感じていました。

そんなとき、友人が神戸大学MBAを修了し、勧めてくれました。調べると、経営について広く学べることに加えて、プロジェクト研究や修士論文でアウトプットの機会が多い点に共感しました。オンラインで開催されていた「MBA公開セミナー」や「MBA体験フォーラム」にも参加し、教員や学生の方々の話を聞き、MBAの雰囲気を肌で感じたうえで、納得して神戸大学のMBAに入学を決めました。

3. 神戸大学MBAコースでご自身の目的が達成されましたか?

MBAでは各学生がそれぞれの職場の課題を持ち込み、アカデミックな視点から課題を検討することで、新たな視点やアプローチを得ることができます。私の場合も、修士論文の研究過程で、ブランドに関する論文を年代順に読むことで、マーケティングや経営学におけるブランド研究の変遷や、ブランドの多層性について理解が深まり、それまで感じていた難しさの根本原因を理解することができました。

さらに、MBAを通じて、様々な業界の人々とのネットワークが広がりました。同級生とは、プロジェクト研究やゼミでのディスカッションなど多くのハードワークを共有し、苦しい経験を共に乗り越えたことで、深い絆が生まれました。これは、単なる異業種交流会では得られないものです。また、修士論文のインタビュー対象者など、日頃の業務では出会うことのない人々と関係を築くことができたことも、大きな財産となっています。

4. 在学中のお仕事と学生生活の両立についてお聞かせ下さい。

家族には受験の段階で相談し、MBAに通っていることは職場のメンバーにも伝えていました。授業、レポート、プロジェクト研究のグループワークなど多忙を極めましたが、次の4つの点に気を付けました。(1)授業とレポート課題の締切日を基準に1週間のリズムをつくる(ルーティーン化する)。(2)レポート課題のケースや必読文献の読み込みは、スキマ時間を活用する。(3)在宅勤務やスライドワークなどの職場の制度を最大限活用する。(4)睡眠不足はアウトプットの質の低下につながるので、睡眠時間は何が何でも確保する。

いずれにしろ、家族と職場の理解とサポートがあってこそ。特に家族には非常に感謝しています。

5. 神戸大学MBAコースのカリキュラムはいかがでしたか?神戸大学MBAを受講してよかったと思うことはどのようなことでしょうか。

神戸大学MBAは、非常に良くデザインされたカリキュラムだと感じます。

コア科目を軸に専門科目が組まれていますが、それぞれが独立しながらも、相互に関連し合っており、開講の順序も理解が深まるように設計されていると感じました。後半の授業では、倫理、哲学的な内容にまで踏み込み、経営について深く考えさせられました。

また、入学前は、2万字にも及ぶ修士論文を書くことができるか不安がありましたが、プロジェクト研究から修士論文へと、自律的に研究できるようになっています。入学後すぐに始まる「ケースプロジェクト」は、あらかじめ対象企業とリサーチクエスチョンが与えられ、1年次後半の「テーマプロジェクト」は、チーム編成、取り上げるテーマ、対象企業も学生に任されます。チームで「リサーチクエスチョンとは何か」「良いリサーチクエスチョンとは何か」と格闘する日々でした。その後の修士論文には一人で取り組むことになりますが、2つのプロジェクト研究で培った研究手法や、リサーチクエスチョンの立て方が役に立ちます。修士論文はMBA生活の集大成でした。

6. 在学中、特に印象的な授業・イベント・出来事などはありましたか?

ケースプロジェクト、テーマプロジェクト、修士論文の執筆といった一連の研究活動はどれも印象深い思い出ですが、ここでは、他の方があまり触れていないRST(英国産業事情応用研究)について紹介したいと思います。

2022年度のRSTはWithコロナの2023年2月下旬の1週間、22名が参加し、3年ぶりに実施されました。英国クランフィールド大学MBAの教授や英国の起業家によるアントレプレナーシップに関する講義、MINIの工場や物流会社の物流センター見学など、様々なプログラムが用意されていました。

アントレプレナーシップの講義では、日本と英国のコンテクストの違いを強く感じました。英国では、リスクと失敗が価値を生むと考えられており、「失敗」は称賛の対象であり、「fail fast, fail cheap, fail forward」つまり、早く、安く、前向きに失敗し、組織内に共有することが評価されるとのことでした。同級生たちと行ったロンドンのパブで、店員がグラスを落として割ってしまうというハプニングに遭遇しました。日本なら店中がシーンとして店の人が謝罪するところですが、英国ではお客さまから拍手と口笛の嵐が。失敗は称賛の対象であるという文化を目の当たりにしました。

RSTでは6人の起業家の講演を聴講しましたが、「失敗」の捉え方だけでなく、「自分自身の人生の優先順位は、自身で決定する」という強い意志、「すべてを一人でしようとせず、他人に任せる、権限委譲する謙虚さ」などの姿勢にも感心しました。これらの要素は、ビジネスマンとして企業の中で働く私たちにとっても重要な視点であると感じました。

7. 神戸大学での学生生活を通じてご自身の変化などはありましたか?

神戸大学MBAでは、「ノウハウ」ではなく、課題を見つける、「問い」を立てる、といったエッセンシャルな能力を磨くことができると思います。これは、単に知識を蓄えるだけでなく、自分自身の持つ問題の本質について深く掘り下げて考え、真に解くべき問題を発見し、それに対する解決策を模索する力を養うということです。

私自身はまだまだ学びの途中であり、こうした力を身につけたとは言えませんが、「問い」の重要さに気づけたことは、私の思考の枠組みを大きく広げたと思います。これからもこの学びを生かして、社会に貢献できるよう努力していきたいと思います。

8. これから受験を考えているみなさんへのアドバイスをお願いします。

神戸大学MBAでは、知識やスキルを与えてもらえるわけではありません。職場で抱えている問題について、教員が解決してくれたり、解決策を教えてもらえたりするわけでもありません。自分自身で深く考え、「問い」を立て、解決策を模索することが必要です。

また、自分が他から吸収するだけではなく、他者にどんな点で貢献できるかも問われます。社会人がMBAで学ぶということは、多様な経験、背景を持つ仲間たちが互いに切磋琢磨し、成長し合うことでもあります。

皆さまの挑戦を、心からお待ちしています!

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