マーケティング戦略の「いろは」が詰まった最良の書
AI、VR、AR、5G、IoT、SDGs、Society5.0、クラウド、ビッグデータ、フィンテック、ブロックチェーン、デジタル・トランスフォーメーション・・・。世の中は、ビジネスに関するバズワード(流行語)で溢れかえっています。ビジネスの最新動向を知っておくことは重要ですが、「そんなバズワードをいくら覚えてみても、なんの役にも立たない」というのが私の考えです。
冒頭で挙げたバズワードは、木でいうところの「枝葉」に相当します。枝や葉は、成長・衰退のサイクルが早く、日々どんどん変化します。しかし、その枝葉を支える木の幹や根の変化はもっと緩やかです。ビジネスでも同じことが言えます。人間の行動原理、企業間の競争力学、経済の仕組みなどは、日々不連続的に変化するものではありません。移ろいやすい現象(枝葉の変化)を見て右往左往しないためにも、様々な現象を生み出す背後のメカニズム(幹や根の状態)をきちんと理解することが重要だと思います。要するに、どんな学問・実務領域であれ「基本が大切だ」ということです。
私が専門としているマーケティング論の基本は、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)です。これは、どのマーケティングの教科書でも必ず取り上げられるトピックであり、マーケティング戦略の幹や根に対応します。このSTPというフレームワークの有用性と破壊力を生き生きと描写した本に、三枝匡(2002)、『戦略プロフェッショナル:シェア逆転の企業変革ドラマ』(日経ビジネス人文庫)があります。そのストーリーは次のようなものです。
舞台は、とある製薬メーカー。今年、画期的な新製品を開発し、販売を開始した。その製品の顧客は病院である。当該製品カテゴリーにおける我が社のシェアは業界2番手であるが、その新製品のおかげで、業界ナンバーワンの地位を奪取するチャンスが訪れた。しかし、リーダー企業も同様の新製品を来年、市場化するという噂が入った。しかも我が社の営業部隊は20人しかいない。リーダーのシェアを奪うために与えられた猶予は1年。その間に、小規模な営業部隊で日本中の病院に営業を行わなければならない。
皆さんであれば、限られた営業部隊をどのように動かしますか。1年という時間的制約の中で、最大の成果を引き出し、リーダーの座を奪取するにはどうすれば良いでしょうか。「この難問を解く上で、STPほど有用なフレームワークは他にない!」というのが、本書のメッセージです。3時間くらいで読める本なので、是非読んでみてください。
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