組織はなぜ失敗する?合理性の落とし穴

中村 絵理

企業が失敗を経験するとき、それは無知で無能な誰かが非合理な行動を取ったせいだと思われることでしょう。しかし、組織は「有能な人々が合理的に行動を選択した結果」、失敗することがあります。これが合理性の落とし穴です。このことを詳しく解説した図書として、菊澤研宗(2000)『組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏み続けるのか』を紹介します。この図書はタイトルにもあるように、組織における意思決定の失敗を、日本陸軍の事例、とくにガダルカナル戦での失敗とインパール作戦での失敗に注目して分析しています。同書では、日本陸軍が「愚かだったから」失敗したわけではなく、合理的な意思決定をすることで失敗する要素が組織に内在していた、と説明しています。

組織の失敗を、「傲慢で無能な誰かの無謀な行動の結果である」と解釈し、勉強熱心で謙虚で慎重な自分には関係ない、と結論付けるのは簡単です。しかし、そういう「自分は合理的だと思っている・合理的であろうとする普通の人間」こそ陥りやすい罠、それが合理性の落とし穴です。人間の非合理性を完全になくすことはできません。ですが、「どのようなときにこの罠に陥りやすいか」を知っておくことで、組織において、社会において、より良い意思決定ができるのではないかと思います。

『組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏み続けるのか』を読んでさらに学びたい方には、菊澤研宗(2016)『組織の経済学入門』をおすすめします。菊澤先生は、人間の非合理性を前提とした新しい経済学である「新制度派組織の経済学」の分野で数多くの著書を執筆されています。同書は新制度派組織の経済学の代表的な理論である取引費用理論、エージェンシー理論、所有権理論について体系的に解説しています。教科書としても使用できる内容ですが、堅苦しくはなく、数式などを使わずに平易な説明がされているので読み物としても楽しく読める本です。

新制度派組織の経済学はとても実践的で、コーポレートガバナンスや組織構造の変革の際に頻繁に参考にされる理論です。アカデミックな研究材料としてだけでなく、実際の企業経営で起こる現象を説明するのに適しているので、多くの示唆が得られるのではないかと思います。

 

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